もし、新型コロナの影響で職を失った猫カフェ店員が起業独立したら
はじめに.絶望と恐怖
「当店は2022年3月31日で閉店させていただきました。在籍していた猫たちは大宮の姉妹店もふもふの森へ移動となりました。2年間ありがとうございました。店主。」
くろまるは赤羽にある肉球専門猫カフェ「ええじゃにゃいか」のスタッフとして2年前から働いていたのだが、今日4月1日に朝から出勤したところ閉店のお知らせが貼り付けられていた。
コロナ禍で厳しい経営が続いていたのは確かだが、いきなり閉店するなんて。遅れていた給料はどうなるのだろうか。店長が言うには店のオーナーが猫カフェじゃなく猫耳カフェの方が儲かることに気がついてしまったらしく、改装のために閉店となったらしい。肉球が猫耳に敗北したというわけだ。
くろまる「じゃあ、自分どうなるんすか?」
「オーナーから手紙を預かってきている。お前宛にだ。」
「前略くろまるくん。突然このような話になってしまって申し訳なく思っている。しかしコロナ禍で店の経営が厳しく、このままでは倒産しかねない状況が続いていたのは事実なんだ。そんな時に知人がここを猫耳パブにしたいと言い出して店ごと買い取るというので話にのることにした。」
オーナーだって自分の生活がある。それに自分の給料が遅れていたことからもギリギリの経営だったのだろう。どう見てもいかがわしいお店になりそうだが仕方がない。自分の仕事と遅れている給料はどうなるのか。
「このお店は閉店することになったので、すでにお店のニャンコたちは大宮に移ってもらった。くろまるくんの仕事についてだが2つの選択肢を用意したので、よく考えて選んで欲しい。1つは、遅れていた給料を店長に預けたのでそれを受け取り退社するのもいいだろう。あいにく大宮で雇用することはできないから何か他にやりたいことがあるのであれば、別の道を進もう。」
手紙はここで1枚目が終わっていた。ところどころかっこいいことを書こうとしている文体にイラッとしつつも、給料はもらえそうだ。退社という二文字を見た瞬間に胸の鼓動が早まったのが自分でもわかる。血液が熱くなるというか、肌が寒くなるというか。2枚目を見たくない気もするのだが、見ないと何も進まない。
「もう一つの選択肢は、くろまるくんに300万円預けるから何かネット系で新規事業を作ってくれないか?実は店が売れたこともあり何か新しくやりたいと思っているんだが、わしは店しかできん。しかしこの2年コロナと戦ってきてどうも今後は店だけじゃなくネットを活用するような、こう来店しなくてもいい事業ができる気がしていて。くろまるくんがやってくれるとありがたいなと。もしやってくれる場合にはこちらに連絡して話を進めてくれ。」
にゃんこ先生:
退社するか300万円で新規事業か。このご時世にいきなり退社しても仕事はあるのだろうか?猫が好きで猫カフェに関わっていきたい気持ちもあるのだが、多分どの店も経営は大変だろう。だったらいっそ、オーナーの言う通りお店に来てもらう以外のネットの事業ができないか考えてみるのもいいのかもしれない。
1週目.机上じゃなく現地現物現場で
「あの、オーナーに言われて連絡したくろまると言います。にゃんこ先生でしょうか?」
にゃんこ先生「ああ、話は聞いてるよ。今後のやりとりはこのTwitterDMで送ってくれればOK。きみ起業したいんだって?」
「え?オーナーからは300万円で新しい事業作ってくれとだけ言われてまして。」
にゃんこ先生「そうなの?まあ似たようなものだし。」
「すみませんよくわからないのですが、自分の給料とかってどうなるんでしょうか?」
にゃんこ先生「ああ、300万のなかからテキトーに使っていいらしいよ。まずは3ヶ月で事業作って、その様子を見てからその先考えるってさ。」
「なるほど。わかりました。とりあえず私は何からやったらいいのでしょうか?」
にゃんこ先生「新規事業を作ろう。3ヶ月間手伝うからまずは何をやるのかアイデアを出そうか。何か考えてることある?」
「はい。オーナーの言い方からしてねこ関連でお店以外ということだったので、ねこグッズの通販、ねこ同士のマッチングアプリ、猫カフェ運営デゲームなど何かスマホでポチッとできるようなものがいいんじゃないかと。」
にゃんこ先生「おお、いいねいいね。それってどこで考えたの?誰のアイデア?」
「自分のアイデアです。昨日ファミレスで3時間掛けて考えました。」
にゃんこ先生「そうか、じゃあキミにおくる1つめのアドバイスは机上じゃなく現地現物現場で、というところからかな。」
「どういうことですか?」
にゃんこ先生「机の上じゃなく現地現物現場で事業作ろうということよ。キミは猫カフェ関係で事業を作ろうとしている、そうだよね?」
「はいそうです」
にゃんこ先生「なのにファミレスでアイデアを考えた」
「あ、そうです。」
にゃんこ先生「キミがいまやるべきことは猫カフェに入り浸ることだ。猫カフェで長い時間を過ごし、そこで自分の目で見て、耳で聞いて、感じたことや聞いたことなど一次情報をたっぷりと浴びなさい。」
「え?でも猫カフェをやるわけじゃないですよ?オーナーもネット関係でと」
にゃんこ先生「このバカちんが!」
「!?」
にゃんこ先生「自分じゃどうやって新規事業作ればいいかわからないのに、人に聞いてそれを素直にやることもできんの?それでどうやってうまく事業を進めるの?自分でできるなら自分の意見でやればいいやん?」
(死ねばいいのに)くろまるは誰にも聞こえないような小さな声でつぶやいたが、反論もできないので猫カフェに行くことにした。とりあえずいくつか回ってみよう。
たしかに猫カフェの店員をしていた時とは景色が違ってみえる。お客として店に行くとこれまで気がつかなかったことがいくつもあった。働いている時からたまにはお客として他の店に行くべきだったのかもしれない。
ただ、確かに癒されるのだがコロナ禍で家にいることが多い場合にはわざわざ店に行くこと自体が面倒だと感じた。会社の帰りやご飯の帰りなどではなく、猫カフェのためだけに外出をしないからお客さんは減ってしまったのかもしれない。
2週目.自分のアイデアじゃなく一次情報で
「1週間、猫カフェに毎日通い続けてきました」
にゃんこ先生「そうかそうか、で、どうだった?何か気がついたこととか新しい発見とかあった?」
「はい、VR猫カフェとかどうですかね?」
にゃんこ先生「ほう?いいね、誰のアイデア?」
「自分のアイデアです、猫カフェに通ってて会社の帰りでもなんでもなくそのためだけに外に出るのが面倒だと感じて」
にゃんこ先生「うん、いいね。じゃあキミに2つめのアドバイスをしよう。自分のアイデアをもとに事業を作るんじゃなくて、一次情報をもとに事業を作ろうということ。」
