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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ⑳

 桃子の家に無いもの。一文字であらわせば・

 愛情。

 あ、二文字だった。


 平成四年。7月9日。なぜ日付まで覚えているかというと、この日のことは日記にしるしていたから。

 貝口桃子。おれはかのじょに夢中になっていた。といって恋ではない。兎に角、おれたちは異様なまでに似ていた。そとづらではなく、内面。心の構造とか。内奥がクリソツ(そっくり)だった。

 桃子の部屋はいごこちがよい。散らかって、すこしきたないけど。

「これ読んで」といって桃子は、ノートを一冊寄こした。

 手に取って、ほしいこれ、とすぐ思った。だけどもらうことはできない。そんな感じのノート。表紙もページもよれている。これは桃子の魂の一片なのだ。

 おれは読んだ。無我夢中で。詩。雑記。雑文。定型詩。日記。さまざまな桃子が書かれている。字がきれい。読みやすい。甘くないスポドリ(スポーツ・ドリンク)のように、どんどんおれの中に吸収(九州)されてゆく。

「おもしろいおもしろい、おもしろい、おもろ、おもくろい。おもしろい」

 おれはわれ知らずつぶやいていた。結構大きなこえで。

「あー、これはよんじゃ、いやだ」

 と言って桃子は、おれを目かくしした。

 おれは手をふりはらって、よんだ。

 結局南極よませてくれた。

 桃子桃子、桃、子。桃子桃子桃子桃子桃子桃子桃子桃子桃子桃子桃子。ももこー。とおもいながら、読んだ。

 男のなまえが三人、かかれている。それだけの詩。仮名で再現すると。

太郎太郎太郎次郎太郎三郎太郎太郎次郎次郎

次郎

次郎次郎三郎三郎次郎太郎太郎次郎太郎三郎

三郎! 太郎太郎太郎次郎三郎太郎太郎

太郎!

三郎次郎太郎太郎太郎三郎次郎三郎三郎三郎次郎次郎次郎次郎次郎

三郎太郎次郎次郎三郎太郎

三郎太郎太郎次郎次郎次郎太郎太郎太郎三郎

三郎! 太郎! 次郎

太郎太郎太郎太郎

三郎

次郎次郎次郎次郎次郎次郎次郎次郎太郎

三郎

桃子ノート

 こんな感じ。桃子の心のうごきが隈なく記録されている。おれは、二度三度と呼んだ。声に出して読んだ。わくわく。胸が痛い。

 桃子。桃子桃子。貝口桃子。桃子。

 と思った。

 恋ではない。人間だー、と思ったわけよ。

 人間人間人間。人間は、いると思った。

 桃子桃子桃子桃子。桃子。桃子。桃。桃。桃。桃子。

 と思った。夢中だった。

 君に胸キュン。桃子桃子。桃子桃子桃子桃子。

 桃子。

 そんな感じ。

 桃子桃子、みたいな。

 ももこー! って。

 そういうことって、ある。あります。

本稿つづく


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