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「疾風ガール」を読んで_読書感想文#2

才能を持つべきものが存在する。

それを妬み、苦しみ、生きていく。

一生かけても敵わない、きっと住む世界が違うんだと自分に言い聞かせ、
割り切って生きていく。
自分の人生に嘘をついて違う自分を演じながら
想い描いていた人物像とのギャップに苦しみ、それを埋めようともがく。

かたや一方で生まれながらの才能に恵まれ、アーティストへの道を駆け上がっていく。

この物語は一つのバンドを舞台とした実力派売れっ子ボーカリスト「薫」とその背中を追いかけるギター少女「夏美」の二人の真の「顔」に迫る
ロック&青春ストーリーである。


【あらすじ】

主人公でギタリストの「夏美」はペルソナ・パラノイアというロックバンドに所属していた。
そのバンドメンバーの中に「薫」という天才的ミュージシャンがいた、薫はペルソナの中で中心的な人物でインディーズの中で少しは名をあげたペルソナを引っ張っていた。

そんなある日、「宮原」という芸能事務所の人間が「夏美」をスカウトしに来たのである。
宮原は過去に一人の女の子の売れさせることが出来ずにそのまま引退させてしまった過去がある、要するに一人の女の子の十代というかけがえのない人生の一部を奪ってしまったのである。
そんなスカウトに臆病になっていた宮原が夏美に一目惚れし、毎日毎日スカウトし続ける、そんな日々を送っていた。

宮原が訪れるようになってから夏美を巡ってバンドメンバーがギクシャクし始めていた頃、夏美が敬愛して止まない薫が突然自殺してしまう。

夏美は薫がなぜ自殺してしまったのかの理由を知るために宮原を引き連れて「本当の薫」を知るために旅へ出るのであった。
思えば薫は夏美にとってただのバンドメンバーに過ぎない
薫の生い立ちや私生活、過去というものは夏美にとって知る由もなかった


些細な情報を元になんとか夏美は薫の過去を知り、薫が死ぬ間際に制作途中だった楽曲を完成させてペルソナは解散となってしまう。

ラストライブを境に夏美は薫の死を乗り越え、宮原共に行く未来を選択するのであった。



これを読んで私はただのバンド少女の物語ではないと思いました
そこには主人公のみならず様々な人物の思いや葛藤が描かれており、
どんな未来を選択するかの過程も楽しめる作品になっていると思います。



・所詮この世は「かりそめの世界」

この作品の中で薫が死んで夏美が薫の過去を知るために奔走するところがある。しかし、薫はあくまでバンドメンバーだから彼の過去などは知っているはずもなかったのである。
幼馴染や家族、親友とかでもない限り普段会っている人でもわからないことはたくさんあるはずだとこの時気づきました。
日常的に会っている彼氏彼女、会社の同僚、友達でさえその人の過去にどのようなことがあって今こうしているのかなんてわからないなんて事は普遍的にあるはずです。
かといってそれを知ろうと距離を縮めて行こうとすると嫌な顔をされ拒まれてしまいます。
みんながみんな程よい距離感で調和を保ち、そこに幸せを感じていることも多いはずです。でも所詮それはあなたの前で見せている顔であって本当のその人の姿ではないかも知れません。ちょっと怖いかも知れませんね笑
柔らかくいうと「猫を被っている」という事です。

そう私たちはそういう意味でいうとかりそめの社会、コミュニティで生きているのです。
みんな人それぞれの人生の物語があり、色んなことを取捨選択して今この世に生きている。ぜひ色んな人のドキュメンタリー映画を見てみたいものです。



・過去を屍に未来を生きる

この作品は主人公の夏美の物語であるが、私はどうもスカウトの「宮原」に共感というか物語に分かり合える部分がありました。
宮原にも昔はバンドマンだったという過去があり、その夢破れ、あまり興味を待たないグラドルを多く扱う芸能事務所に入社しているのであった。
入社して初めて担当した女の子を売れさせようと頑張るがその努力虚しく、結局その子は一度も世間の陽の光を浴びることなく引退してしまう。
宮原はその子の人生を無駄にしてしまったという自責の念にかられ、次の一歩を踏み出すことに臆病になってしまう。
しかし、夏美と出会い、その存在感に魅了されスカウトの一歩を踏み出して行きました。
宮原は十代の女の子の人生を無駄した重い「過去」を乗り越えて自分の人生を変えていったのです。

それは夏美にも通じることがあります。
薫の死というもう戻ることがない「過去」を乗り越え、ペルソナというバンドに一度踏ん切りをつけて未来を駆け上がって行くのです。

そういった「過去」という死体の上に私たちは立っているのです。

しかし、どんなこ過去であってもそれを「糧」とし、自分にとっての未来を切り開いていける行動力こそが重要です。
実際に宮原自身も夏美にしつこく会いに行き、理由はどうであれ夏美をスカウト出来た事実があります。宮原は何度も苦い過去が脳裏に過ぎったが、そんな過去をそして自分自身を変えたいという一心で行動に出ました。
小説ではただのキモイおっさんのイメージしかありませんでしたが、ここは尊敬できることかなと思います。

人生で様々な辛い経験、苦い思い出、
そういったことを自分自身に吸収させ、未来を切り開いていきたい
過去という「死体」を無駄にしたくないと思いました。



<まとめ>

まわりの人たちは色々な思い、考えがあってその場に立っています。
その心を汲み取ることが出来たらもっと接し方や自分の考えが変わって来るのかと思います。
難しいですね・・・

以上、誉田哲也(著)/ 疾風ガールでした!


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