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テンパの小話

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2019年5月の記事一覧

アイデンティティー in 関西

アイデンティティー in 関西

方言を喋られない。関西で育ったのだから、関西弁を喋られるのじゃないかとなるのだが、ところがどっこいそうは問屋が卸さない。こちとら九州と関東の両親から生まれたハイブリッドなんちゃって関西人であり、自分の言葉のアイデンティティに戸惑いがあるのだ。
関西弁を喋る親戚は一人もいないし、家の中では父の九州訛標準語と母の横浜弁で会話がなされ、幼少時の言語学習期にネイティブ関西弁話者と日常的に触れる機会が奪われ

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左側の視界

左側の視界

左の視界が限りなく狭い。左側の世界がかなりぼやけている。左に人が立っていたり、何かがあると、何だか落ち着かない気持ちとなる。断れる場合はできるだけ人には右側にいてもらうようにしているし、一人で席につくときはできるだけ壁が右側になるよう座る。
左目の視力が弱いことが分かったのは、小学校入学前の健康診断の時だった。左目がほとんど反応しない、左目でものをほとんど見ていないことが視力検査で判明した。念のた

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左京区

左京区

京都市左京区、この土地のことを想うと親愛の情が湧いてくる。長年育った土地にはシニカルな感覚しかないのにも関わらず、わずか数年しか住まなかった土地に対してそのような感情が湧いてくるのはいかがなものかと、訝しく思えてくる。
左京区には学生の頃3年ほど住んだ。最初は叡山電車の修学院と宝ヶ池のちょうど中間ほどに友人と3人で一軒家をシェアして住まい、その後は銀閣寺道からわき道に入った、風呂なしトイレキッチン

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故郷

故郷

ベッドタウンに住んでいる。日本にどこでもあるような、面白味もへったくれもないような土地だ。地方から移り住んだ人たちが住まう、同じような形の建て売り住宅と旧住宅公団の団地が並び、何もかもが均質的な地域だ。そうかと思えば、その地のネイティブ住人が住まう地域が広がっており、先ほどの地域とはまったく違った古いしきたりや催しが行われている。それらの地域は互いにつかず離れず、されど交わらず存在し、そんな新旧の

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天然パーマ

天然パーマ

身体の特徴は自己を規定する。などと難しくは言わないが、天然パーマーはかなり難儀なものだ。周囲の人間曰く、鳥の巣のようである。曰く、わかめが頭に張り付いている。曰く、膨らんだ植物のごとく、と。
今更、そんなことを気にするようなこともなくなった。いや、場合によっては、「え、それ天然なんですか?」などと言われ、人の期待を裏切ったある種の痛快さを覚える。それはあたかも、養殖と天然ではものが違いますから!、

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テンパという名前

テンパという名前

名前がいくつかあるのは便利なものだ。自分を一人の人格やら性格やらに規定して考える必要がなくなってくる。愛称、あだ名、ペンネーム。芸名に雅号、ありとあらゆるセカンドネーム、サードネームを持つことは可能だ。ただ自分で決めて、ある時は別人のように振る舞う自由を、自分に許すことができるのだ。
生まれ持った名前は、時において重々しく、肩がこってしまう。親の期待とか理想とか、そんなものがない交ぜとなった名前を

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