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一丁前に悲しむ私を、日々の生活がそうさせないぜ

ふと、暴力的な勢いを持ってやってくる悲しみを、冷蔵庫を閉めなきゃいけないという理由で掻き消した。

母親がいた痕跡を一所懸命消した冷蔵庫は、結局「母親がいた痕跡を一所懸命消した冷蔵庫」という痕跡を残していることに気づいてしまったのが、良くなかった。

冷蔵庫を開く度に、キッチンに立つ度に、本来ここは母親のテリトリーなのだと思うのが辛くなって、もう彼女は戻ってこないのだと腹を括って、模様替えをして、私のテリトリーに変えた。

それで何とかやっていた。

今日に限って、悲しくなってしまった。

いや、腹の底で本当はずっと、悲しい。

人々は「笑って幸せに暮らしたい」なんて言うけれど、笑って幸せに暮らしている私はずっと、「泣いて嘆いて暮らしたい」のが本心なのだ。

けれどもそれは、日々の生活がそうさせない、ぜ。

だってこれから仕事だし

新人さんが入ったし

私を求めるお客さんが今日もいっぱいいるし

明るくていいねって褒められたし

家に帰る前に晩御飯の買い出し行かないと

お皿も洗ってタオルも洗ってあげないと

悲しみには蓋をして、笑って楽しく過ごさないと。

お母さん、貴方もそうだったんですか?

だからここから居なくなってしまったのですか?

私達は貴方の悲しみで、蓋をされてしまったんでしょうか。

それでも頑張って楽しく暮らします。生活は回り続ける。欠けたピースだらけの生活を。

―暗転―

休日だってはしゃぎ続ける命が、

ひび割れたささくれに膿を作って。
 
大変楽しそうに過ごす父親、都合のいい時だけ親ヅラしますね。

今日と昨日は女のところに居て、帰っても来なかったのにね。

欠けたピースのままじゃ、紡ぐことすら嫌ですか。

壊した家主が居ない部屋の隅に、今日も私はひとりでいます。

母親が居た時から貴方は変わらないから、距離を取らなきゃいけないのは私ですね。分かっていて、分かっていて、分かっていて非常に不愉快です。

申し訳なさそうに善人ぶって話しかけてきたり、苦労かけてすまないと頭を撫でてきたり、私にそんな税抜198円しか無さそうな情けをかける暇があったら私に暖かな家庭を下さいよ、下さい。

けれどもそれは、ひび割れた生活がそうさせない、ぜ。

父親は私達とは行かなかった遠出を彼女とばかりし

母親は他に男を作って出ていきましたし

妹は親元離れて暮らしていますし

母親が放置したこの家を誰も掃除しませんし

実家の味は二度と食べられませんし

もう思い出せもしない

悲しくてうずくまって泣いてみるけど

解決策なんてまるで浮かばない


お父さん、貴方だけが何時も楽しそうですね。

貴方の笑顔の下には、税抜198円じゃ大赤字の

悲しみが蓋をされて燻っていますよ。

それでも頑張って楽しく暮らします。生活は回り続ける。欠けたピースだらけの。

―暗転―

最低なことして最高になろうよ