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【読書記録】「現代経済学の直観的方法」長沼伸一郎

「物理数学の直観的方法」の著者が、経済学を「ちょうどよく」わかりやすく解説する。その直観化メソッドは物理数学の直観的方法で既知の通りである。

著者の直観化メソッドは経済学でも健在であり、経済学の本などで字面を見れば理解はできるが納得までには辿りつかない「国民所得=消費+投資」という図式をものの見事に得心させてくれる。また古典派経済学とケインズの根本的な差異、金本位制と貨幣経済、経済システムの均衡点といった、テストが終われば忘れてしまうような概念も手にとるように理解できる。

最終章には物理数学の直観的方法でもお目にかかった、近代思想が多体問題を忌避し続けてきた弊害について力説されている。偶然太陽の質量が惑星に比べて超過大であり多体問題を二体問題として取り扱えてしまったために、人類は現代に至るまで「部分を見れば全体がわかる」という考えに執着し続けてきた。それゆえ我々はシステムが必然的に陳腐化する現状を目の当たりにすることができていないと喝破する。

「おわりに」の章でも掲げられているように、現代世界に対して思想を提言するには、どうしても経済に対する理解を避けては通れない。そして一般に使われる経済という言葉は、世界全体を包摂し体系化されている経済システムではなく、金を稼ぐ方法という意味で用いられている。これも筆者に言わせてみればシステムの陳腐化の一例であり、また資本主義経済はこの陳腐化の力によって富を生み出し成長してきた。その一点を押さえてから読めば、本書の目指すところが見えてくるかもしれない。

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