「一次情報…そうですね。色々自分で体感したつもりでしたが自分だけの意見ですもんね。店員さんや他のお客さんに話しかけるとか、もっと色々体験してきます。」
実際に猫カフェで自分が楽しむだけでなく、あたりを見渡して視点を変えてみる。自分があのカップルだったら?というかなんでカップルで猫カフェなんだろう。
くろまる「あの、こんにちはちょっとお話してもいいですか?」
女「はい、よくいらっしゃってますよね」
くろまる「ええ、もう毎日いろんな猫カフェに行ってまして」
女「よっぽど好きなんですね。猫飼ったりしないんですか」
くろまる「いや一人暮らしで世話もできないし。お二人も猫好きなんですね」
女「大好きです。でもうちもペット禁止だし飼えない分だけこうしてねこ補充しています。」
男「もうこのくろねこさんが可愛すぎて。24時間ずっとみてたいです。でも飼うかといわれるとお世話できないのでこのままここにいて、いい人に育てられて欲しいなって思います。」
そうなのだ。さまざまな理由で猫は飼えないけれど猫が好きな人が猫カフェに来る。みんな猫を吸いたいし、猫の存在を身近に感じたい。うまく言えないけれどこの匂いも空気感も、猫を愛でる気持ちも含めてこれが一次情報だ。
3週目.自分が助けたい顧客はだれなのか
「1週間、ただお店に通うだけじゃなくてお客さんと話したり、店員さんの視点で考えたり、色々な観察をしてきました。」
にゃんこ先生「そう。何かいいアイデアは浮かんだ?前に言ってたVR猫カフェとかどうよ?」
「言葉じゃうまく言えませんが、VRとかではないと思います。匂いとか空気感とかお客さんの感情とか、飼いたいけど飼えない事情への同調とか、もう胸いっぱいで。なんかVRとかそういう流行り物じゃない気がします。」
にゃんこ先生「誰かを幸せにしたいとか、誰か困ってる人を助けたいとか、自分が損得抜きで心から助けてあげたいなって思う人はいなかった?」
「そう言われてみると、入院中のおばあさんの話がありまして。みさきちゃんっていう若い女の子が1人で店にきていて、本当は入院中のおばあちゃんも猫が大好きで連れてきてあげたかったって。」
にゃんこ先生「入院中はこれないよね」
「みさきちゃんが動画撮ってるのをみたり、カップルで来て動画取りまくってるのをみると、猫カフェに来たいけど来れない猫好きの方にも猫カフェを楽しんでもらいたいなって思いました。」
にゃんこ先生「いいね。アドバイス3つ目、自分が助けたい顧客が誰なのか特定しよう。興味って人によってちがうのよ、だから自分が誰を助けたいって思うか、めちゃくちゃ大事になる。自分が助けたい人。」
「そうですね、入院しているおばあちゃんとか、コロナで自宅に引きこもってる人とか、猫を家で飼えない人とか、自分が助けたいのは猫カフェに来れない人です。ねこねこした日常を分けてあげたいです。」
4週目.顧客が抱える課題の特定
「猫カフェ通い4週目です。助けたい人を思い浮かべると、猫カフェにいるだけで何かこう切ない気持ちになりますね。自分はこうやって楽しんでるけど、さまざまな理由で来れない人もいるわけで。」
にゃんこ先生「そうやね。じゃあキミが助けたいって言ってたのどんな人だっけ?」
「猫好きで猫カフェに行きたいけど、お店まで来れない人です。」
にゃんこ先生「うん、そうだね。じゃあ4つ目のアドバイスは、その人たちが抱えている課題が何なのか特定してくれる?」
「抱えている課題?猫カフェに行きたいけど行けないというのが課題なんじゃないんですか?」
にゃんこ先生「うん、それもう少し解像度高く掘ってみようか。全てはキミじゃなくお客さんが決めることだし、お客さんと話してみようよ。」
「確かに自分の予想です。わかりました!猫カフェ巡り継続します!」
猫カフェに行きたいけど行けない人が抱えている課題か、誰に聞けばいいのだろう。そんなことを考えながらお気に入りのミケを吸っていると、例のみさきちゃんがこちらをみて会釈している。
くろまる「こんにちは。たしかみさきちゃん?おばあさんが入院されているんですよね?」
「そうなんですよ。実はいまスマホのテレビ電話で繋げてて。生中継してます笑」
くろまる「おばあさんこんにちは。通りすがりのものです。ねこお好きなんですね?」
「そうなのよもう大好きで。でも流石に入院中に抜け出して猫カフェに行くわけにもいかないでしょう?動画送ってもらってるうちに生でみたくなっちゃって。」
くろまる「いいですよねー、ねこの幸せそうな寝顔を見るだけでも、声が聞こえるだけでも。おばあさん何か猫カフェに行きたいのに行けない状況で、困ってることありませんか?」
「困ってること?もうそのまま単純に行きたいのに行けないことかしら。あとはさっちゃんに毎回生中継してもらうのも悪いから誰か毎日代わりに行って欲しいわ。普段はYoutubeで我慢しているの。」
おばあさんの場合には、入院しているから行けない場所の問題、行きたい時にいけない時間の問題か。
5週目.その課題のために使われる予算の特定
「猫カフェに行きたいけど行けないという課題ですが、場所という意味で行けない場合、行きたい時間にお店が空いてないという場合、この2つがありそうです。」
にゃんこ先生「そうか、じゃあその課題を解決したらお金がもらえるかもね。だとしたらそれは仕事にできるかもしれない。」
「お金がもらえるかもしれない、ですか。この先どう進めたらいいですか?」
にゃんこ先生「そうだね、じゃあ5つめのアドバイスはその課題を解決するために、その人は先月何にいくらぐらいお金や時間を使ったのか特定しようか。」
「え?0円じゃないですか?だって実際にお店に行けてないわけですし」
にゃんこ先生「このオタンコナス!」
「!?」
にゃんこ先生「キミの意見は全部“仮説”でしかないのね。妄想。」
「…はい」
にゃんこ先生「仮説はお客さんにぶつけて検証しない限りただの妄想」
「…はい。自分じゃなく顧客さんの声や態度や行動を確認してくればいいんですよね。この間のおばあちゃんに聞いてみます。」
にゃんこ先生「常に答えは現地現物現場にある。全ては自分じゃなくお客さんがどう動くか、お客さんを基準に決めよう。」
くろまる「おばあちゃん!この間話をしたくろまるです。この間ねこ動画で我慢してるって言ってたじゃないですか。あれって有料なんですか?」
「動画はねYoutubeで観てるのは無料の動画よ。もう可愛くて可愛くて2時間とか3時間とか見ちゃう。」
そうかYoutubeだと動画は無料だ。ということはおばあちゃんは猫カフェに行けないという課題を解決するためには、先月はお金を使っていないということになる。
くろまる「おばあちゃん猫カフェに行けないストレスを何かで解消してたりします?先月猫関連で何か買ったとか、払ったとか。」
