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【連載小説 中篇予定】愛が生まれた日(53)R-DNA

 一時期の流行であると思われるが、ここ数十億年は増殖がはやっている。この増殖について、まったく同じ(ような)個体をコピーするのが当初の大勢であったが、これではフリ(不利)だと思う一団が現れた。というのも環境が変わるからである。

 絶え間ない変化(返歌)。

 1足す1は、数学的には2になるが。これを、1(のように)する選択がなされた。類や種は一緒だが別の1と別の1を交合して、基本的には1になるようにした。ちなみにこの結果が2とか3、4、5、6の場合もある。鼠の例もあり、ヴィルス風の増え方もあるので公式化は出来ない。

 それはさておき。

 ひと昔前まで主役はDNAであった。この螺旋状の構造を解明すればこの世の何もかもが説明できるはずであった。

 日進月歩の科学、そして推理小説に啓蒙されて知識と演繹は増殖してゆく。

 フーダニット(だれがやったのか)。ハウダニット(どのようにしてやったのか)。ワイダニット(なぜやったのか)。

 他にもあるかな。まあ。この三本柱が推理小説である。

 この中でもっとも難しいのは、Whyである。何故か。

 これは、科学の分野で不問の問とされている。というのもそんなことを考えてもわかるはずがないからである。

 ワッダニット(何があったのか)。ウェンダニット(何時あったのか)。ウェアダニット(何処であったのか)。

 あとはHowかな。

 研究は進められる。上司と部下。部下とその部下。コンピュータ。世界中のデヴァイスを使って計算は続けられる。

 根本がまちがっているのに。違う一般常識の元に調査がつづけられる。物凄いスピードで。

 ちがうよ。

 そうじゃない。と言っても現在・現状ではどうしようない。想像力は狂気と隣り合わせである。危険思想。

 最大多数の最大幸福。

 この足し算(あるいは乗算)の原理が間違っているのだが。

 そうではない。まず、九十九里浜の砂粒をひとつ残らず数えなければならない。珠算で。

 九十九人かける九十九万時間をかけて。

 ゆっくりでいいのだ。

 そう。東京から大阪まで、今はどれぐらいの時間がかかるのだろうか。移動に。全然わからない。二週間ぐらいかな。もしくは二時間かな。

 どっちでもいいじゃん。好きな方を選べば。

 各自すきなようにすればいい。それだけの話だと思うけど。

 それぞれに事情があるから。法事もあるんでしょう。久しぶり会う知っている顔。かおと笑顔と無表情。

 もっとも期待をかけていた弟子の顔淵を失って、孔子はこう言った。

顔淵死す。子の曰わく、噫、天予れを喪ぼせり、天予を喪ぼせり。

『論語』(金谷治 訳注 ワイド版岩波文庫2001年4月13日第2刷)

 島の中学校では誰も死ななかった。しかし、年老いたものたちは順番に死んで行った。

本稿つづく

#連載小説
#愛が生まれた日

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