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フェス、ライブエンターテインメントから見る日本の音楽シーン

コーチェラが3年ぶりに開催され全世界的にフェスシーンが戻ってきている。
例年以上に日本国内でも盛り上がった気がする今年のコーチェラ。
開催されれば毎年のように配信で楽しんでいたが個人的にも今年が一番楽しかった。
当然宇多田ヒカルのコーチェラ出演が大きいが、久しぶりに何の規制もないフェスに配信で羨望の眼差し含めて別世界にいるような気持ちにもなれ楽しめたことも大きい。
宇多田のキャリア初のフェス出演についてはこちらに書いたのでこちらをも読んで頂けると嬉しい。

そんな戻ってきたフェスシーン。
日本でも開催を予定しているフジロックやSUMMER SONIC(以下、サマソニ)には海外アーティストもラインナップされている。

サマソニは2020年に予定していたヘッドライナーがそのままスライド、その他コーチェラに出演していたアーティストなど含め今見たいアーティストがバランスよく並んでいる印象。

SUMMER SONIC 2022 Lineup (2022年5月5日現在)


それに対してフジロックはヘッドライナーからも分かる通り、2020年のラインナップからは抜けているアーティストも多い。
もちろんこれは2022年5月5日時点での話でその後の追加アーティストで2020年に予定していたアーティストがラインナップされる可能性もある。

FUJI ROCK 2022 Lineup (2022年5月5日現在)


2020年にラインナップされているアーティストをスライドするべきだ、と思っている訳ではないが海外の大型フェスにラインナップされるようなアーティストを呼んだ方が日本の今後の音楽シーンにとっても良いと思う。
もちろんラインナップなんて最終的には好みの問題になってしまうが実際SNSの反応を見ても今年のフジロックは2020年のフジロック、今年のサマソニのラインナップの反応に比べると渋い反応だと思う。
ただ愚痴を言っているやつだと思われるのも嫌なので書いておくと、自分はフジロックもサマソニも大好きで今年も両フェスとも行く予定。
ラインナップに大きな不満がある訳でもないが少し思うところはある。
フェスのラインナップ問題に関しては海外とのギャップを感じていて2010年代後半に可視化されてしまったので今回はそれについて書いていきたい。

2020年のフジロック、サマソニの2020年特別版スパソニことSUPER SONICは令和早々にやってきた日本の音楽シーンを再構築するための大チャンスだったと自分は思っている。
これは日本の音楽シーンにおける海外音楽の位置付けのことだ。
令和2年(2020年)は新たなディケイド、そして日本では新たな元号の本格的は始まりであった。
その新たなディケイドの始まりに前年の2019年のコーチェラでヘッドライナーを務めたTame Impalaがフジロックでも初めてヘッドライナーとして呼ばれ、ヘッドライナー以外でも今のインディーシーンを作っているアーティストを多く呼んでいた。

幻のFUJI ROCK 2020 Lineup

またスパソニのヘッドライナーにThe 1975、Post Maloneを呼び、こちらは令和時代デビューの藤井風、Vaundyという日本の若手のスターも呼んでいた。

幻のSUPER SONIC 2020 Lineup

そしてフェスではないが単独ライブではBillie Eilishは横浜アリーナでの単独公演が決まっておりこちらに関しては即完していた。
これらの何が日本の音楽シーンにとって重要だったか、世界の音楽シーンで中心にいるアーティストが適切な規模で来日予定をしており同時代性があるということである。
そこまで重要なことと思われないかもしれないが2010年代の日本における海外音楽は世界と同時代性がほとんど無く1990年代や2000年代で止まっており、かつリスナーの母数は年々確実に減っていった。
それを自分自身が目に見えて感じたのが2018年のサマソニだ。

ヘッドライナーは日本でまだまだ人気がある解散したバンドOasisのNoel Gallagherのソロプロジェクト、そしてBECK、その他にもこの年の大目玉と言っても良いChance The Rapperの初来日、そして3番手のステージかつサマソニの肝とも言われているSonic StageにTame Impala、Billie Eilish、Portugal. The Man、Jorja Smith、Rex Orange Countyなどが名を連ね海外音楽ファンとしては凄く嬉しいラインナップで世界との同時代性も感じられた。久しぶりの出来事だったと思う。

しかしこの年のサマソニは悲しいほどにガラガラだった。
ごろごろしながら見ることができるほどだった。
その翌年はこの反省を活かし集客力のある日本のアーティストを呼び完売させていた。

海外音楽は日本では聞かれていないと毎年のように言われていてもSNS上にはたくさんファンがいるように見えてそこまで危険に感じていなかったが2018年、2019年のサマソニを見ていて痛いほど分かった。
これが現実だ。
音楽のサブスクリプションサービスが利用できるようになり国やジャンル関係なくアクセスできるようになったはずだが結局は日本の音楽のみが聴かれているということがこの国の現実だ。
自分は日本のアーティストもたくさん聞くしライブにも行くので別に日本の音楽をバカにするつもりは全くない。
ただガラパゴス化し続けることは日本の文化にとって良いことでは無いはずだ。

