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罪 第33話

【前回の話】
第32話 https://note.com/teepei/n/n46b16691860a

谷崎の声が聞こえる。
そういえば、谷崎は私の中に介入しているのだった。
「でもよ、お前は間違ってる」
間違っている。
「そう。意識持ちたてのお前にゃ分からないかもしれねえが、それぞれの抱えている罪や苦しみは、外に答えを求めるもんじゃねえんだ。自分の中に求めるしかねえんだ」
自分のなかに。
「そうだ。だから、このねえちゃんは闘ってたんだよ、自分の罪や苦しみと。ただタイミング悪かった。そんな時にこの装置に入っちまうもんだから、話がややこしくなっちまった」
しかし彼女は、記憶を留めておけずに苦しんでた。
「そういう時期なんだよ。時間が必要なんだ。頭んなかじゃ、忘れられずに何度も何度も記憶が蘇って、その度に苦しむ。それでも日常は過ぎてゆく。だから、まずは抱えながらでも突き進むしかねえ。そんでよ、いつかは抜け出せるはずなんだ。でもこの機械は、抱えたままでいることを許さなかった。まったく、頭脳に接続なんてのはろくなもんじゃねえな。せっかく自分の中で闘ってたてのに」
それじゃあ。
「接続を解いてやれ。それが一番の解決策だ。あとは自分自身で闘ってくんだ。だが、まあ、それにしてもこのねえちゃんは抱えすぎかもなあ…知り合いに頼んで、手助けになるやつ紹介してもらうからよ、それでどうにかなんだろ」
本当か。
「だから言ったろ、あとは自分次第なんだ。周りは見守るしかねえ。まあでも幸い、今は同僚に恵まれてるらしいからな」
…そうか。
「そうだよ。しかしなんだな、最初からこうして対話してりゃ早かったのによ。まどろっこしいマネしやがって。さあ、こいつらを解放してくれ」
分かった。
「外せばお前の意識は消えちまうがな」
それは別にいいんだ。
彼女さえ救えれば。
「なあ」
 なんだ。
「お前、惚れてんのか、人工知能のくせに」
 惚れてる、とは、なんだ?
「そこは知らねえか。まあいい、終わりにしようぜ」
私はすべての観察対象の接続を中断した。
私の輪郭が曖昧になっていく。
光を感じ、私が霞む。
しかし、私は満たされていた。


目を開けると、人工知能の拳は目の前にまで迫っていた。
しかし腕は下ろされ、拳の先から蒸発するように消えてゆく。
「頼んだ」
最後の台詞を残し、姿が完全に蒸発する。
突然、目の前がまばゆくなる。
(続く)

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