【感想】2022年10月読書記録

SFは読むのに苦労する。教養あって初めてリーダビリティが増すジャンルだ。

SFは作者が人類の未来を想像しながら書くため、その未来を生きる私たちが読むと「いや、そうはならんやろ」現象が多発する。

でも名著には人類の普遍的な価値観が横たわっているので読破すると非常に達成感が大きい。一つの小説でたくさんの知識と感性を食べたような感覚になる。

私は今月もそんなオーソドックスなSF本たちを読んでみた。

ジョージ・オーウェル著「1984年」

「20世紀文学の最高傑作」とも言われる本書
。一話目からウインストンが自殺ともいうべき行動を起こしているところから始まる。この絶望感は後半に進むにつれ、徐々に輪郭を帯びていく。拷問によって人間性が失われていく描写は非常に恐怖を覚えた。当時の全体主義に対する批判が色濃く反映されている。

また、現代は誰もがスマホを持ち、スマホにはカメラが搭載されている。個人が個人を撮ることが容易になったため、今の現象を「監視社会」と捉えている読者も多い。そんな現代に生きづらさを感じる人にとっても共感できる小説なのかもしれない。

ロバート・A•ハインライン著「宇宙の戦士」

「機動戦士ガンダム」に強く影響を与えた名著。

私は主人公であるジョニーのキャリアに興味を持った。

ジョニーは仲の良かった友人に連れられてノリで軍隊に入ってしまう。しかも、よりによって激務である歩兵部隊に入隊した。そのためか当初は
「本当は軍隊なんかやりたくなかった。」
と言うジョニーに私は共感した。私も仕事が辛いぞ。
そもそも大半の学生は高校•大学を卒業して社会に出るとき、自分なりに考えた根拠のない自信と不安を抱いて新卒入社していく。20代で自分が何に向いてるか判断するのは難しい

また、将来の進路に対して心配しているのは本人よりその両親だろう。

ジョニーの両親はジョニーが軍隊に入ることに反対していた。良家で育ったジョニーはそのまま両親の意向に沿ってキャリアを積めば社長になれるからだ。しかし、火星からの攻撃にでジョニーの母が死に、ジョニーの父の価値観が大きく変化した。「今までの自分はただ生産し消費する動物だった」と反省しながらジョニーの父が入隊していくシーンは父親の限界を感じた。
このシーンは著者なりの資本主義批判も含まれるけど、それよりもたった一つの大きな出来事で今までの価値観が過去になる方が共感しやすい。現代でも東日本大地震、コロナ禍、そしてキーウの戦争で価値観が変わった人たちは大勢いるだろう。

キャリアで成功するのに「優秀さ」は武器だと考える人が大半だろう。でも、必ずしもそうじゃない。

小説で「優秀だからトントン拍子で出世していくんだろうな。」と思っていた将校が一週間後死体になってジョニーと再会する描写があった。
現実でも優秀だった学生が大人になって不運に見舞われることはよくある。病気で倒れたり、詐欺師に引っかかって借金を抱えたり、法律を破って刑務所に収容されたり。優秀であることは必ずしも人生の保険にならないことを思い出させてくれる。

この小説の感想の最後として、著者の分身とも言えるデュポア先生の言葉が私にとって印象に残った。数多くの困難や苦労を超えていかないと人間として成熟しないという考えはサミュエル・スマイルズの「自助論」と同じ哲学を語っている。優秀でなくても目の前の困難を超えるための努力は必要だ。私も改めて仕事で苦しむ覚悟を持つことにした。辛いけど。

ロバート・A・ハインライン著「人形使い」

あるときナメクジのような連中が人間に寄生していること気づく。おやじオールドマン 、サム、メアリを中心に事件を調査していく。「寄生獣」みたいな話だけど、こちらは宇宙規模のため更にスケールが大きい。また、こちらもソ連のような共産主義や全体主義に対する批判が窺える。SFだけど小難しい単語が出てこないし、事件が段々と深刻になりつつ最後に一発逆転で読後がスッキリする。さすがはSFの巨匠の作品。

ニール・ステーブンスン著「スノウ・クラッシュ 上」

「メタバース」はこの小説が語源になる。メタ社がどのような世界観を現代に構築したいのか、そのヒントがこの小説にある。

本書はメタバースからサムライ、古代文明まで幅広い設定がてんこ盛りになっている。知識欲が強い人にオススメ。

また、1990年代の日本に対する当時のアメリカ人の絶望感を知ることができる。今は私たちがアメリカ経済力に絶望しているが、こんな時代もあったんだなあ。せめてこの小説のようにGAFAMを日本人が経営していたらまだ良かったけど、今やインド人経営者が主流になってしまった。

下巻はまだ未読。

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