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かき氷禁止令

夏になると思い出す。
中1から中2までの2年間、かき氷を食べることを禁止されていた。当然氷そのものもダメ。キンキンに冷えた飲み物もなるべく避けるように言われていた。

シンクロナイズドスイミングをやっていたとき、ずっと腰痛に悩まされていた。ハードな競技であることは一般的にもよく知られているが、優雅な演技と過度な笑顔の裏には怪我を抱えた選手がたくさんいた。

かく言う私もその一人で、毎週土曜日の朝に整体でメンテナンスしてもらう生活を何年も続けてきた。整体院の中ではいつもNACK5がかかっていて、土曜日の午前中は『EXCITING SATURDAY』という長時間番組が放送されていた。その番組内に『嵐・JUN STYLE』というコーナーがあり、嵐の松本潤がラジオなのに料理をするという謎の時間があったことをよく覚えている。

中学生になると練習はよりハードになり、身体も日々ボロボロになっていった。整体院は練習していたプールの近くにあり、私以外の選手も多く通っていた。そのため、試合の日程なども把握してくれていた先生は、試合の直前は身体のバランスが崩れるといけないからと、歪みを治しすぎないようにするなど、色々と気を遣ってくれていた。

屋外プールで練習していた夏は、普段より冷たい水に長時間浸かっているため身体が極限まで冷えてしまう。身体を冷やすことは怪我にも繋がる。しかし練習を辞めることはできない。
そこで、整体の先生に言われたことは「胃を冷やすな」ということだった。特に腰が悪かった私は、胃を冷やすことで腰痛が悪化するのを防ぐために、氷、かき氷、冷たい飲み物を禁止された。


今思うと、本当にストイックだったと思う。
夏休みに家族旅行はおろか友人と遊ぶ時間もなく、毎日毎日練習に明け暮れていた。夏休みの宿題に一日のスケジュールと数行の日記を書くというものがあったが、「練習」「合宿」「試合」以外に書くことがなかった。午前中の練習が終わり昼休みに入ると、みんなで弁当を食べ、宿題をし、死んだように眠るのが恒例だった。

禁止をされなくともかき氷を食べる機会などなかった。それはつまり夏の楽しいことを一つもできないということを意味しているようだった。
小2から中2まで、山にも海にも祭りにも行ったことがない。それでも、学校の同級生ができない経験をしているという特別な感覚で何とか頑張っていた。
楽しい思い出など一つもない。それでも、やっていて良かったと今でも胸を張って言える。


かき氷の代わりに、粉のスポーツドリンクをお湯で溶いたものを摂取していた。夏の思い出の味。多分もう、一生飲まないだろうな。

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