僧侶の大量不審死事件(「しやうぎだふしの事」『曾呂里物語』巻第二)

関東の話だ。
ある侍が主命に背いて、「とうがん寺」という寺で切腹した。
明日はその葬礼をするということで、庫裏にその用意をして、客殿に侍の死体を入れた棺を置き、十人ほどの僧たちで番をしていた。

夜が更けてくると、僧たちは皆、壁に寄りかかって居眠りし始めたが、下座の二人の僧は、未だ寝入らず、物語りしていた。
ト、棺が震動して、死人が棺を打ち破って立ち上がり、それはそれは凄まじい様子で、燈火の元へ行くと、紙燭に火を点け、土器の油を舐めた。
その後、上座の僧の鼻の穴に紙燭を入れて、これを舐め、その次の僧の鼻の穴にも紙燭を入れて、これを舐める、というのを上座から下座へと順番にやり始めた。
下座の二人の僧は、あまりの恐ろしさに、息も立てられずにいたが、次第に自分たちの順番が近づいてきたので、逃げるともなく、走るともなく、庫裏へと倒れ込んだ。

庫裏にいた人々は肝を潰して、
「これはいかなることぞ」
と問うので、二人の僧はしかじかと説明した。
そこで人々が客殿へと急いで行ってみれば、死人はどこにもおらず、棺を見れば別に変わった様子はない。
横たわっている僧たちを起こしてみたが、将棋倒しのようにいずれも気絶している。
色々と介抱したのだが、僧たちは目を覚まさず、結局全員死んでしまった。

【参考文献】
・花田富二夫ほか編『假名草子集成 第四十五巻』東京堂出版 2009
・湯浅佳子「『曾呂里物語』の類話」『東京学芸大学紀要』東京学芸大学紀要出版委員会 2009

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