あなたが好きです。

あなたが好きです。

まだ寒さが厳しい2月。免許を持ってない僕は電車での通勤だ。駅の自販機でホットコーヒーを買う。混雑している上り電車を見ながら僕は下り電車に乗った。毎日決まった時間に決まった車両に乗ると、同じような顔を見ることが多い。僕より前に乗ってる人で髪の長い女性が少しだけ、ほんの少しだけ気になる。好きと言う気持ちがわからなくなってきていて、どうやって恋をはじめるんだったかわからなくなってきている。
その女性を、チラチラ見ながらそんなくだらないことを考えるのが日課になってきている。いつも有線のイヤホンをつけて教科書みたいな、本を読んでいる。実は隣に座ってみたこともある。隣に座ってわかったのは勉強をしていたようだってこと。ちらっとしか見れなかったが綺麗な紫のお花とかが描かれていた。僕にはさっぱりだけど、栄養素?とかが載っているようだった。勉強ができる子のことは小さな頃から好きだった。顔見知りになったからか電車で20分くらい揺られて僕は下車するんだけど女性に今から手料理食べませんか?と唐突に誘われたことがあった。僕は駅から少し離れた男子校の教師をしている。とても素敵な申し出だったけど高校教師が通勤途中に女性の手料理食べ、遅刻。って知られたら大変だと思い、やむなく、断った。
大学生の頃はこんななりだか彼女だっていたことがある。一方的に別れを告げられて、未だにショックを隠し切れないが。
そういえばその彼女も髪が長かったな。
と、授業がない時間はぼんやりしている。

春が近づいてきて、僕の受け持ってる3年生が卒業した。雑務をこなして、少しだけ長い春休みをもらうことになった。「婚活サイト。」というのに登録してみて、マッチングもして、何度かデートしたがなかなか上手くいかずに新年度が始まるのでまた通勤がはじまった。
女性が乗ってるだろう車両に乗り込むと同じ車両に乗って顔を合わせて会釈する程度の人同士が話をしていた。知り合いだったのか。そんな風に思ってたら僕の所にきて「無事だったんですね!?」と話しかけてきた。なんのことかわからなかった僕は「えっ?」と質問とも返事ともとれない声を発してしまったら、続けて「しばらくお見えしなかったので…。」と、心配してくれていたようだ。「あ、僕は春休みをいただいてただけでして。」と釈明しておいた。「ここのところ急にいつも見かける方の2、3人が見ない日が続いて…」それは心配だ…。

家で第3のビールを飲みながら普段テレビなんて見ないんだけど、久しぶりになんとなくテレビを見てたらあの髪の長い女性がでてきた。びっくりしてたら同じ電車に乗った乗客に声をかけて手料理をふるまうのをよそおってトリカブト入りのカレーやシチューを食べさせていたという。end

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