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アウェイ〈屋外フェス〉に挑む宇多田ヒカルを見た

宇多田ヒカルがコーチェラに出演すると知ったのは4月16日の起床後。

起き抜けに見るには衝撃的なニュースであり一気に目が覚めた。
そして宇多田の人間活動期間後(2016年~)の活動がここに繋がった感動と、今後の活動の想像、妄想が一気に膨らんだ。


宇多田ヒカルはレコーディングアーティストだと思う。
デビュー前の小さい頃からずっと居続けたスタジオ。
宇多田にとっては家よりホームであり続けたスタジオ。

ホームであるスタジオはもちろん外的要因による環境不安定さはまったくなく、宇多田にとってスタジオは精神的にもホームであろう。

ライブという外的要因による障害が多い環境はおそらくあまり得意ではないはずだ。

それが原因かデビューしてから25年近く経つがライブの数はかなり少ない。

そこに満足いくリハの時間が取れないフェス、そして屋外ならではの風に乗って流れる音など宇多田にとって屋外のフェスはかなり不安のある場所だろう。

実際2022年に配信されたスタジオライブ“Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios”は本当に素晴らしいもので最初から最後までバチっと決まっていた。

ただ2018年のデビュー20周年のアリーナツアー“Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018”の時は最初の方は不安定さもあり徐々に安定していくというものだった。

もちろんライブは最終的には素晴らしいもので非常に楽しめた。
(自分自身初めて生で宇多田ヒカルを見たのでパフォーマンスどうこう以前に終始テンションは上がってたいたことを今でも覚えている。)

ただこれらを見ているからこそフェスの環境、特に屋外の環境はおそらく得意ではない、きっとアウェイの環境なんだろうなと思ってしまった。

20周年ツアー時に宇多田はこのようなことを言っていた。

「今まではライブを自分自身楽しめなかったけど今回は自分自身すごく楽しめている。これからはもっとライブやっていきたい。子供が休みの夏とかならできるかも」と。 

これを聞いた自分はすぐ夏フェスが浮かんだ。
ただ先ほど書いたこともあり、同時に屋外のフェスの環境なんて宇多田にとってよろしくない環境に違いない。

出るなら屋内のフェス?サマソニのマウンテンステージ?小さすぎるな、ということはフェスは無いのかな、などMCでの発言があってから宇多田ヒカルがフェスで歌っている姿を想像しては難しいかと思う日々だった。

フジロックのヘッドライナー予想にも半分ギャグの意味も入れて毎年のように入れている。 

そんなあり得そうで難しそうな宇多田のフェス出演は想像の斜め上を行く形で実現した。

アメリカのカリフォルニアで開催される世界最大級のフェス、コーチェラに出演。
しかも88risingの“Heads In The Clouds Forever”ステージに出演。

こんな形での宇多田ヒカルのキャリア初フェス出演を誰が予想できただろう。

宇多田は人間活動期間前(2011年以前)、ほぼ自分自身で曲作りを完結させていたし、数少ないライブも当然単独ライブのみでほぼ自己完結してきたアーティストだ。

そんな宇多田ヒカルが人間活動後の2016年にリリースしたアルバム『Fantôme』には同期の椎名林檎を始め、ラッパーのKOHH、今ではビジネスパートナーのような存在にもなっている小袋成彬が参加した。

もちろん制作現場において複数のアーティストで作品作りすることが当たり前になりつつあった時期ではあったが宇多田が自分以外のアーティストと音楽をすること最初はそれなりに違和感があった。

『Fantôme』以降の『初恋』『BADモード』と宇多田は自身以外のアーティストとコラボを重ねていった。

このような活動があったからこそ宇多田が88risingというアジアンアーティストコレクティブの一人としてステージに立つことに繋がったのだろう。

また88risingが宇多田ヒカルの出演を発表したツイートにあった“The soundtrack to our youth”からも分かるように88risingの中心にいるアーティストは宇多田の音楽を通ってきた世代だ。

88risingの別のツイートに“the Legendary Utada Hikaru”と書かれていたことからも現在のアジア音楽への多大な影響をもたらした宇多田ヒカルをアジアの音楽を世界に発信する場にリスペクトの意味も込めてこのステージには必要なピースだったに違いない。

