罪 第5話
【前回の話】→第4話
病院に行けって、確かにそうなんだけど、でも、病院にも行かないでここに隠れてるんだから、ちょっと関わりたくないと思った。
男の人は、ああ、そうだな、って言って、また静かに呼吸した。
「あれ、更衣室開いてたんだ」
更衣室に生田君が入ってきて、僕らをみて足を止めた。
男の人が生田君をみて、ち、って言って、鍵、しめときゃよかったな、って、呟いたんだ。
よく見ると更衣室の奥で、上の方の小さな窓が割れてる。
あそこから入ってきたんだ。
それで鍵を開けて、水道でも使ったのかな、でも鍵さえ閉めておいてもらえれば、こんなことにならなかったんだ。
そして谷崎君がうろうろしなければ。
「この人は」
生田君だって僕と同じくらい怖がってるはずなんだ、なんせ谷崎君ほどズレちゃいない。
なのに落ち着いて見えるんだもの、いやになっちゃうよ。
「分からない」
「なあ」
男の人が急に大きい声を出したもんだから、僕はびくっとして、なんだかまるで僕だけが臆病みたいなみじめな気分さ。
ほんとう、いやになるよ。
「なあ、俺のことは秘密にしといてくれよ」
今度はちょうどいい大きさの声で言ったんだけど、何だかつらそうで、声を大きくしたり、小さくしたりするのがうまくいかないみたい。
「いいですよ」
まともな奴だったらすぐに答えられないよ。
だって、血を流しているのに内緒にしてくれなんて普通じゃない。
でも谷崎君は普通じゃない。
「変わってるな、お前」
「だって、大人には逆らわないのが普通でしょ」
それが普通の答えだって、彼はそう言うんだ。
僕だって内緒にするっていうよ、だって怖いもの。
でも、彼には怖いっていう部分が分からない。
「ぼくは事情を聞きたい」
生田君はゆっくりと大きな声でいったんだ。
どうしてそんなことが言えるんだろう。
そりゃ僕だって理由を聞くのがいいと思う。
でもそれで、内緒にできないようないけないことを聞いたらどうするんだい?内緒にするか、それとも…
「事情」
「はい」
男の人は息を大きく吐いたんだ。
それから身をよじって、さっきから何度もそうして、ちょうどいい姿勢を探すように動くけど、でもやっぱり辛そうなんだ。
「坊主、いくつなんだ」
「九歳です」
「にしちゃ落ち着いてるな」
生田君は何も答えない。
さすがに怖くなったのかな。
だとしても馬鹿にする気持ちなんて全然起きないよ。
「家族は大事か」
(続く)
【次の話】
第6話 https://note.com/teepei/n/n356b3403caa2
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