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"女王"に謁見 クイーン・メリー2を目にして

図鑑で眺めた憧れの存在が目の前に…

2019年3月1日。北九州港 ひびきコンテナターミナル。
この日、世界の海を股に掛ける一隻の"女王"が姿を現した。
豪華客船「クイーン・メリー2(Queen Mary 2)」である。

今回、北九州港の開港130周年を記念し、世界一周クルーズの道程で寄港した。今回のクルーズでの日本への寄港はこの北九州港1ヵ所のみだった。2017年の長崎港、那覇港への寄港以来2年ぶりの寄港である。

この船の寄港を知ったのは2018年の夏頃であったと記憶している。小学生の頃に買ってもらった乗り物図鑑の中で目にした憧れの豪華客船が身近な所へやってくると知った途端、凄く胸が踊った。
何としても行かねば。

待ちに待った当日。
薄い雲が少なからず見られる冬の晴れた日。
特急列車を乗り継ぎ小倉駅へ。そこから臨時シャトルバス(西鉄路線バスの貸し切り)で"女王"が御座す「ひびきコンテナターミナル」へ向かった。

臨時シャトルバスでは、前部に乗車した。午前11時少し前。バスの営業所からの無線で「クイーン・メリー2が着岸!」と一報が入った。船の動きにより現地へ向かう人々の動きも変動することから、そういった情報もバス運転士に共有しているのだろう。「もう少し早目に家を出れば良かったかな」と少し後悔したが、着岸する頃は雲が多く時折日光が遮られることもあったため、「どうせ影っていい条件で撮影できなかっただろう」と思い止まった。
バス車内でもう一つ印象に残った出来事を思い出したので書き留めておくことにする。
バスが若戸トンネルをくぐり抜け、ひびきコンテナターミナルまであと一息というところで見物客の車で渋滞したときの事である。渋滞の状況が各臨時シャトルバスの運転士と営業所の担当者との間で無線を介して情報共有が行われていた。以下そのやりとりの一部である(記憶をもとにしたイメージ含む)。

営業所「渋滞回避のため迂回ルート設けます。先頭の○号車の運転士さん、□□交差点を右折して進んでください。場所分かりますか~?」

運転士「はーい、地元なんで分かりま~す😊」

営業所「なるほどですね~(笑) そこを右折してくださ~い。」

乗車していた皆が大笑いした。無線の音量が大きめだったため、車内中に聞こえていたのだった。渋滞の中で普通はイライラしてしまう場面だったが、この愉快な別のバスの運転士の無線のおかげでほっこりした場面だった。楽しかった。

ようやく、ひびきコンテナターミナルに到着した。"女王"は目の前である。やっと会えた。図鑑の時紙面に穴があいてしまうくらいに眺めていた船が目の前に居た。図鑑でのイメージより実物はとても大きく感じた。カメラマンとして例えるならば、10mmの広角レンズでやっと全体が収まるくらいに大きかった。他の豪華客船の寄港を伝える記事でもよく目にする「港にビル・マンションが現れた」というフレーズ。まさしくその通りだなと実感した。黒と白の船体に映える「CUNARD」の文字。そして象徴的なファンネル(煙突)が私を魅了する。

少し離れたところから

ここでクイーン・メリー2について改めて紹介しておこう。
クイーン・メリー2は2003年12月に竣工(完成)、2004年1月に就航(初めて乗客を乗せる航海)した。
全長345メートル、最大幅45メートル、高さ72メートル(水に浸かる部分の高さである喫水が10メートルであるため、海上に見えるのは実質約62メートル)。東京タワー(333メートル)を横にしてもこの船には及ばないくらい長くデカい。
船の大きさを表す指標として「総トン数」が用いられる。クイーン・メリー2は151,400トンであり、竣工当時は世界一の大きさを誇る客船であった。余談だが、軍用艦等では「排水トン」が用いられる。興味のある方はぜひ調べてみてほしい。

運航会社はイギリスのキュナード・ライン(Cunard Line)。創業170年を超える歴史のある船会社であり、航空機が発達する以前、ヨーロッパ~アメリカの大西洋定期横断航路(船の世界では伝統的なイメージである)において豪華客船を運航してきた経験がある。現在は周遊型のクルーズに重きを置き、クイーン・メリー2をフラッグシップとして、「クイーン・エリザベス(Queen Elizabeth)」、「クイーン・ヴィクトリア(Queen Victoria)」の3隻を所有している。

少々話が逸れるが、日本に「豪華客船」というワードを普及させたのは、このキュナード・ラインの「クイーン・エリザベス2(Queen Elizabeth 2)」であると言われている。現在は引退し、ドバイの港で海上ホテルとして用いられている。今回紹介するクイーン・メリー2はクイーン・エリザベス2の後継として建造された。

クイーン・メリー2の外見の特徴としては、救命ボートの位置である。前述した通り、キュナード・ラインは今でこそ周遊型であるクルーズ事業を展開しているが、大西洋定期横断航路をメインの生業としてやってきた船会社である。この航路が経由する北大西洋は波が大きく、救命ボートを高い位置に設置し、波の影響を小さくするように船の設計が行われてきた。しかし、現在ではそういった荒れた海を航行するクルーズ船は減少し、海上人命安全条約(SOLAS)において救命ボートはなるべく海面に近い位置に設置するように要求されるようになった。一方でこのクイーン・メリー2では、現在でも大西洋横断航路を航行する旅程を実施したり、英国の女王の名を冠する船としての品格とそれにふさわしいデザインとするため、例外的に救命ボートの位置を高くすることが認められた異例の船なのである。他の客船と比較してみても、救命ボートの位置の高低差は一目瞭然であり、その設計がとても優美な船体にすることに一役買っていることがうかがえる。

