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代官山のちいさな美容室

代官山の蔦屋書店が好きだ。広々としたセンスのよい空間に時代の空気を反映したエッジの効いた雑誌や書籍が陳列されている。わたしは宝探しをする子どものように棚から棚へと歩き回る。ここに来ると、人生の新しい扉が開けるかもしれない、という期待が湧き上がってくる。

代官山の蔦屋書店は1号館から3号館に分かれている。筆者はファミマが入っている1号館1階のトイレが好きだ。きれいなトイレは、書店に滞在する上での大きな安心材料になる。

タカムラさんの美容室は、そのトイレから徒歩5分ほどの場所にある。恵比寿方面からタクシーで行くときは「旧山手通り沿いにある蔦屋書店を少し通り過ぎたところにある信号を左折して、美空ひばりさんの記念館がある坂を下ってください」とお願いしている。その急な坂は通称「ひばり坂」と言われているそうだ。
 
白い外観のその美容室は、閑静な住宅街のなかにちょこんと佇んでいる。競争の激しい都心にあって、玄関前の桜の苗が大木に成長するまでの長きにわたり、アクの強そうなゲストたちをおだやかに迎い入れ続けている。どんな人もカット前にサーブされる手作りスイーツに舌鼓を打ち、一新されたヘアスタイルに心を躍らせながら帰っていく。
 
今年は緊急事態宣言なるものが出されてしまったせいで、3ヵ月ぶりの美容室には初夏の空気が漂っていた。帰り際、タカムラさんはおもむろに火打石を取り出してカシャカシャっと邪気払いをしてくれた。一体、どこからそんな発想が出てくるんだろうか。ニヤニヤしながらひばり坂をのぼり、蔦屋書店に向かった。

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