「そうねぇ。実はみさきちゃんの猫カフェ代は私が出してるのよ。動画撮ってきてくれたりテレビ電話繋いでくれるから、好きなだけ行っておいでって。あとはそのために新しいスマホが欲しいっていうもんだから、半額だけ出してあげたの。5万円。」
くろまる「なるほど!おばあちゃんにとってはお金を払ってでも猫カフェ生中継や動画は価値があるものなんですね。」
「そうよ、それにね一人で不安な時とか夜眠れない時とかに動画を見ているとなんだか落ち着くのよ。心が温かくなるの。それにこの歳になるとだれかを応援したり、誰かにお小遣いをあげるのも楽しみのひとつなの。」
くろまる「アイドルの追っかけみたいですね。」
「もう、退院が怖いわ。猫カフェにもずっと居てしまいそう。」
6週目.その予算と引き換えに提供する解決法の特定
「入院中のおばあさんは先月、みさきちゃんっていう猫カフェの常連の子に猫カフェ代やスマホ代を払ってあげてました。」
にゃんこ先生「うん、ということは予算はありそうね」
「予算?」
にゃんこ先生「極端な話、いくら課題を抱えていても先月、その解決のためにお金を使っていない人は今月も、その課題の解決にはお金を使わない可能性が高いのね。」
「先月使ってない人は、今月も使わない。。」
「だから、課題を解決するためにその人が何代としてお金を払うかは、先月その人が何代としてお金を払っていたか確認したほうがいいの」
「家計簿みたいなやつですね」
「そう。ネコカフェ行きたいのにいけないという課題に対して先月使ってたお金があるのなら、今回新しいサービスをくろまるが出したら、同じぐらいお金使う可能性がある。これが予算。予算がない仕事は始めると大変よ。」
「なるほど。その人が課題の解決に先月お金を使っているかどうか。」
にゃんこ先生「人はさ、言葉と行動が違う。痩せたいって言っても先月ラーメン毎週食べてるとか。そういう人は今月も毎週ラーメン食べる。」
「なるほど。言葉より先月の行動」
にゃんこ先生「そう。言葉より過去の行動をみたほうがいい。」
言われてみればそうかもしれない。自分自身適当に答えたり口では良さそうなことを言っていても、いざやらないことなんてたくさんある。言葉よりも過去の行動を信じたほうがいいのか。
にゃんこ先生「次のアドバイスいこか。6つめのアドバイスは、その課題の解決法を特定する。動画なのか、ぬいぐるみなのか、VRなのか、何なのかわからないけど、どうやればその課題が解決できるのか。もちろん自分で考えないよね?」
「はい、おばあさんと話しつつ猫カフェめぐりも続けます」
さて、解決法か。おばあさんはもちまるのYoutubeを見ていると言っていたから、猫カフェのYoutubeチャンネルを作って流せばいいのだろうか。
いや、でもおばあさんはYoutubeじゃなくみさきちゃんの猫カフェ代やスマホ代にお金を払ってた。つまり、Youtubeをやればいいという単純なものではない。
くろまる「おばあさん、もちまるYoutubeを見ても、猫カフェでテレビ電話したり動画撮ってもらったりするのって違うもんですか?」
「全然違うわよ!だってもちまるは私のためじゃなくテレビ見てるようなものじゃない。録画だから話しかけても反応しないし。猫カフェはリアルタイムなのよ!もう寝てるだけでも、鳴いていても、そこに映っているだけでも尊いわ。声をかけてにゃーんと返してくれる子なんてもうチャオチュールばらまきたいぐらいよ。」
なるほど。投げ銭や課金ができるというかむしろ喜んでチュールをあげたいと考えると、動物園で動物に餌をあげるようなイメージか。
くろまる「もし、もちまるのYoutubeみたいに猫カフェがスマホやパソコンで生中継の動画が流れてて、100円払うとチュールをあげたりできたら、おやつあげたいって思います?」
「あ、それいいわね!ほらみさきちゃんが猫カフェ行くのって週に1度か2度じゃない?だったらもうお店にカメラ置いて24時間流して欲しいわ。」
7週目.その解決法を発揮するMVPの提供
にゃんこ先生「どう?何か解決法はありそう?」
「はい、おばあさんと話してて、猫カフェに言った時にテレビ電話繋いでってみさきちゃんに頼んでも週に1度2度なので、猫カフェが24時間生中継されてたら見たいし、100円でおやつあげたりしたいと」
にゃんこ先生「なるほど。行きたくても行けない人に向けて猫カフェを生中継するのか。たしかに、人間と違って寝てるだけの猫も可愛いし、カメラに向かって鳴いてる子とかいたら、お金払ってでもおやつあげたいか。」
「はい、そしてVRとかじゃなく普通にスマホとかパソコンでYoutubeみたいにすぐさくさく見れる感じでいいと思います。」
にゃんこ先生「生中継か。1店舗に1つ24時間生中継するカメラを付けて、猫カフェ10個につけるとしたらカメラ10個か。うん、いいね。じゃあ、次7個目のアドバイスはその解決法を発揮するMVPを作ろう。MVPってわかる?」
「MVP、いえ。なんか表彰したりするアレではないですよね」
にゃんこ先生「そうそれではない。MVP(Minimum Viable Product)必要最低限の使えるプロダクト。」
「ミニマム・バイアブル・プロダクト」
にゃんこ先生「要するに最小限の機能を持った試作品を実際に作って提供してみようってことよ。」
「あ、わかりやすいです、試作品ですね。」
にゃんこ「いきなり本番のちゃんとしたサービス作るとさ、間違ってた時に修正大変じゃん。ラーメン屋で言うと最初は屋台とか、昼間だけ間借りするとか。まずは余白をあけて小さく初めて反応を見ながら作り込むの。」
「ほー。今回だとじゃあ実際に10店舗ぐらいに24時間監視できるカメラを仕込んでみて、それを何人かのお客さん候補に見せてあげればいいんですね。」
にゃんこ先生「そうそう。カメラとかネット回線とかどうやってお客さんに観せるかとか、MVPはぼろぼろでもいいから最低限の機能は満たしてね。」
最低限の機能か。今回だと、24時間猫カフェが見れるというのがコアの提供価値だろうか。チュールはどうやってあげたらいいのだろう。あとはカメラをどう見せるか。
とにかくそれっぽい資料を10ページで作りよく行く猫カフェと、オーナーのツテで説明してまわった。8店舗が協力してくれることになった。サービス名は「ネコミル-24時間猫カフェ生中継」。Wi-Fiは全店舗あったのでWebカメラをそれぞれ1台ずつ設置して、8店舗のカメラが一覧で見れるWebサイトを用意した。
【ネコミル - 500円で8店舗の猫カフェが24時間生中継】
Twitterで告知したら友人たちが10人登録してくれて面白がって拡散してくれた。Webメディアに掲載されて登録者が200人ぐらいになった。あとはチュールをどうやってあげたらいいかだった。