クァンタム・オブ・ザ・シーズ(Quantum of the Seas)
SOLASに適応する一般的な救命ボート配置

クイーン・メリー2(Queen Mary 2)
救命ボートの位置が高いことで優美な船体を演出

クイーン・メリー2は乗客定員2,691人である。また乗組員が1,292人乗船している。船内には、カジノやスポーツクラブの他、当時洋上初のプラネタリウムまで備えているとのこと。豪華な設備・内装から、メディア等では「洋上の宮殿」と呼ばれている。

さて、説明が長くなってしまったが、岸壁での様子を紹介する。岸壁では乗船客や見物客をもてなすお祭りのような催しが行われていた。北九州のみならず福岡の名物の食べ物の屋台が数多く立ち並び、特設ステージでは地元の団体によるダンスや舞踊などが行われ、賑わっていた。昼食はとんこつラーメンを食べたと記憶している。

乗客を乗せた観光バスを見送る

船の真横ではタクシーや観光バスが列を成しており、乗船客を近隣の観光地へ送迎していた。話しによると、近くでは小倉城や門司港レトロ、遠くへは太宰府天満宮へ行ったバスもあったとのこと。

岸壁に列を成す観光バス

私はライトアップされたクイーン・メリー2を撮影したいと考えていたため、会場の最も端にある撮影スポットで陣を構えることとした。
14時頃には場所取りをしていたと記憶しているが、先客1名。私は2人目だった。
時間が経つにつれて、同じような考えの同業者が多く現れた。早目に動いておいて良かった。

船の出航は19時30分。それまでの時間は隣になったカメラマンたちと談笑していた。お話させたいただいた方々は老若男女。50代後半くらいの紳士的なおじさんや、30代くらいの男性。私よりも5,6歳くらい年上の女性などだったと記憶している。カメラの趣味は世代問わず多くの人と交流できるとても良いきっかけであると思う。少し遠出して花火などを撮影する際に近くになるカメラマンの方々とは毎回楽しくお話させていただいている。インスタを見せ合ったり、近くの撮影スポットのお話など、貴重な情報収集の場である。撮影と同じくらい楽しみにしていることの一つだ。
この時は、船を追っかけているカメラマンの方ともお話をした。この方はクイーン・メリー2の入港のシーンも撮影されていた。雲が多く、さらに海上は霞んでいてイマイチだったという。入港に間に合わなかった私にとっては救いの言葉となった。

談笑しているといつの間にか18時を回り、暗くなってきた。同時に気温も下がり、加えて響灘からの強く冷たい北風が吹くようになってきた。
各地の観光地に出かけていた乗船客を乗せた観光バスも続々戻ってきた。乗船客は出入国の手続きやその他税関の検査等を岸壁のテントで済ませ、乗船していく。
クイーン・メリー2も少しずつライトアップされていった。
とても美しい。客船は夜景が最も美しいと個人的に思う。憧れの"女王"のライトアップを夢中になって撮影した。一球入魂ならぬ一写入魂。後悔が残らぬよう撮影した。

ライトアップされたクイーン・メリー2

出航時刻である19時30分。船は出航する様子ではない。どうやら乗船客を乗せたバス2台が遅れているようだった。周囲の人と「大丈夫かなぁ」と心配していると無事に戻ってきた。

19時43分。
クイーン・メリー2は出航の合図である汽笛を鳴らした。
気品のある汽笛だった。このときのシーンはしっかり動画で記録しており、1年経った今でも聞き返している。とても感慨深いものだった。

私のいるポジションから海を挟んだ向こう側の防波堤からは見送りの花火が数発打ち上げられた。残念ながら出航していくクイーン・メリー2と花火を同じフレームに収めることはできなかった(船が動いていたため、同フレームでも厳しい)。

離岸し後退するクイーン・メリー2

クイーン・メリー2は早々と離岸し、回頭。次の寄港地である韓国・済州島へ船首を向けた。

離岸し回頭したクイーン・メリー2

私にとってこの「"女王"に謁見」したこの日は私にとってかけがえのない思い出となった。

現在、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大により、クルーズ船業界は苦難の嵐の中にある。2020年は日本各地に豪華客船クイーン・エリザベスの寄港が予定されていたが、キャンセルとなってしまった。新型コロナ終息後も完全な需要回復は見込めず、もとの水準にまで回復するにはかなりの期間を要すると各船会社などは予想している。私としては再び多くの客船が寄港し、港から地域が盛り上がるような光景を再び見られるようになることを願うばかりである。

クイーン・メリー2は一度目にしたとしても憧れの存在であることには変わらない。世界中の海を旅する"女王"に再度お目にかかる機会があればと祈っている。

RMS Queen Mary 2

SHIZURU (@shizuru_camera)
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参考

北九州市HP

キュナード・ライン クイーン・メリー2