2000年代に出てきた日本のアーティストは1990年代の海外アーティスト、主にはOasis、Weezer、Red Hot Chili Peppersなどに影響を受け日本の音楽シーンに出てきた。
2010年代日本の音楽シーンの真ん中にいる日本のアーティストの多くは2000年代に出てきた日本のアーティストに影響を受け出てきた。
分かりやすく言うとASIAN KUNG-FU GENERATIONが作った四つ打ちの曲がヒットし、それ以降日本のアーティストはそれを真似、高速化させていった。
それが2000年代後半から2010年代前半の日本の音楽シーンであった。
そしてその頃には日本で音楽雑誌などのメディア以上にメディアとしての力を持っていたのはフェスであり、フェスで人気を掴むことが売れることへの最短ルートであった。
アーティストのことを知らなくても楽しくノレるBPMの早い四つ打ち音楽が主流になった。
その結果フェスは着実に巨大化し高速四つ打ち音楽も蔓延していった。
逆に言うと高速四つ打ちをやらないとフェスのスロットが上がっていかないし、お客さんにも受け入れてもらえないという現実があった。
そのころ海外はULTRAなどに出演するようなEDMが流行り、そして廃りトラップやラップが流行りだしバンドがなかなかシーンの真ん中に居づらい時代に突入していた。
このあたりの日本と海外のシーンのギャップが2010年代後半の日本における海外音楽を位置づけてしまった。
ただこの長かった日本の高速四つ打ち音楽や日本音楽だけに影響を受けた日本アーティストへのカウンターなのか2015年にSuchmosが注目されたことによりそれ以前から活動していたceroやシャムキャッツなども注目され始めシーンに地殻変動が起き始めた。
またラップも日本でやっと注目されるようになりKid FresinoやPUNPEEが普通に語られるようになった。
今名前を挙げたアーティストは国内外の音楽に影響を受け、かつフェスで勝つことを大前提にしていない音楽をずっとやっていたアーティストである。
少しずつ日本人の耳がその音楽に慣れ始めた2019年、強烈な個性を持つBillie Eilishが1stアルバムをリリース。
『Bad Guy』は日本でもじわじわ認知されていった。Billie Eilishにとって『Bad Guy』は飛び道具であり本人は使いたくなかったカードのはずだが、世界を獲るためには必要なカードだったのだろう。
その効果もあり日本でもヒットし最初にも書いたとおり横浜アリーナでの単独公演即完に繋がる。

このようにガラパゴス化せず世界中の音楽の良いところを参考に作品にすることが日本の音楽シーンを前に進めるには必要なアクションで、それを起こすアーティストが現れ、実際にシーンを動かした。
令和早々に起きた日本における海外音楽の同時代性を感じられるチャンスは全世界パンデミックと共に一瞬にして消えていった。
全世界的にライブなどの人が集まるイベントは止まった。
その中でもたくさんの作品がリリースされサブスクで自由に聞けるが日本のチャートを見るとほぼほぼ日本のアーティストが占めている。
おもしろいのが昨年、2021年デビューし世界を席巻中のOlivia Rodrigoのアルバムは2021年5月リリースだがSpotify のアルバムチャートで2021年の10月ごろでも台湾、香港、シンガポール、ベトナム、タイなどでは10位前後に位置付けているが日本においてはトップ50にも入っていないのが現状だ。
少しずつ同時代性も感じられるようになったとは言ってもまだまだ追いついていないのが現状で、日本における海外音楽の位置づけを動かせるのはフェスだけだと考えられる。
フェスの運営側もそれを感じ取っていたからこそ令和2年(2020年)のフジロックやスパソニは日本の音楽シーンを真剣に考えたラインナップになったのだろう。
そして今年2022年のラインナップは現時点(2022年5月5日時点)で、両者とも2020年代的とは思うが、海外の主要フェスとも同時代性があると感じるのはサマソニの方でフジロックはかなり独特なラインナップになっている。
独自性は大切であるが、2020年のフジロックのラインナップや2022年のグラストンベリーフェスティバル、コーチェラ、プリマヴェーラ・サウンドのラインナップを見てしまっているからこそ、発表があった時は少し肩透かしを食らった方も少なくないと思う。
これは予算的な問題なのか、交渉力の問題なのか、海外で人気のアーティストが日本で聞かれていないから呼んでいないだけなのか、正直素人の自分にはまったく分からない。

ただそんな中、日本でビッグアクトの来日が2022年の後半に続々決まっている。Justin Bieberのドームツアー。
Lady Gagaの来日公演。特に今全世界的にも大人気でギャラもすごく高そうなアーティストJustin Bieberの来日はビッグニュースだった。
主催はcreativemanでもSmashでもなくAEG Presentsだ。
Lady Gagaに関してはLIVE NATION、大物ではないがMoon Childの来日公演もLIVE NATIONだ。
パンデミック前から確実に大物含め多くの来日公演を成功させているLIVE NATIONに加えAEG PresentsがAvex組み共同事業AEGXを立ち上げ本格的に動き出したことは一音楽ファンとしてはただただ嬉しいし、海外音楽リスナーが増える可能性もあり良いこと尽くしだとは思うが、少し心配になるのがcreativemanとsmashだ。
仮にコーチェラを運営しているAEG Presents やLIVE NATIONが日本でフェスをやるとなったら音楽ファンとしては最高だが、サマソニやフジロックのことを考えると心配で仕方ない。
一番良いのはAEG Presents(AEGX)やLIVE NATIONがcreativemanとsmashと組んでフェスを開催することだろう。(もともとLIVE NATIONはcreativemanと組んでいたからこれはありえる?)
ただそうなった場合は大きな変更もあるかもしれない。
もちろん何かを続けていくには変わり続けることも必要である。
パンデミックを経て2020年代、日本の音楽シーンの景色が大きく変わるディケイドになりそうだ。

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