200人でLINEオープンチャットを作っていたので、毎日自分が1店舗選んで猫カフェに遊びに行き、そのお店でチュールをあげたい人はLINEに投稿してもらうことにした。お金のやりとりはとりあえずLINE Payで送ってもらえばいいだろう。まだ試作品なんだし。
いざ始めてみると、チュールは好評で1本500円だったのにみんな面白がってやってくれた。猫カフェ側からストップが掛かるほどだった。これは猫カフェ側もおやつ代や食費やおもちゃ代を、うかせられるかもしれない。
8週目.本当に解決法を発揮するプロダクトを作れるか
「先生!猫カフェ生中継「ネコミル」めちゃくちゃいい感じです!8店舗に1台ずつ設置していて、500円で2週間見放題にしたんですがもう200人が参加してくれています。10万円です。それと別にチュールの売り上げが1日1店舗だけ僕が現地に行ってLINEで受け付けてて1日20本で毎日1万円ぐらい。」
にゃんこ先生「いいね!じゃあMVPでのテストは成功でいいんじゃないかな。」
「ありがとうございます。」
思えばここまで2ヶ月、あのシャッターの前で絶望していたことを考えるといろんなことが変わった気がする。とにかく猫カフェに通いまくって、とにかくお客さんに会いまくって、何が課題かとか、先月お金使っていたかとか。よく考えたら全てお客さんや現場で得た情報で決めていた。起業や新規事業ってもっとこう天才が自分でバシバシ判断するものだと思っていたが、自分の意見はほとんど使っていないんじゃないか。とにかくお客さんや現場の意向が反映されていた。
「あの…新規事業って僕が色々やらなくても、お客さんや現場がほとんど決めてくれるんですね。」
にゃんこ先生「そうね、創業者は自分がやりたいことじゃなくて、お客さんが喜んでくれることをやればいいよ。」
新卒で入った会社では“お前はどうしたいの?”とよく聞かれていた。その都度自分なりに考えて意見を言っていたのだがどうにも疲れてしまい、癒しを求めて猫カフェの店員になった。自分がやりたいことじゃなくて、お客さんが喜んでくれることをやればいい、くろまるにとってこの言葉は砂漠の水のように体に染み渡って聞こえた。
「起業とか新規事業って、もっとこうワンマンでぐいぐい会社を引っ張っていくものだと思ってました。おれの意見が全てだ!みたいな。」
にゃんこ先生「どういうコンセプトで会社を立ち上げるかはそれぞれの会社が決めればいいと思うのね。例えばiPhone作ったスティーブ・ジョブズみたいに最高のプロダクトを作る、プロダクト志向の新規事業だってありだと思う。」
「プロダクト志向?」
にゃんこ先生「会社の方針よ。方向性。」
生産コンセプト たくさん作れるのが偉い
製品コンセプト 高機能に作れるのがすごい
販売コンセプト 売り方がうまいのが全て
顧客コンセプト 作ったものを売るんじゃなく、売れるものを作る
社会コンセプト 社会的にいいことをするのが最高
にゃんこ先生「ざっくり5つに分かれるんだけど別にどれが偉いとかどれがダメとかはない。」
「いま自分がやっているのはどれなんですか?」
にゃんこ先生「いまくろまるがやっている“お客さん喜んでくれるかな?”って思いながら、現地現物現場でお客さんの代わりにお客さんの課題を解決してあげるやり方は、顧客コンセプト、顧客志向、マーケティングコンセプト、マーケットアウト、とか呼ばれてる。」
「前に営業をやっていた時は、とにかく売った人がヒーローでした。」
にゃんこ先生「覚えなくていいよ。知識は正しい方向を向くために必要だけどその役割をわたしがやっているのだから。キミは“お客さん喜んでくれるかな?”だけ愚直に考えようよ。」
「わかりました」
にゃんこ先生「さて、それでこれからどうすすめる?」
「はい、今のままだとこれ以上利用者も増やせないので、ちゃんと誰かに依頼してウェブサービスを作ろうと思います。猫カフェにカメラを設置して、24時間いつでも見れて、月500円払うと生中継見放題で、別途500円払うとおやつが渡せるような仕組みで。」
にゃんこ先生「OK、問題は、本当に作れるか?だよね。ほとんどのベンチャーは思い通りのプロダクトなんて作れない。これちょっと見てみ?」
「これは…リリースされたプロダクトが。。」
にゃんこ先生「1人で全部作れたらまだいいんだけど、関わる人が増えてくると立場の違い、認識の違い、目的の違い、いろんな理由でちょっとずつずれてしまって最後には当初想定していた“解決法”を発揮しないプロダクトが生み出される。これがベンチャー。」
「そうですよね、今回は開発者も外注する予定ですし。」
にゃんこ先生「チュールはどうするの?」
「色々な値段を決めておやつとか食事とか服とか、投げ銭みたいにできたらと思ってます。ギフトが入るとお店の店員さんが対応してくれるような仕組みで、ギフト売上も70%を店舗に渡す予定です。」
にゃんこ先生「うん、まあやってみようか。アドバイス8つ目は解決策を実力通りに発揮できるプロダクトを本当に作れるか?」
友人ウェブデザイナーに相談すると、仲の良いエンジニアと一緒にやってくれることになった。アプリじゃなくウェブサービスであれば動画を生中継でたくさん出すとか、クレカで月額課金するとか、ギフトの支払いクレカでするとか、そういうのは問題ないと。デザイナーに30万円、エンジニアに70万円で半金前払いで2週間で作って2週間でテストと修正を行うことになった。これでギリギリオーナーにプレゼンする3ヶ月に間に合うだろう。
カメラを設置してくれる猫カフェを増やすのと、毎月500円払ってくれる利用者を増やすのはどちらを頑張ればいいのだろう?猫カフェは営業をかければむしろこちらがお金をあげる方なのだから集めやすい気がする。先に猫カフェをたくさん集めて、利用者はその後でいいか。
「先生!ウェブサービスはいま作り始めています。100万円ぐらいでなんとかなりそうです。」
にゃんこ先生「そうか。作ってる間にくろまるはどうするの?」
「Webカメラを置かせてくれる猫カフェを増やそうと思います。防犯にもなるし一切お金の負担も無しにして、ユーザーからもらう月500円の70%をお店に分配、ギフトも値段を色々用意して70%をお店に分配します。」
9週目.初期利用者の中で熱量高く使っている利用者はいるのか
変なプロダクトができないように、店舗の営業にデザイナーとエンジニアにも2回ついてきてもらうことにした。一緒にまわってるうちに猫カフェの温度感やくろまるの想いなども少しは伝わったようで、3人の団結も出てきた。
にゃんこ先生「どうなん?うまくいっとるのん?」
