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【ショートショート】日曜日から始まる(4)


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【創作】駅前でバスを降りて洋子はデパートに向かう。心臓は、もうドキドキしている。

空は先ほどよりも暗く重たい。

「やっぱり雨、降るのかな」

また、傘を握りしめ、デパートに入った。

待ち合わせ時間より、少し早く着いた洋子は、傘売り場の近くにあるハンカチ売り場を眺めようと思った。

「……来ないなぁ……」

30分経った。

洋子は、

『きっと急な用事でも出来たんだわ』

と思いながら、動けずにいた。

1時間が過ぎた。  

『まさか、事故にでもあったのかしら?』

洋子は、その時初めて 

『あっ!名前も、知らない。電話番号もわからない。えっ!?』

ただ、此処に来れば会えると思いこんでいた自分のバカさ加減に落胆した。

連絡の取り用が無い....。

その様子を見ていた店員が、
洋子に話しかけて来た。

「先週の話、聞こえてしまったの。
彼、遅いわね。良かったら言伝ことづてしてもいいけど」

「お願いします」

そう言って、洋子は店員が渡してくれたメモ用紙に、名前と、携帯の電話番号を書いた。

店員は、「はい」と言ってメモを受け取り、「彼が来たら渡すわね」と
言ってくれた。

「ありがとうございます」


深くお辞儀をして、洋子はデパートを出た。 
雨がポツポツ降って来た。

傘が雨の日に使うようになったことに、がっかりした洋子は、駅まで歩き、実家へ向かう電車に乗った。

実家に帰るのは久しぶりだった。
普段、9時から5時のワーキングをしている洋子は、土日の休みは自分自身に使いたいほうで、
用事がない時以外、ほとんど実家に来ることは無かった。

電車を降りて実家に着く頃には、
雨はザーザー降りになった。
傘を差しているとはいえ
白いパンツの裾は雨で汚れてしまっている。

玄関でチャイムを鳴らす。

「はーい」 

母の声だ。

玄関を開けて、

「あぁ、いらっしゃい。待ってたのよ。さぁ中に入って。あ、お父さんは、留守よ。いつものアレ」

父の、いつものアレとは、釣り堀の事だ。父の唯一の趣味だった。  

「ごめん。タオルちょうだい。すごい雨なのよ」

母は、洗面所から、タオルを持ってくると

「あらあら、裾が汚れちゃって...」

と、拭いてくれた。

「紅茶でいい?」

母は、聞く前に準備している。

「実はね」

母は、紅茶をテーブルに置くと、

「あなたにお見合いの話が来たのよ。うふふ、どう、良い話でしょ」

母は、自分の事のように嬉しそうに話す。

洋子はただ黙り続けていた。



25日目

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