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なぜ人は「十三機兵防衛圏」をクリアすると早口で感想を語ってしまうのか(ネタバレなし)

十三機兵防衛圏、クリアしたぞ!

もうみんな散々感想書いてるしさすがにいいかなと思ったけど、やっぱ書きてぇ~! ってなったので僕も感想書きます。なぜ人は十三機兵をクリアすると早口で感想を語りたくなってしまうのか……。

ネタバレはありません。


断片化されたストーリーが、やがて一本の線でつながっていく

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十三人の主人公、複数の年代・舞台、細切れのシナリオ――。10分くらいで終わる短いエピソードを読み進め、「To be continued...」が出たらまた次のキャラへ。

個々のエピソードはつながっていたりつながっていなかったりバラバラで、いつ、どこで起こっている話なのか、次はどこから始まるのかがまったくわからない。例えばさっきまで1980年代だったのに、また始めたら今度はいきなり2020年代から話が始まったりする。そしてややこしいことに、この世界にはタイムトラベル的な技術があるので、年代が先だからといってさっきのエピソードより時系列が後であるとは限らない(「年代は未来であっても、主人公にとっては過去のできごと」ということもある)。

こうして断片化されたストーリーを、プレイヤーが(脳内で)正しくつなぎ合わせることで、やがて1つの大きな物語が浮かびあがってくる。少年少女たちはなぜ機兵に乗って戦うのか。街を襲う「D」と呼ばれる怪獣の正体は。そもそもこの世界はどうなっているのか……。

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最初はほとんどのエピソードが意味不明なんだけど、読み進めていくとやがて「あ、さっきのアレってあのエピソードとつながってるのか!」と気付く瞬間があって、こうなるともう止まらない。あとちょっと……あと1人だけ……と遊んでいたら、久しぶりに「ゲームで寝落ちするまで遊ぶ」という体験を味わってしまった。

「ビックリマンシール」の物語手法

断片化されたストーリーという点では、僕の世代だとやっぱり「ビックリマンシール」を思い出す。

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▲Amazon.co.jp「ビックリマンオールスター 全42種 コンプセット」より

多分70年代後半生まれにしか通じない気がするので補足しておくと、ビックリマンシールって裏面に3行くらいの短いストーリーが書かれていて、1枚1枚だと意味不明なんだけど、全部つなぎ合わせると1つの大きなストーリーが見えてくる構造になってたんですよ。あと同じことをゲームでやった先駆者としては、遠藤雅伸さんの傑作DT Lords of Genomesや、最近の成功例としてReturn of the Obra Dinnの名前もぜひ挙げておきたい。

そういう意味では、ストーリーテリングの手法として必ずしも新しいわけではないんだけど、このゲームの場合さらに「狂気的なビジュアルの美しさ」とか「このゲームならではの語り口」とかそのへんもあって、先に挙げた先駆者たちとはまた違った強烈さがある。少なくとも「このビジュアル、この語り口でしか描けなかった物語」であるのは間違いなくて、それだけでも心から「いいもん見せてもらった!」と思えた作品だった。

「想像の余地」が生み出す「体験強度」の強さ

このゲーム、止め絵の狂気的な美しさとは裏腹に、実は意図的にかなり表現を「絞っている」のがうまいんですよね。

例えば、“終始サイドビュー”という「視点の制限」。例えば、“地の文”がなく、ほとんどがキャラ同士の短いセリフの掛け合いで進んでいく「文字情報の少なさ」。あとキャラの動きのパターンは実はそんなに多くなく、背景の書き込みに比べ、実際動かしてみるとやや「ゲームっぽさ」が目立つ。

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要は、話のスケールやビジュアルの美しさのわりに「描かれていないこと」が意外と多い。でも、本作の場合それがものすごくいい方向に働いていて、結果どうなるかというと、プレイヤーはその「描かれていない部分」を必死に(いいように)想像で補おうとするわけです。

そしてこの空白の多さと「断片化されたストーリー」という物語構造はべらぼうに相性がいい。プレイヤーはバラバラのエピソードをつなぎ直す過程で、ごく自然に「あれは何だったんだろう」「ここはこういう設定なんじゃないか」と見えないところに思考を巡らせ、結果、描かれている情報の何倍も豊かな世界が脳内にどんどん積み上がっていく。遊んだ人たちが一様にこのゲームについて「すごかった!」と語りたがるのも、単にストーリーが面白いというだけではなく、こういった「体験としての強度」がめちゃくちゃ強いからだと思うんですよね。逆にもし、このスケールの話をご丁寧に全部ちゃんと描こうとしていたら、恐らくかなり薄っぺらいストーリーになっていたんじゃないか(ちなみに「全部ちゃんと描く」という、別の意味で狂気的な方法で、同じくらいスケールのデカい話をやってのけたのが「Detroit: Become Human」です)。

それからもう1つ、「描かれている部分」が狂気的に美しいからこそ、描かれていない空白部分がより美しく感じられる、ということも書き添えておきたい。例えば本作の「ロボットもの」としての美点の一つに、機兵の「デカさ」と「重さ」をめちゃくちゃ感じる、というのがあるんだけど、これも機兵の描写をあえて絞りつつ、数少ない「見せ場」を効果的に見せているからこそだと思うんですよね(実際にゲーム中で機兵が動いているシーンはかなり少ない)。「プレイヤーに想像の余地を与える」という手法はどっちかというと昔のゲームに多かったんだけど、それをヴァニラの映像水準でアップデートするとこうなるのか! という感動もあった。

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もちろん冷静に見ると「この形だから描けたストーリー」でもある一方、例えば「プレイヤーの混乱を誘うためだけの設定多すぎじゃね!?」とか、「この形だからこその粗さ」というのも確かにある。あるんだけど、ただそういう細かい部分を差し引いてもなお、僕の中では「体験としての面白さ」が圧倒的に上回った、というのが素直な感想。

それだけこの「物語体験」は強烈で、ゲーム・映画・小説などなど、あらゆるメディアを見渡してみても、ここまでの衝撃を味わわせてくれる作品にはなかなか出会えないんじゃないかと思う。ゲームという装置を使って「まだこんな物語表現ができたんだ!」と素直に感心してしまった。かれこれ40年近くゲームで遊んできて、それでもまだこんな新しい出会いがあったりするからゲームはいいですね。

あそうだ、わりと致命的なネタバレ要素があるゲームなので「気になるけどまだ遊んでない」という人はネタバレ食らう前にとっとと遊んだ方がいいぞ!



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