「はい、お店増やしは自分で一つ一つ電話して資料送ってやってます。それで、利用者の方ってどうやって増やしたらいいのかなって。個人の人が毎月500円払うってこちらから営業かけるのは無理ですし。」
にゃんこ先生「そうねアドバイス9は、初期利用者の中で熱量高く使っている人を見つける、にしよう。いまMVPで2週間で500円ってやってるじゃん?その200人の中で、熱狂的に使っている人と、全く見てない人といると思うのね。熱狂的に使ってる人がそもそもいるのか探してみ?」
「熱狂的に使う人。わかりました探してみます」
約200人の中で熱狂的に使っている人をどうやって見つけたらいいのだろうか。熱量高く使っている人の探し方。立候補?アンケートとか?熱狂的なファンってなんなんだろう。
例えばアイドルのファンだと、ライブに行くとか、握手会に行くとか、CDをたくさん買うとか、お金をたくさん使う人が熱狂的なファンなのかも知れないが、ネコミルは1分しか観なくても24時間ずーっと見ていても500円しかもらっていない。
「先生、どうやって熱狂的なユーザーを探したらいいのか考えたんですが、お金をたくさん払っている人が熱狂的なんじゃないか?と考えました。」
にゃんこ先生「お金をたくさん払っている、うん。熱狂的だね。前に予算の話をしたじゃない。先月、その課題を解決するために何にいくら使ったのか、実際の行動をみるといいよって。」
「はい。ただ、いま2週間で500円にしているので1分しか観ない人も毎日観てる人も500円なんですね。」
にゃんこ先生「なるほど。お客さんの言っていることではなく行動を見るのはそれで合ってる。でも、使ってるのはお金じゃなくてもいいよ。」
「お金じゃなくてもいい?」
にゃんこ先生「時間を使ってるとか、手間を払ってるとか。お金だけじゃないってことよ。その人が課題解決に先月いくら使ったかは大事だけど、お金以外でもいいの。機会損失とか聞いたことない?」
「ああ、、なんとなくぼんやりとわかるような。」
にゃんこ先生「我々が日常で払っているのはお金だけじゃないってことよ。時間も払ってる、手間も払ってる、悩みとか不安とかもコストよね。たくさんあるコストを先月払っていたなら、それはお金じゃなくてもコストとして考えていい。」
「わかりました。じゃあネコミルに500円払っている人の中で、お金以外に何かたくさんネコミルに使っている人を探せばいいんですね。」
なんだろうお金以外でもいいからネコミルにコストを払っている人。例えば時間とかどうだろう。1分観た人より10時間観た人の方が熱量が高い?確かにそうかも知れない。例えば3時間観ている人も毎日見ている人もいるかも知れない。視聴時間や視聴頻度は熱量を見るための指標になる。
あとは何だだろう?手間?ネコミルにたくさんの手間を使っている人、めんどくさいけど観ている人。めんどくさいコストやハードルを超えてわざわざネコミルを観る人。ああ、そういえばおばあさんはみさきちゃんの猫カフェ中継やネコ動画を観るためにiPadの使い方を必死に覚えたらしい。でもそれを見つけるのは難しいか。
どうやったらネコミルの利用者が増えるかじゃなくて、どうやったら利用者(お客さん)に喜んでもらえるか。もし自分が利用者でネコミルを使っていたら。アンケートとインタビューをやってみるか。アンケートで視聴時間やサイトを見る頻度などを確認して、30分程度のインタビューに協力していただけませんか?にOKした人全員と話をしてみよう。そうだ、わからないことは机上で考えるんじゃなく、現地現物現場に答えがあるはずだ。
さっそくGoogleフォームでアンケートを作り、200人と作っているLINEオプチャに流してみた。1日で60人ぐらいの回答があり、そのうちインタビューに協力してくれる人も10人いた。
実際にZOOMで個別にインタビューをしてみると、みんな画面越しに満面の笑みだった。興奮して好きなねこの話だけで時間が無限に過ぎていく人、九州に住んでいて猫カフェに行ったことがなかった人、仕事が捗らなくて困ると笑顔で冗談を言う人。
最後10人目のインタビューが始まると、画面の向こうにいたのはいつものおばあさんだった。
くろまる「え!?おばあさん!」
「うふふ。みさきちゃんから聞いて私もネコミルの大ファンなの。ほらみさきちゃんにお願いすると週に1度か2度だけだし、それになんだかお願いするのも申し訳なくなってきて。」
くろまる「そうだったんですか」
「ネコミルは最高よ!Youtubeのもちまるもいいんだけどあれってちゃんとテレビみたいに編集されてるじゃない?でもネコミルは生中継だしリアルなのよ。10分見てても誰も何もカメラに近づいて来なくてヤキモキしたり、目の前でおトイレしちゃう子がいたり。一回あるお店のカメラがずっと映らなくて残念ね、って思ってたらカメラの前で寝てた子がドアップで写ってただけだったのよ。もう、自分の思い通りにならなくて悔しいわ!でも、猫カフェってそれがいいわけじゃない。ねこってそういうところも含めて好きなのよ。」
話は尽きなかった。嬉しそうに話すおばあさんの顔を見ていたらネコミルを作って本当によかったと思った。自分が作ったサービスで入院しているおばあさんの気が紛れたり、まだみぬ誰かが幸せになってくれているのだとしたら。口を食いしばり必死に耐えていたが、両目から溢れた液体で視界が滲んできた。右の鼻水が垂れてきてちょっとしょっぱい味が伝わってきた。
「もうなんで泣くのよ!とにかくネコミルは最高だから私は大ファンよ」
10週目.熱の高い利用者に共通する属性の特定
アンケートの結果を見てみると、利用時間や利用頻度はみんなバラバラだった。このデータと10人とそれぞれインタビューした内容で、熱を持って利用している利用者が誰なのか探し始めてみると不思議なことに気がついた。
アンケートの結果は、1週間使ってみて平均利用時間が3時間、使った回数は2.5回だった。平均でみんな1回につき1時間以上も見ているのか。ただ、長時間見ている人は、わからないとか、毎日4-5時間と書いている人もいて、また、利用明細も毎日を選んでいる人もいる。しかし、インタビューに答えてくれた10人は10人とも利用時間が長く、利用頻度も多かった。どういうことだろう。
「先生、熱量高く使ってくれている利用者がなんとなく見えてきました。」
にゃんこ先生「そうか、どんな感じ?」
「アンケートで、利用時間と、利用頻度、とインタビューへの協力可否を200人に送ったら60人が回答してくれました。そのうちインタビューは10人で30分ずつZOOMで話しました」
にゃんこ先生「なるほど。と言うことはその10人が熱量高いユーザーか、利用時間おおかったでしょ?」
