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教育研究医のヒヨコ、「振り返り」を教える

【前回までのあらすじ】
2020年7月、医師5年目で総合診療専攻医3年目として毎日仕事をエンジョイしていた私はある日突然起き上がれなくなり、内因性うつ病と診断され、そこから長い休職を経験した。
詳しくはマガジン「家庭医のヒヨコ、療養する」をご覧頂きたい。
2022年4月から自身の初期研修先でもあった総合病院(容易に特定可能)の教育・研究専従として復職し、研修医教育や院内の研究体制の整備を行なっている。かくして、家庭医のヒヨコから教育研究医のヒヨコにジョブチェンジしたのであった。来年度にはニワトリになりたい、、もう2ヶ月もない!

【医療の質と失敗するひと】
当たり前すぎて最近聞かないが、完璧なひとなどいない。同様に、完璧な医師など存在しない。

アメリカのInstitute of Medicine(というなんかでかい機関)は、1990年代に「To Err is Human (人は間違いを冒すもの)」というタイトルの文書を出版し、医療のどういった場面でエラーは起こり、どのように対策すれば重大なエラーを防げるかを考察した。
そこからアメリカを中心に医療の質改善活動が広まり、学会や学術誌で活動報告の演題が発表されるようにもなった。

余談だが、アメリカでは医療の質改善は「現場の責任者」である医師が中心となって行っているのに対し、日本では専ら「現場を熟知している」看護師の仕事となっている傾向がある。なんでだろうね。

閑話休題、とにかく医療の質(安全性とか時間とか患者さんの体験とか)を向上させる方法の一つとして、実際に起こってしまった現場のエラーを建設的に振り返る、という手段がある。

建設的にというのが大事で、振り返ることの目的は犯人探しをしたり嫌なことを思い出して反省したりすることではなく、
個人のミスの背景に必ずあるシステムの欠陥を見つけて、同じミスが繰り返されにくい環境を作ること」だ。

誰かがミスをする度に士気が下がる、あるいはミスをしたひとが責められるのではなく、そのミスを機に現場をより安全なものにしていこうとする取り組みが「質改善」における「振り返り」なのだ。

これ、医学部でも入職時オリエンでも教えてるはずなんだけど、初期研修医はまず点滴オーダーの仕方とか救急で怒られないプレゼンの仕方とかで頭がいっぱいだから、ミスしたときのことなんて考えてられないんだよね。

【振り返りを教える】
2022年度に自分が初期研修医の教育担当として導入したものの一つに "Significant Event Analysis (SEA)"がある。名前は大仰だけど、要するに「仕事で起こった衝撃的な、あるいは記憶に強く残る出来事を振り返る」ことを目的とした時間をとるようにした。

笑い話で終わらせるのではなく、1人で深く反省するのでもなく、失敗を学びの機会と捉えて、責めることのない雰囲気の中で振り返る。
これを目指しても、例えば研修医に失敗経験を自由に語らせると、どうしても自責的になってしまうことが多く、「次は気をつけます」以外の対策が出てこないことが多い。
そこで、ある程度のフォーマットをこちらで定めて、建設的に事例で起こったことや出来たこと、出来なかったことを順に述べてもらう。他の研修医たちにそれを聞かせて、次に繋がる学びを導き出してもらう。

言うは易し、というやつだが、研修医たちになにか一個だけ教えられるとしたらこの振り返りのスキルと経験だと思い、この半年間の間に導入と実践に取り組んできた。
幸いSEAの時間は好評で、研修医たちの朝の勉強会タイムに月1回のペースで組み込んでもらっている。
そのうちここでも事例を紹介したい(もちろん研修医に許可を得てから!)。

そして私もまた、臨床現場から一歩離れはしたけれど日々振り返りが必要になるような経験を積み重ねている。
だからnoteを続けているのだけど、、学びは共有できているだろうか。
言語化することによって経験を昇華していく作業を、今後も大事にしていきたい。

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