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労働人口は多いのに、なぜ「人手不足」なのか?

■「少子高齢化で人手不足」は間違い

最近では、当たり前のように「少子高齢化のせいで人手不足」と言われるようになりましたが、2010年まで生産年齢人口は増えていました。
その頃に生まれた人はまだ10歳なので、労働とは関係のない年齢です。

総務省 生産人口 令和4年

少子高齢化と人手不足の関連付けは「若手労働人口が減少していく」という将来不安の話と混同されているのかもしれません。

総人口における生産人口割合(15歳以上)の推移・予測@てこ

昭和25年/1950年は、総人口8411万人に対して、15歳以上の生産人口は65%の5543万人でした。
最も人口が多かった2010年は86%の1.1億人でしたが、そこから生産人口数自体に大きな変化はありません。
少しずつ高齢者が増えているというくらいです。

就業者数と生産人口(15歳以上)における就業者の割合@てこ

生産人口、労働人口、就業人口は別に算出されています。
平均就業者数は労働人口数より僅かに少ない人数として出されていることが多いですが、就業者数や就業率でみても、これまで増え続けていて減っていません。

団塊世代が退職後も、高齢労働者の増加や女性の社会参画が進んだからで、どの数字からみても今のところ「労働者不足」という状態ではありません。

少子高齢化またはその他の理由によって労働者が不足しているという事実はない、というのが現状の大前提になります。

■ 今後は?

いずれ人間は労働をしなくなるかもしれませんし、世界情勢や天災も含め、何が起こるか分かりません。
人力での仕事も減っていくでしょうから、今の価値観や現状の社会体制を元に、何十年も先の未来のことを心配するのはナンセンスな気もします。

そのうえで、現時点での国の推算をみると、2065年の人口数は8808万人、生産人口は90%まで増えると予想しています。
少子化が進むと予想しているということですが、生産人口も7910万人という推算なので、人口減少分だけ生産人口も減る感じです。
子供は少ないが、働ける人口はそれなりにいる状態ともいえます。

日本は高齢になっても働く人が多いですが、75歳以上を労働力から外すとしたら、現在より10%ほど生産人口が減ることになります。
10%くらいだとテクノロジーで補えると思います。

@てこ

重要なのはその先で、2070年には団塊ジュニア世代は殆どいなくなっていると思いますが、各歳データの出ている2022年を元に、2070年の50代以上の年齢構成比を出してみたところ、年代別に多少の増減は見られますが、全体的に現在と大差ない印象です。

50代以下の人口数はまだ分かりませんが、2065年時点でも若年層は減っているので、その傾向は変わらないと思います。
ただ若年層の減少は人口減に比例する部分なので、労働人口もその分少なくて良いため、50代以上の年齢構成比があまり変わらないなら、労働人口が大幅に不足するような状態にはならないと思います。

1950年は第2次世界大戦後(~1945)ですから、今よりもローテクで仕事をしていましたが、3600万人くらいの労働力で日本は復興できました。
2065年は高度経済成長期より労働人口が2477万人多いと予想されています。
理屈で考えても、テクノロジーで労働を補っていくでしょうから、人間は、人数よりも、何を担うのかが重要になっていくと思います。

何にせよ「人口数」はそれ自体に意味があるわけではなく、社会システムの一要素にすぎません。
労働人口が沢山いても就業率が低ければ労働力は不足しますし、就業率が高くても低賃金なら幸福度は下がります。

一時的に高齢労働者数が増える時期はありますが、おそらく団塊ジュニア世代がいなくなった後は、自然と人口バランスが整っていきます。
そもそも若者層が減ることで社会が悪化するかというと、そういうわけでもありません。
犯罪率も離職率も若者は高く、それが人手不足の原因のひとつでもあるからです。

■ 離職率が高いから「人手不足」

人手不足の原因を「少子高齢化」「団塊世代」「非正規の雇用待遇」としているのは、殆どが民間の記事です。
厚生労働省も将来不安は示しているものの、人手不足の原因を以下のように分析しています。

急速な少子高齢化の中でも、女性や高齢者の就業率の上昇により、就業者数は人口減少 が始まった2008(平成20)年以前の水準を維持している。

令和4年版厚生労働白書

まとめ(人手不足や入職・離職等の現状)
① 34歳以下では、産業・企業規模にかかわらず入職率が高く、我が国では、若い内 に入職し、その企業に勤め続けるようなスタイルが確立している。ただし、若い世代では、離職率も高く、こうした年齢層が転職等を通じた適職選択過程にあるものと考えられる。
② 35-59歳では、人手不足産業の中小企業ほど積極的に採用している。ただし、離職率も同様に高いため、人材の確保(人材流入)にはつながっていない。
③ 60歳以上の層でみると、定年制や退職金制度の存在により、比較的人手不足が生じていない産業や大企業ほど人材流出が大きく生じている。一方、人手不足産業や 中小企業では、高齢者の人材流出の度合いが小さい。

○ さらに、雇用者の年齢構成比(ストック)も併せてみると、特に人手不足分野にお いて、以下のような傾向が見られる。
① 人手不足産業の大企業では、34歳以下の若手の確保に成功(入職率が高く離職率が低い)しており、こうした若手が雇用者に占める割合が高いが、
② 人手不足産業の中小企業では、若手の確保が出来ておらず(入職率は高いが離職率も高い)、むしろ60歳以上の層に労働力を頼っている面がある。