「え?そうなんです。なぜかインタビューに応じてくれた人は全員長時間使う方で。これってどう解釈したらいいんですか?」
にゃんこ先生「無償で30分もインタビューに協力するってめちゃくちゃめんどくさいやん。普通そんな連絡来ても無視するやろ。」
「はい。自分もいやです」
にゃんこ先生「つまり、そのめんどくさいコストを払ってまで何か伝えたいとか、協力してあげたいと思ってくれた人が10人いたということやん。」
「なるほど。ハードルを超えてきた方達ってことですね。」
にゃんこ先生「そう。だから、その10人は熱狂的なファンである確率は高い。次11個目のアドバイスは、熱量高く使う利用者に共通する属性を特定する、やな。誰が熱量高いのか共通点がないか探して、こんごどういう人を増やせば熱狂的に使ってくれるのかネコミル利用者の属性を特定しよう。」
「えっととりあえずインタビューに答えてくれた10人とは30分ずつ話したので私、全員わかります。彼らの共通点を見つければいいんですね。」
にゃんこ先生「そう。年齢、性別、住所、家族、ペット有無、性格、仕事、収入、趣味、国籍、身長、いろいろ探してみ」
共通点か。とにかくみんな猫が好きだったこれは間違いない。あとは猫を飼ってる人もいれば家じゃ飼えないからという人もいたのでこれは関係ない。男性も女性もいたし、年齢も若い方からおばあさんまでいた。共通点などあるのだろうか?
アンケートから10人の利用時間と利用頻度だけを抜き出して眺めていたが特に共通点や傾向はわからない。利用時間順に並べてみるとあのおばあさんは3位だった。入院していると熱狂的に使う。でも入院していたのはおばさんだけだ。
1位の人は40前後の男性だった。丁寧な話し方で仕事ができそうな、でも服装はラフでほとんど在宅ワークだから仕事しながらネコミルを1日中観ているらしい。彼とおばあさんの共通点はなんだろう。
2位の人はこちらも40前後の男性で、
「あ。もしかして。」
10人中8人は入院中のおばあさんを含めて一人暮らしだった。つまり、家で一人で暇だったり、寂しさを埋めたりという使い方だろうか。あと、比較的時間には余裕がありそうだ。
「家か?」
10人のインタビュー動画をザッピングしてみると、そういえばみんな会社ではなく家にいた気がする。会話でも会社にいた人はいなかった。
11週目.その属性が獲得できる再現性のあるマーケティングチャネルの特定
「ねこ好きで在宅ワークが多い1人暮らしの時間に余裕がある方、これが熱量高く利用する属性です。」
にゃんこ先生「ねこ好きで在宅ワークが多い1人暮らしの時間に余裕がある、か。ほーほー。暇とか寂しいとかをねこで埋めてるわけね。入院中のおばあさんとかもそうだしね。」
「はい、なんかこう皮肉ですよね。元はと言えばテレワークで猫カフェに人が来なくなってしまってお店が潰れて。それがきっかけでこうして新規事業を作っているのに、在宅ワークのひとに向けて猫カフェに来なくても生中継で観れるサービスを提供するという。」
にゃんこ先生「ん?何が皮肉なの?」
「だってお客さん来なくて潰れたのに、今度は猫カフェに来ないそのお客さんから利用料をもらうわけですよ。」
にゃんこ先生「お客さんに来て欲しいと思ってた?むしろ来ないお客さんにちょっとネガティブな感情をもっていたわけだ。だから、その人たちからお金をもらうことに対して皮肉だと。」
「ネガティブ、、うんそうですね。正直なんで来てくれないんだろうってちょっとこう。」
にゃんこ先生「もし、時間戻していま当時の店員に戻ったとしたらどうする?」
「今ですか?そうですね、とりあえずお客さんと話して一緒に過ごして、困っていることをなんとか助けてあげられないか、どうやったら喜んでくれるか?やると思います。」
にゃんこ先生「うん。どうやったらお客さんが来てくれるかめちゃくちゃ考えているお店と、どうやったらお客さん喜んでくれるかめちゃくちゃ考えているお店、どっちに行きたい?」
「そりゃあ…」
にゃんこ先生「後者だよね。だれだってそうだし、そういう想いってお店の細部に出ちゃうからお客さんにも必ず伝わる。」
「はい。もしかしてお店が潰れたのは、お客さんが来なかったせいではなく、お客さんのせいにしていた自分のせい。。」
にゃんこ先生「いまのくろまるが当時の店に戻ったら店は潰れていないし、お客さんのせいじゃない。」
なんということだろう。自分はずっと、お店が潰れたことを周りのせいにしていた。コロナのせい、オーナーのせい、来てくれないお客さんのせい。そうやって周りのせいにすることで自分は悪くないと自分に言い聞かせて現実を見ないようにしてきた。でも。
「全部自分だったんですね。」
にゃんこ先生「金とメンターがなかったからやろな。自分給料遅れてたゆうてたからお金なかったんやろ?お金の心配があると人間はいい仕事ができない。今日中に家賃払わないと怒られる時に、どうやったらお客さん喜んでくれるかな?とか心から思えないでしょ。」
「ああ。なるほど。お店もそうでした。家賃とか知ってるので今日は3万円売らないとやばいとか。」
にゃんこ先生「あとメンターは大事。いまのくろまるにとってのワイ。壁打ち相手とか意見をぶつけてフィードバックをもらう相手が、仕事には必要なのよ。人間は弱いからすぐに自分中心になってしまう。」
確かにそうだ。自分が変わったわけではなく今は毎週にゃんこ先生から出される課題を必死にこなしているから、お客さんを中心にやれているだけで。もしかしたら先生がいなくなったら3ヶ月後、また自分はうまくいかないことを環境や人のせいにしているかも知れない。
「自分はこの2ヶ月半目の前の課題をこなすのが精一杯で大変でした。現場で汗をかいてずっと現地に行って。でも、振り返ってみると自分がこんなにも変わっていることがわかりました。」
にゃんこ先生「血を流さないために、いま汗と涙を流すわけや。」
いまさらにゃんこ先生がいなくなったらどうなるのだろうか。もう、自分のことばかり考えていた、シャッターの前で真っ先に自分の給料を心配するような人間には、戻りたくはなかった。
にゃんこ先生「時間もそんなないからな、アドバイス11いくで。さっき特定した熱狂的に使ってくれる属性がどこで拾えるか獲得できる場所を探そう。マーケティングチャネルの特定とも言う。」
「はい、わかりました。どこにいるのか広告を出す先を決めるのですね」
「広告じゃなくてもいいんやけど、継続的に獲得できるか?は大事よね。TVで取材されたとかって継続的じゃないし、一瞬SNSデバズッたとかもだめ。継続的に獲得できるマーケティングチャネルを探して、特定する。」
ねこ好きで在宅ワークが多い1人暮らしの時間に余裕がある方
彼らはどこにいるのだろう?どこで探せば同じような属性の人が見つかるのだろう?
