「したたむ」という世界【静岡県掛川市/初馬】
掛川の山の奥の、そのまた奥へ
したたむ(古語)…整える、支度をする、飲んだり食べたりする、書き記す。
そんな意味を持つ「したたむ」さん(お店の名前です)。その言葉の世界を、みずみずしく形にした古民家への旅を楽しんだ時の記録。
2019年、とあるイベントで偶然相席させていただき、一緒にお食事を楽しんだのが、東京から静岡県掛川市への移住計画を進行中だったご夫婦。料理人のご主人と、陶芸家の奥さま。
「今は古民家を絶賛リノベーション中なので、ぜひオープンしたらいらしてくださいね。お店の名前はもう決めてあるんです。「したたむ」と言います」
奥さまのうつわに、ご主人の料理を盛り付けるお店をつくるとのお話。陶芸教室もできたらいいな。
Facebookでリノベーションの進捗具合や、ワークショップとして学生さんたちと大工仕事をするお姿や、植樹会などの様子を遠くから(電波越しに)見させていただき。
※ご夫婦が本当に手作業でコツコツ草を刈り、竹を切り(もう最近は慣れたとのこと。崖での作業も!)、土を削り、土留めを作り、何もかもを手作りされている。恐ろしいほどの面積を誇る内壁、外壁の塗り壁も全て手作業!→壁を抜く、などの専門的な部分だけ大工さんにお願いしたそう。
2020年、遂にお店を始められたと知るや否や、大慌てで予約し、訪問。
※2022年現在は、予約開放と同時にすぐ満席になり、ほとんどレアチケットのような感じになっている幻の名店。
いざ、「したたむ」さんへ。
築200年の古民家をセルフリノベーションした夢幻空間
奇しくも前日までの長雨で、「行きやすいルート」の道路が陥没して、険しい山道コースの通行を余儀無くされたものの。
なんとかしてたどり着いた場所に、白い塗り壁に覆われた静謐な一軒家がありました。築200年あまり。
入店直後から絶叫(ごめんなさい)。感動しすぎて。
雨の日の濃い緑に覆われた、白壁と木目と、古民家の天井部分を染める墨色が織りなす世界。囲炉裏で烟られた木は真っ黒に染まり、対比するような漆喰の白が眩しい。
難しい言葉はいらない。とにかく素敵。
身の回りの「美味しいもの」に気づかせてくれる繊細な料理たち
地場産の素材を多く活用するお料理は、「素材と水と少しの調味料だけを使う」というようなシンプルな調理法ながら、気が遠くなるほどの手間暇を経て皿に盛られ、芸術品のような仕上がり。
奥さまの生み出すお皿が、またシンプルで味わいがあって、強くてしなやかで風情がある。
前菜に添えられたギボウシ(食べられるお花)。
とうもろこしのお豆腐。無言で食す(美味しい)。
イチボのローストビーフはほどよい弾力があって、でも柔らかくて、玉ねぎの甘みいっぱいのソースがよくあう。
一皿ごとに、丁寧にサーブされるお料理をいただく時間はゆるりとすぎて、気がつけば3時間!
この贅沢感、すごい。
食事後も色々とお話しさせていただき、山に住み着く猫ちゃんたちのお姿も拝見し、さらには奥さまの陶芸工房まで見せていただき。ありがとうございました。
また、いつか訪問したいと思うものの。
予約日の当日まで覚えていても、いざ予約開始時間をうっかり忘れること幾星霜。そして気づくと満席による締め切り。
いつか、行けるだろうか。