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初心者のための機動戦士ガンダム兵器解説『MS-09 ドム』

●開発経緯

 ジオン公国軍は地球侵攻作戦に向けて、地上戦用モビルスーツ“MS-07 グフ”を制式採用しましたが、MSの地上における移動力、展開力の低さに課題は残りました。

 MS-07に飛行能力を付与するプランもありましたが、技術的な問題から上手くいかず、結局は“要撃爆撃機ド・ダイYS”にMSを乗せて、輸送や空中戦を行うサブ・フライト・システム(SFS)を採用し、一定の解決を図ることになりました。

 しかし、人的資源の乏しいジオン公国にとって、別個に航空機パイロットを用意することは困難でした。そこでツィマット社はMS単体での移動力向上を実現し、地上戦用MSのシェアを獲得しようと奮闘しました。

 MS-07およびMS-07Hについて、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

●グフ試作実験機によるデータ収集

 ツィマット社はMS-07Bのライセンス生産を行っていました。つまり、開発元であるジオニック社にロイヤリティを支払うことで生産を行い、軍に納品していたわけです。

 そのMS-07Bをベースに新型MSのテストベッドとなる“MS-07C-5 グフ試作実験機”を開発しました。型式番号に関しては、軍部が便宜的に与えたもので、正式なものではありません。

 MS-07C-5はMS-07Bから固定武装をオミットし、シールドのみを残すことで汎用性を取り戻しています。そして、新たな近接格闘用兵装“ヒート・サーベル”を実験的に装備しています。

 さらに胴体部の動力パイプを内蔵し、耐弾性の向上が図られていたり、モノアイレールを十文字形に変更して、上下方向の視野拡大も行われています。

 そして、最も力を入れたのが新型推進システムの導入でした。背部スラスターと脚部補助推進エンジンを強化し、地上での機動性向上を図りました。

 このMS-07C-5は北米の試験場でテストが行われ、良好な試験データを得ることができたため、次のステップへ進むことになります。

 ちなみにMS-07C-5はあくまでもデータ収集が目的だったため、生産されたのは1機のみで、実戦には参加していません。

●プロトタイプ・ドムの完成

 ツィマット社はMS-07C-5の試験データを元に“YMS-09 プロトタイプ・ドム”の開発を進めていきました。

 当初は湿地帯や沼沢地にも突入できるように純粋なホバークラフトユニットの搭載が予定されていましたが、高効率の熱核ジェットエンジンの開発に成功したことから、主推進装置は熱核ロケットエンジンと熱核ジェットエンジンの複合ユニットが採用されることになりました。

 これは熱核ジェットエンジンで機体を浮上させ、熱核ロケットエンジンで推進するというもので、ホバークラフトとは原理が異なり、超低空飛行と呼ぶ方が正確かもしれません。これにより、従来のMSを凌駕する巡航速度を獲得しました。

 さらにホバー走行のメリットとしては、重力圏内で特に損耗しやすい脚部関節への負荷を軽減できるということもあります。

 また、安定したホバー走行による高速移動を実現するため、抵抗を受けやすいシールドはオミットされています。その分、装甲を厚くすることで補ったことから、機体が大型化し、重モビルスーツと呼ばれることになりました。

 その他にもボディユニットにブロック構造を導入することで、整備性の向上にも繋がっています。

 YMS-09は2機生産され、様々な試験を行った結果、制式採用が決定します。YMS-08の失敗を乗り越え、ツィマット社の念願が叶ったというわけです。

●連邦軍MSを大いに苦しめた名機

 U.C.0079年7月、“MS-09 ドム”が遂にロールアウトし、グラナダやキャリフォルニア・ベースにて量産が始まります。

 外装の形状に空力的な改修が施され、全体的に丸みを帯びた形状になったほか、頭部の動力パイプや脚部推進エンジンが内蔵されたり、バックパックと外部アンテナがオミットされたりといくつか変更点はありますが、基本的な構造はYMS-09とほとんど変わっていません。

 高出力ジェネレーターを搭載したことで、ビーム兵器の運用も検討されていましたが、十分な出力を得ることができなかったため、本来ビーム兵器を稼働させるためのエネルギー経路として設置された胸部の拡散ビーム砲は眩惑効果や威嚇、牽制用の短距離ビーム砲として、使用されることになりました。

 本機の高い機動力と重装甲はMSの配備が進んだ後の連邦軍でさえも大いに苦しめることになります。ビーム兵器を標準装備とした連邦軍MSでしたが、まだまだ黎明期ということもあり、生産性や収束率が悪く、特に地上戦においては実体弾を使用するマシンガンが主兵装であったため、本機の重装甲も厄介なものでした。

“MS-09 ドム”

●スペック

頭頂高:18.6m
本体重量:62.6t
全備重量:81.8t
ジェネレーター出力:1,269kW
スラスター総推力:58,200kg
装甲材質:超硬スチール合金
巡航速度:時速90km
最高速度:時速240km
主な搭乗者:黒い三連星ほか公国軍MSパイロット

●基本武装

○360mmジャイアント・バズ
 一年戦争当時、MS用携行兵装としては最大級の実体弾砲で、巡洋艦クラスであれば、一撃で撃沈させるほどの威力を誇ります。砲弾は後方の弾倉に10発装填されています。キャリフォルニア・ベース占領時に手に入れた戦艦用の360m砲弾およびその生産ラインを利用するため、H&L(ハニーウォール アンド ライセオン)社によって開発されました。基本的に両腕で保持しますが、本機は片腕でも取り回すことができるトルクを有しています。

○ヒート・サーベル
 白兵戦用の兵装で、サーベル部分が白熱化し、敵機を溶断します。発熱デバイスは高効率でエネルギーを熱に変換できますが、消耗が激しいため、基本的には使い捨てになっています。

○拡散ビーム砲
 胸部に装備された短距離ビーム砲です。十分な出力が得られず、眩惑効果や威嚇、牽制に使用されます。

“ヒート・サーベル”

●エースには不評?

 本機は大きな戦果を挙げたことで、様々なバリエーション機が開発されることになる名機として知られますが、本機を愛機としたエースパイロットは多くありません。それには理由があります。

 ひとつは、限定された地域での運用を前提とした局地戦用MSであるということです。密林や市街地、山岳といった障害物の多い地形では、小回りが利かず、その性能を最大限に発揮することが困難なのです。最も適した広く開けた土地は地球上にそう多くはなく、あったとしても人口の少ない戦略的価値の低い地域なのです。

 もうひとつは、その機体重量から垂直方向の動きを苦手とするという点です。水平方向の機動性は非常に高いのですが、運動性が低いため、動きが読まれやすいという弱点があります。かと言って、跳んでしまうと、あっさりと狙い撃たれてしまいます。当時の連邦軍のパイロットは総じて練度が低いため、大きな問題にはなりませんでしたが、エースパイロットたちは地を這うだけのMS-09よりも三次元的な動きを可能とするMS-07を評価したのです。

●本命は砂漠、熱帯地域

 本機の性能を最大限に発揮できるのは、広く開けた土地ですが、そのような土地は戦略的価値は低いと言いました。しかし、唯一戦略的価値の高い場所があります。それが激戦区となったアフリカ戦線です。

 2機生産されたYMS-09の内の1機は、砂漠や熱帯での運用に対応した“YMS-09D ドム・トロピカルテストタイプ”に改修され、発展型への礎となります。

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