くろまる「同じような属性?」
12週目.少額予算を流してみて獲得単価がLTVの1/3におさまるか
「先生!やりました!みつけました!継続的に獲得できるマーケティングチャネル!」
にゃんこ先生「ほう?結構難しいと思っていたんだけれど早かったね。」
「ねこ好きで在宅ワークが多い1人暮らしの時間に余裕がある方、とか考えてたら全然見つからなくて。そうじゃなくて、同じような属性の人を探せばいいんだと」
にゃんこ先生「いや全然わからんよ笑。おちつけ」
「えっと、熱狂的に使っている人って前に話したおばあさんとかじゃないですか。おばあさんってみさきちゃんっていう猫カフェの常連のお孫さんからネコミルを教えてもらってたんですね。」
にゃんこ先生「ふむふむ」
「だから、友達紹介で広げることにしました。猫カフェってメルマガ会員とかがあるので、ネコミルに加盟してWebカメラをつけてくれたお店の中で、店内のポスターとかお店の常連へのメルマガとかでネコミルを教えてあげるように。お店の紹介で会員になるとお店の動画を見る確率が高いし、お気に入りのねこちゃんにおやつもあげると思うんです。それに、猫カフェとかお店って一回行かなくなるとなんか行かなくなりますよね。でも、ネコミルがあればしばらく来なくなった人でも中の様子がわかるので行きやすくなります。それに」
にゃんこ先生「わかったわかった、詳しい話はいいよ。ネコミルに加盟してくれる猫カフェを起点に、各猫カフェが持っている顧客に広げていくのね。」
「そうです。もちろん利用者同士の紹介でポイント付与もやります。あとは動物病院とペット屋さんにもネコミルに加盟してくれるように営業をかけてるんですが、みんなOKくれて。」
にゃんこ先生「動物病院とペット屋?そんなの24時間観たいか?」
「動物病院は、ねこ飼ってる人からしたら混んでるかどうか観たいってのもあるし、どの動物病院に行ったらいいかわからないので中の様子が見れるって嬉しいんです。」
にゃんこ先生「ほー。ペット屋は?」
「もう単純にねこが見れます。しかも猫カフェってニャンコの入れ替わりがそんなにないけどペットショップってどんどん入れ替わるので違いが出ます。」
にゃんこ先生「そんなもんかねぇ?」
「これはにゃんこ先生や僕が決めることじゃないと思うんですよね。利用者が観たいなら、利用者がよろこんでくれるなら僕はそれを叶えてあげたい」
にゃんこ先生「わかった。最後12個目のアドバイスだ。そのマーケティングチャネルに少額でいいから実際にお金をかけるとか動かしてみるとかやってみて、1人の利用者がいくらで獲得できるのか平均獲得単価がいくらなのかを特定して、それが粗利ベースの利用金額で何ヶ月ぐらいで元が取れるのか調べる。」
「粗利ベース?」
にゃんこ先生「今回毎月500円とるうちのいくらが手元に残るん?」
「お店に70%渡すので毎月150円が残ります。」
にゃんこ先生「じゃあその150円が粗利。獲得単価が1000円なら元を取るために7ヶ月かかるわけだ。」
「なるほど。いくらで獲得して、いくら粗利が出るか」
にゃんこ先生「その人が粗利ベースで合計いくら使うのかLTVを計算して、獲得単価の3倍以上のLTVが見込めたらアドバイス12は達成ということになる」
「えるてぃーぶい?」
にゃんこ先生「その利用者がいくら使ってくれるかの想定値のこと。例えば平均6ヶ月使ってくれるのであれば、LTVはいくらになる?」
「500円の6ヶ月で3000円ですか?」
にゃんこ先生「そうそう。粗利ベースのLTVは?」
「150円の6ヶ月で900円です。」
にゃんこ先生「あってる。つまり今回1人利用者が増えると900円粗利が出るのね。でも粗利は利益ではない。わかる?」
「粗利は利益ではない???」
にゃんこ先生「すまんな、ちゃんと説明する。売上から原価を引いたものが粗利。これはいいか?」
「なんとなくわかります。ネコミルは70%をお店に渡すので500円の30%で150円が粗利です。」
にゃんこ先生「その150円って利益なのか?言い換えれば150円儲かったの?他に支払いはない?」
「いやいいやいやいや、150円儲けじゃないです。すでにサイト作るのに100万円使ってますし、自分の給料も出さなきゃいけないし、お店のカメラ代打だって中で」
にゃんこ先生「そう。だから1人900円の粗利が出る時に、獲得単価が900円だとどうなる?」
「大赤字ですね。じゃあいくらぐらいで獲得できればいいんですか?」
にゃんこ先生「事業の利益率によって変わるけど、1つの目安としては3分の1以内。粗利ベースのLTVが900円なら、獲得単価は300円以下になるか。」
終わりに.起業独立をしたい時にどうしたらいいのか。
あれから1年が経ち「猫カフェ生中継ネコミル」はすっかりと猫好きの間で人気となっていた。アプリ版の利用者が10万人を突破し、毎月の会費だけでも5000万円が入り、そのうち1500万円が売り上げになる。しかも、チュールに代表されるギフトの売り上げも同程度で、こちらでも1500万円、合わせて毎月3000万円ほどの売り上げが立っていた。
3ヶ月経ったあの日、オーナーと話をして新規事業ではなく、株式会社ねこみるとして完全な別会社に独立させることになった。10万円のポケットマネーで10万株を発行し、オーナーから出してもらった300万円で3%分の株をオーナーにも持ってもらった。
ネコミルは猫カフェのお客さんを中心に爆発的な人気となり、加盟店も利用者もクチコミで広がっていった。毎月の解約率が3%、つまり33ヶ月続くので粗利ベースのLTV(生涯利用金額)は150円*33ヶ月で約5000円。広告費は1人紹介ごとに500ポイントを紹介者に支払うので十分に元が取れる。そもそも現金ではなくポイントなので実際にネコミル側枯らしたら500円まるまる出ているわけではないのだが。
