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【掌編400文字の宇宙】普天間の女

 城から坂を下り、また下りて平地になっている場所があり、原といわれている。この原の南東に女の家はある。

 石垣が敷地を囲撓(いにょう)し、ひんぷんがあり、二十坪程の庭、福木が道に並んであり、また仏桑花のあかいはなが咲いている。榕樹も一本あるがそれほど大きくはない。大人の男の掌ほどある白地に黒が胡麻のように散らばった羽をゆったりと動かす蝶が、ゆったりと飛んでいる。

 女は糸を紡いでいた。顔が白い。学校から帰った妹が、友人と表の居間で宿題をしている。わははは、と笑い声がする。

 女は学校には行かない。外は、女にとって余にも多くのものが見えすぎる。すぐに疲れる。気絶したこともある。家を出ない。滅多にどころか、一度も出ない。女は美人であるらしい。鏡は見ない。きもちがわるい。長い髪を、よく手入れする。髪は黒い、見ていて安心する。

 このままではいられないのだろう、と女は知っている。数年後、女は権現になった。

#掌編400文字の宇宙

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