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【娘におくる手紙】1歳1か月、あなたにしか見えないもの。

これは、母から娘への手紙です。
2022年の夏、ひいおばあちゃんの生き写しみたいにそっくりな顔で生まれてきた娘。まばたきするくらい早く過ぎていく日々を書き留めて、娘が大きくなった時に渡せるよう、手紙にして残すことにしました。

▼12か月、最初はいつも片側から。

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今月も手紙を書きます。
先月、1歳になる直前にハイハイができるようになったと書いたけれど、1歳0か月の最後の日にあなたは歩き始めました。
まだハイハイもするけれど、歩けることが楽しくてしかたがない様子。両手を広げてバランスをとりながらおぼつかないけれどしっかりと一歩一歩踏み出しています。
左右の手と足を一緒に出す歩き方はペンギンみたいに愛嬌があって、母はよちよち歩きを眺めて堪能しています。


歩けるようになったあなたは、ますますいろんなものに興味が出てきました。
一番は動物。
「わんわん」
という言葉を覚えて、絵本の中のわんわんを教えてくれるようになりました。

お散歩中も、犬を見かけては、指さしをして「わんわん!」「わんわーん!」と大興奮。
前のめりになって満面の笑みで見ているので、うちでも犬を飼おうかな、と思うくらいです。

「わんわん」が言えるようになってしばらくたつと、犬だけじゃなく、動物はなんでも「わんわん」になりました。
ねこも、鳥も「わんわん」
保育園の園庭で遊ぶお兄さんお姉さんも「わんわん」
お散歩中に近くにいる人も「わんわん」
指をさして大きな声で「わんわん!」と教えてくれるので、皆笑いながら手を振ってくれます。

でも、お父さんお母さんや保育園の先生には「わんわん」って言わないから、あなたにとって、知らないけれど興味深い生き物が「わんわん」なんだろうなと思います。
すごくおもしろいです。

次はなんの名前を言えるようになるんだろう。ねこかな。ライオンのぬいぐるみが大好きだから「ライオン」かもしれない。
あなたの中で「わんわん」の次に昇格するのがなにか、楽しみです。

全てのものが「わんわん」になるみたいに、赤ちゃんって、どんなふうに世界が見えているんだろうと考えることがあります。

それをよく思うのは、毎晩寝る前に、うさぎの子どものお話の絵本を読んでいるとき。
うさぎの子どもが夜ベッドに入って眠りにつくまでに、部屋の中のたくさんのものに「おやすみなさい」をするお話で、お母さんのお気に入りの絵本なので、毎晩あなたも聞いてくれています。
産まれて半年くらいから毎晩のように読んでいて、うちでは「ねんねの絵本」と呼ばれているこの本は、どのページもうさぎの子どもの寝室なのだけれど、ページをめくるたびに必ず暖炉を指さして「あ!あ!」と教えてくれるんです。

ほかにもねこが毛糸にじゃれていたり、風船があったり、くまの絵がかかっていたり、お部屋の様子に変化はあるのに、変化しない暖炉がどうしても気になるあなた。
いつも必ず暖炉を指さして熱心に教えてくれるから、暖炉に特別ななにかがあるんだと思っていました。

だけどいつの間にか、ほかの動物たちを指さして教えてくれるようになっていて、1歳をすぎたらもう暖炉を指さすことはなくなりました。

「ねんねの絵本」も、お母さんが選ぶのではなく、あなたが読んでもらいたい本を自分で本棚から引っ張り出してくるようになったから、うさぎの子どものお話も、ほとんど読むことがなくなりました。
毎晩暖炉を指さして一緒に眺めていたあの数カ月は、なんだか不思議な時間だったな、と思います。

思えば、あなたにだけ見えているものをお母さんに教えてくれていたことがほかにもある気がします。

生まれて間もない頃に、玄関のすみっこやソファーの真上を見ると必ず笑っていたこと。指さしできるようになって教えてくれた、クッションカバーのぐるぐる模様や、ベランダからのいつも同じ方角の空。
小さいあなたにだけ見えているなにかがきっとあるはず。
もう少しあなたが大きくなったら、なにが見えていたのか聞いてみようと思います。
覚えていたら、教えてください。

それではまた書きます。

歩けることが楽しくて、またベビーカーに乗ってくれなくなりました。



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原田 理恵 | 喫茶 手紙寺分室 note 編集長
「誰かの想いを翻訳・編集して磨き上げ、多くの人に伝えていく」が信条。旅と、時間が経って朽ちた風合いや佇まいがあるものがすき。ペンのインクはブルーブラック派。喫茶で最高のクリームソーダを出すのが夢。
Smiles: Project & Company 所属。


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