平成30年 人手不足の現状把握について

日本の企業は、若手採用に積極的ですが、若手の方が離職率が高いので、人材が定着せず人手不足に陥っているということです。
この傾向は中小企業で顕著なようです。

一般労働者の年齢階級別平均勤続年数の推移

平均勤続年数をみても、30~40代の離職率は年々上がっています。
特にこの年代の男性の勤続年数は右肩下がりです。

大手企業は離職率を抑えられていますが、日本は99.7%が中小企業です。
大手と中小の比較では、待遇改善を求める声が上がりやすいですが、若手の待遇にはそれほど差がありません。

大手企業に就職する理由は、将来性や社会的信用があるからです。
相対的な優位性ともいえるので、ホワイト化すれば中小企業が大手企業と同じ評価を得られるかというと難しいと思います。

一方で、離職率の低い年配労働者は中小企業に多く、大手企業だと退職制度などが十分であるため、退職後はあまり働きません。
大手企業の労働者は、離職率は低いですが、人生を通してみた時の労働期間は短い傾向にあるということです。
居心地の良い優良企業が増えても「労働者不足」に繋がるということです。

もちろん優良企業は増えた方が良いです。
ただFIREブーム(Financial Independence & Retire Early)からも分かるように、「大きく稼いで早期リタイア」を希望する若者は少なくありません。
昔からの傾向であり、若者に限った話ではありませんが、入職率や離職率の改善をお金でどうにかしようとすると、短期労働者が増えるので、社会全体では堂々巡りになってしまいます。

■ 偏りの解消

とはいえ若手の動向だけで人手不足が起こっているとは考えにくいです。
若者が少ない地方でも人手不足は起こっていますし、近年は第一次生産からサービス業へと産業構造が変化していて、全産業で人手不足が起こっているわけではありません。
たとえば、農業や漁業を目指す若者は多くありませんが、アイドルや声優になりたい若者は沢山います。
こういった「偏り」も人手不足の要因のひとつです。
厚労省のまとめでも「産業別の対策が必要」とされています。

でも、日本社会はフルタイム労働を基軸に社会システムが作られています。
フルタイム労働として選んだ仕事で生涯設計をしなければいけないことが多いので、重労働分野への参入ハードルは高く、継続するのも難しいです。

そこで重要になるのが、以前提案した8・4hWです。
フルタイム労働者は正規社員として雇うかわりに副業を禁止し、非正規はハーフタイム労働者として雇い副業は自由、という内容です。
入職率や離職率ではなく、流動性を重視した考え方です。

いまある問題は「労働者不足」ではなく「人手不足」です。
労働人口は十分にいるので離職しても入職すれば人手不足にはなりません。
そこに滞りがあるということなので、流動性を持たせることで人手不足は解消する可能性があります。

4hWのハーフタイム雇用(4時間労働制)は、複数の組織に所属するということですから、セーフティネットになります。
少なくとも失業給付の支出は減るので、国次第で可処分所得は増やせます。

また、心身の負担は休息や負荷分散でしか軽減できません。
賃金を上げても疲れは取れませんし、高給水準になっても短期労働者が増えるだけです。
フルタイム労働を基準にした社会設計では、回転率もあげることができず人手不足になります。

重労働とされる仕事で重要なのは、労働時間です。
短期間労働だと離職することで培ったスキルがリセットされてしまい、技術の伝承もできませんが、短時間労働であれば長期間続けられます。

8・4hWであれば、時短労働などもこの基準にあわせることができます。
6時間を基準にした時短労働だと、ほぼフルタイム労働への対応と変わらないので、待機児童解消のために託児施設等を増設しなければいけません。
実際そうしましたし、これからも維持費がかかります。
でも、時短労働が4時間設計であったなら、子供を預ける時間は半分で済むので、これほど増設する必要はありませんでした。
6時間ではなく4時間にしていれば、何兆円もの支出をカットできました。
給与補填をしたとしても、かなり支出を抑えられたと思います。
交代制なので通勤時間帯もズレて通勤ラッシュの改善にも繋がります。

産休や育休の皺寄せも、ハーフタイム労働なら人の出入りの負担は最小限で済みますし、外国人技能実習生や留学生に頼らなくても、国内の労働力だけで回せるかもしれません。

それに、人が集中して仕事ができるのは4時間程度と言われているので、フルタイム労働はそれほど効率が良くありません。

今でも8・4hW的な生き方はできますが、「非正規」はなにかと不利な立場に置かれます。
その中でも短時間労働者は、ローンを組んだり賃貸契約などをする際の信用が不十分とされ、希望通りの人生を送れないことが多々あります。

社会の仕組みとして定着させるには労働法の改正が必要です。
ハーフタイム労働も「正規」として扱うことに意味があります。

日本の労働法は、基本的には時間で労働区分を管理していますから、本来は、雇用形態を分けるなら労働時間で分けるのが自然です。
でも国は常に「お金」で解決しようとするため、「時間」の問題を解決できずに悪循環しています。

長時間労働を是正するといっても仕事があればサビ残をするしかないので、「短時間労働という選択肢を選びやすくする」という上方修正が必要です。
雇用に流動性を持たせながら、フルタイム労働と同じくらいの労働力を確保しつつ、会社の倒産が社員の負担にならないようにするには、8・4hWを基軸に社会を回していく必要があると思います。



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