猫カフェと動物病院とペットショップをまとめてネコミル大学として勉強会も開催しているがこれが当たった。ペットショップ同士が提携したり、動物病院が猫カフェのかかりつけ医になったり、コミュニティが生まれたのだ。提供側のネットワーク効果が強く効いた結果解約はほどんどなく、むしろ噂を聞きつけた店舗が自然と増えていった。
「うちのしろまる寝とるがな。。」
あれからWebカメラを自費で用意すれば猫カフェなどのお店じゃなくねこを飼っている一般の人でも生中継できる様にした。家ネコミル機能も付けた。くろまるの自宅に取り付けたWebカメラを通して飼い猫のしろまるくんがネコミルから世界中に配信されている。
途中から気がついたのが、オフィスからでも移動中でも見れるのである意味ペットカメラのような監視の役割も果たすようになった。
お店だけじゃなく誰でも猫を買っていればネコミルに登録して24時間ねこを生中継することができる。生中継猫カフェの民主化だ。
次のステップは海外展開で、世界中のねこがみたいというどうしようもなく、しょうもない利用者の声を叶えてあげたい。そして日本の猫カフェを、日本の家ねこを世界中に紹介したいと思っている。人間向けの動画であれば翻訳や字幕が必要だが、ねこの生中継にはそんなものはいらないのでそのままグローバル展開ができる。なにしろ猫語なのだから。
にゃんこ先生に会ってからの3ヶ月間は本当に大変だった。ペットショップをクビになった何者でもない自分がまさか事業を展開して会社を作って起業することになるとは。全部にゃんこ先生がいたからできたことだ。
1週目.机上じゃなく現地現物現場で
2週目.自分のアイデアじゃなく一次情報で
3週目.自分が助けたい顧客はだれなのか
4週目.顧客が抱える課題の特定
5週目.その課題のために使われる予算の特定
6週目.その予算と引き換えに提供する解決法の特定
7週目.その解決法を発揮するMVPの提供
8週目.本当に解決法を発揮するプロダクトを作れるか
9週目.初期利用者の中で熱量高く使っている利用者はいるのか
10週目.熱の高い利用者に共通する属性の特定
11週目.その属性が獲得できる再現性のあるマーケティングチャネルの特定
12週目.少額予算を流してみて獲得単価がLTVの1/3におさまるか
くろまるが知らずにやってきたことこそが、アフターコロナで店舗ビジネスが生き残るための、PdM(プロダクトマネージャ)による店舗のDXだった。
「先生…お元気でしょうか」
にゃんこ先生「おい、勝手に消えたみたいにすな」
「ああ、先生おはようございます。いやなんかこう当時のことを思い出しちゃって感傷的に。」
あの時3ヶ月が過ぎてにゃんこ先生はもうええやろ、と言い残して去ってしまったのだが、むりやり頼み込んでうちの会社の顧問として今でも継続的に手伝ってもらっている。
「そういえば、あの時なんで何もなかった自分を助けてくれたんですか?」
にゃんこ先生「そうやな、世の中には聞かんでもいいことがある。くろまるは余計なことを知らずに、どうやったらお客さん喜んでくれるか考えとったらええんやないか?」
「ふふっ。それもそうかも知れませんね。」
にゃんこ先生「30万円で頼まれたんや。」
「ふぇ?」
にゃんこ先生「いやだから、くろまるの店やっとったオーナーおるやん?あれが、新規事業を若い奴に任せたいけど不安だから、3ヶ月間ぐらい立ち上げ面倒みてくれいわれてな。」
「はぁ!?え、なんすかもう!さっきまでめちゃくちゃ感傷的にいい話思い出してたのに!」
にゃんこ先生「これみてみ?起業副業ブートキャンプ」
https://bootcamp.tabata-univ.jp/kigyoufkugyou
「起業・副業ブートキャンプとは、起業する方や新規事業プランを作りたい方を対象に、「誰がどんな不を抱えているのか」を徹底的に掘り下げて新規事業を作り上げる、3ヶ月間の実践型短期集中ブートキャンプ…」
にゃんこ先生「な。(ドヤ顔)」
「な!じゃないすよ!!なんなんすか!普通に募集してるじゃないすか!え、じゃあ僕を選んだとか、僕だからとかじゃなないんですか?」
にゃんこ先生「まあ、仕事やからな。ええ仕事したやろ?」
「いや、ええ。。。じゃあ他にも僕みたいな弟子が…?」
にゃんこ先生「全国にぎょうさんおるで?」
「なんてこった。ああっ!じゃあ11週目ぐらいで時間がないって言ったたのも、3ヶ月たって姿を消したのも!?」
にゃんこ先生「3ヶ月30万やからね。そんな拗ねんやな。起業とか新規事業に必要な大事なものってなんや?くろまるの体験として」
「それは、そこに貼ってる12個のアドバイスが自分の全てです」
にゃんこ先生「そのアドバイス誰がゆったん?」
「先生です」
にゃんこ先生「それって30万円で依頼してきたオーナーがおったからもらえたアドバイスよな?」
「それはそうですけど」
にゃんこ先生「だから前にいったやろ、金とメンターが必要やて。」
fin.
あとがき
起業副業ブートキャンプ事務局の荒木です。私はこのnoteみたいに、起業副業や新規事業の事業構築には「壁打ちをしてくれるメンターが必要だ」と思っています。だから、起業副業や新規事業や家業など1人で頑張っている方で、文中のくろまるみたいに壁打ちしてくれるメンターが欲しいなという方は、ブートキャンプでお待ちしています。一緒に事業をブーストさせていきましょう。
https://bootcamp.tabata-univ.jp/kigyoufkugyou
※募集は4/10 23:59まで
ご意見等はこちら https://twitter.com/arakens
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