更に自分が先ほども書いた通り、宇多田ヒカル初フェス出演が宇多田単独で60分とかの持ち時間とかになるとなかなか難しいものになったと想像する。

そこを88risingというアジアンアーティストコレクティブの一人として60分強の持ち時間の一部分のみ出演となれば宇多田の初フェス出演としてこれ以上ない条件でもあったのだろう。

88risingと宇多田ヒカル両者にとって結果的に理想の形になった。

そんなコーチェラ本番。

自分は初日から配信でいろんなアーティストのライブを見ていたが機材トラブルや強風で音が流れ音程を外さず歌うことの困難さがいろんなアーティストのパフォーマンスから分かりやすく見て取れ、これは宇多田ヒカルも大変だなーなんて思いながら2日目のステージを心待ちにしていた。

88risingからはRich BrianやBIBIなど前日に単独でも出演していたNIKIなど含め多くのアジアンアーティストが出演した。

NIKIはイヤモニを押さえ歌いにくそうにしている表情もしておりコーチェラという現場は素人が思っている以上に難しいのかもとも思った。

宇多田ヒカルの出番は後半で配信では登場の仕方までは見えなかったが世界中で大人気のゲーム『キングダムハーツ』のテーマソングでもある『Simple and Clean』を披露。 

この曲は日本以外の方もアクセスしてされている曲であり人気の曲だ。

宇多田は予想通り歌いにくそうにしていた。

宇多田自身が緊張しいでこうなっているのか外的要因による環境の不安定さがもたらしたものなのかは不明だが凄く不安定な立ち上がりだった。

そしてその後披露したのがなんと『First Love』。

日本語の曲を披露した。

日本では多くの人に聞かれた曲とされているが英語圏でそこまで聞かれているとは思えないがイントロが鳴った瞬間は歓声も起きていた。

そこからまた『キングダム ハーツ』の『Face My Fears』、

そして何より印象的だったのが“Let’s go back to ‘98”と言って始まった『Automatic』だ。


この曲が日本における多くの方に認知された初のR&Bの曲だろうし、それと同時にアジアにおいても同様だろう。

これは88risingのツイートにもあったとおり88risingにとって”The soundtrack to our youth”であり、アジアの音楽が世界に響いた瞬間だ。

また、98年の曲ではあるが宇多田ヒカル含めて多様な人種、多様なジェンダーのダンサーがステージの階段で座って曲に踊っていたのはすごく印象的で2020年代の表現をしていたこともすごく良かった。

宇多田ヒカルは10分弱の持ち時間の中で4曲メドレー形式で英語、日本語の曲を交互に披露した。

ここにUTADA名義でリリースした曲はなく、英語圏のリスナーに合わせた曲をわざわざ制作する必要がないことも示した。

これはもちろん2020年代に入って英語圏の人たちが非英語圏の音楽も普通に聞くようになったことも大きいが、宇多田ヒカル色が濃い楽曲で十分世界に通用することを示した。

日本国内は宇多田ヒカルの登場の話題で持ち切りだったが、世界は宇多田のあとに登場した2NE1とJackson Wangに沸いていた。

そんな中、宇多田は再登場した。

88risingの一員としての新曲『T』だ。ピアノを弾きながら歌った宇多田はすごくリラックスしており、宇多田のこの日一番のパフォーマンスになった。

こうして宇多田のキャリア初のフェス出演となったコーチェラの出番は終了した。

アウェイの場でのパフォーマンスで難しさも見て取れたが、日本語の音楽が違和感なくコーチェラのステージで響いたことに感動せずにはいられなかった。

今後宇多田ヒカルがフェスに出演するかどうかが想像つくようなステージにはならなかったが期待はしてしまう。

FUJI ROCKやSUMMER SONICなどの海外アーティストも多く出演するフェスへの出演が決まったりすると嬉しいなと思う。 

今年、2022年のサマソニには現時点(2022年5月3日時点)ではCLの出演が決まっているしサマソニで88risingのステージをやってそこに今回のように宇多田の出演があっても良いよね、なんて妄想も広がる次第。

今後何が起きてもおかしくない2020年代に突入した。

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