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オールド・マン(・アンド・ウーマン)・ブルース

あなたから久しぶりに便りを受け取ったのは
(その手紙がわたし宛のものであったらもっとよかったのですが)、
明け方の四時でした。
わたしはちょうどそのとき、
あなたのことを考えていました。
この旅先で、
朝の四時にです。

このごろ、わたしの思考は、
最後にはきっとあなたのところに戻ってきます。
行き先を探してる人と、
帰る場所を求める人が、
出会って結ばれるのが物語ですが、
それが物語になるのは、
そういう二人が、現実には、
いつもどこかですれちがっているからなのでしょう。

まだ見ぬ連れ合いを求める男女かもしれません。
だけども、もういちどは
出会っている人たちかもしれません。
親子かもしれませんし、
夫婦かもしれません。
親友同士かもしれませんし、
恋人たちかもしれません。
それでもわたしたちは、
互いにすれちがっていくのです。

そうなる理由は、
あなたもうすうす知っています。
行き先を求める人は、
よりよいものがあると信じるかぎり、
自分の力を信じられるかぎり、
まだ見ぬ場所にある
新しいものに
憧れます。

もっと好きになれるものが
どこかにあって、
あなたに掴まえられるのを待っている。
そういう希望があるかぎり、
旅を続けます。
倒れてもまた立ち上がって、
前を向いて進みます。

すべてが失われた中から、
何物かを留め置く
最後のチャンスを求める者は、
あとに取り残されますし、
取り残されてしかるべきです。
自分のすべてを犠牲にして、
他人を愛することができるのは、
人生をもう使い尽くした人だけです。
でも、あなたは気をつけないとなりません。
あなたの希望であったものを、この愛は、
外から押しつけられたものに
変えてしまうのです。

せめてあなたの多くの行き先の一つ、
寄り道先、
しばしの停泊所にでもなってみたい。
それだけが、
もう動くことに疲れた者に許される、
ただ一つの願いなのです。

でも、わたしはもう一つ
許されない願いを、
心に隠しもっています。
あなたが旅に疲れ、
新天地ではなく、
失われた故郷を
希うようになったとき、
きっと懐かしく思い出されるのが、
あそこが自分の旅の終着点だったかなと後悔するのが、
わたしであればよいなということです。

そうやってわたしたちの愛は、
こっそりあなたに復讐するのです。

もちろんわたしはこれを、
酔っぱらって書いています。
なんぼ年をとったからいうて、
こんなことをしらふで
書けるわけがないじゃないですか。

コーヒー一杯ごちそうしてくれれば、生きていく糧になりそうな話をしてくれる。そういう人間にわたしはなりたい。とくにコーヒー飲みたくなったときには。