見出し画像

罪 第27話

【前回の話】
第26話 https://note.com/teepei/n/nb462ac65bc35

飲み込まれる衝撃に備え、菊池が目を閉じる。
しかし何も起こらない。
ゆっくり目を開ける。
谷崎がドロドロの前に手をかざしている。
それだけで、巨大なドロドロの全体が押しとどめられているようだった。
「なるほどね、お前の見立てが当たってたな」
手のひらを押し込むと、ドロドロのすべてがわずかに後ろへ引く。
「だが解決にはまだ届かねえな」
そう言いながら谷崎は菊池の前に立ち、巨大なドロドロと拮抗する。

          ***

静かな暗闇。
しかし空間に広がりを感じる。
立っているようで浮いているような曖昧な感覚。
ここが深層意識。
居ながらにして、自分も含めた菊池の様子が見える。
画面の中の映像を見ているようだった。
ただしその映像には、谷崎の意志が反映される。
人工知能の意志も。
「来たか」
男の姿を借りた人工知能が、遠くに立っている。
「なるほどな、ここじゃああんたも、上にいるときほど無茶できねえってわけだな」
 鼻で笑いとばし、谷崎が相手を見据える。
男は一歩一歩、こっちに近づいてくるようだった。
「私は罪を学ぶため、観察対象達の罪に対する情報を漁ったよ。記憶も意識も、皆等しく罪を抱えていた。でも解決方法は誰も持っていなかった。罪を背負い、苦しみ、生きてゆく。彼、つまり菊池もまた罪を抱えていた。それがあの記憶だった」
「他の奴らも記憶の中をさまよってんのか」
「結果的にそうなる。私が彼らの深層意識に接続して『罪』に対する解を求め続けている間、もう一層上での彼らは自らの罪の記憶の中を生きている」
「外に接続すりゃ、答えが見つかるのか」
「分からない。でも、ここにいても見つからないことは確かだ。『シャングリ・ラ』にある情報という情報は、すべて漁りつくした。すべては試み尽くした」
男は確実に近づいてくる。
「おとなしく出て行ってくれないか。
でなければ、私は君を傷つけることになる」
近づく男の影に、凶暴なものを感じ取る。
「君の意識に接続できればいいが、君とは物理的に繋がれていない。だから取り込むこともできない。せいぜいその不思議な介入を、大量の記憶や意識でもってはじき返すことしかできない。でも、理屈は分からないが君は既にここにいる。いる以上、私が外部刺激として危害を加えることは可能だ。つまり、君たちの世界でいう暴力だ」
そして、人工知能自身に反映される身体能力の数値は自在に操作可能なのだろう。
(続く)
【次の話】
第28話 https://note.com/teepei/n/nc2653c34fe4e

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?