サムライ 第21話

【前回の話】
第20話https://note.com/teepei/n/n83ed11c9b4ba

「徳本さんがよ」
 と、一旦そこで区切り、どうやら長く話すのは辛いらしい様子だった。
「徳本さんがよ、俺のこと、サムライだって」
 そうたどたどしく切り出された話に、俺と山辺は静かに耳を傾ける。

 まず意識が回復しして、手を握られていることに気付く。
 その温かさにすがるようにして、それが徳本さんであることを知る。
 よく頑張った、と繰り返して、徳本さんは涙ぐんでくれた。
 しばらくして、改めて森井の様子を見て、ひどいことを、と呟いた。
 その時見せた徳本さんの表情に、あの時の気迫が過ったように見えたが、すぐに優しい目で森井を労わる。
 しかし、サムライ狩りなんてな、と握った手を包み、悲しそうに徳本さんが言う。
 あれだけ刃向かっていた相手なのに、今はその全てが優しく居心地がいい。
 そんな人を悲しませるなんて。それからとうとう、森井はあの言葉を口にする。
「ごめんなさい」
 徳本さんは手を何度かポンポンと叩き、いいんだよ、いいんだよ、と涙ぐんだ。
 そして森井も涙を隠せない。
 俺は、間違っていたよ、と森井がぽつりと呟く。徳本さんは、そんな森井をしばらく見守り続ける。それからゆっくりと話し出した。

 サムライってのはな、心に刀を持つ奴を言うんだ。そして、その時が来たら抜く。お前さんは、その刀を抜いたんだ。だからもう、サムライ狩りなんかじゃない。立派なサムライだ。

「こんな俺を、サ、サムライって」
 訥々とそこまで語ると、森井は涙を堪えられなくなる。
 うう、と嗚咽なのか、響く痛みに悶えているのか、その様子を二人で見守るしかないようだった。初めに声がガラついていたのは、恐らく泣いたことによるのだろう。
 どいつもこいつも泣き虫だ。
 泣くだけ泣けばいい。
 そんなところへ、警官が二人入室してきた。
「こんにちは、意識が回復したとお伺いしまして。ちょっと話を良いですか」
 事情聴取に来た警官だった。
 ええ、と森井は隠せない涙に少し困惑する。
 簡単な質問に答え、それからサムライ狩りの情報に踏み込んだ時だった。
「それで、普段はどの辺りを拠点に」
 え、と森井が言葉に詰まる。
「それは、徳本さんから、聞いてませんか」
 え、と警官が反応する。
「徳本さん、というのは…」
「さっき俺を事情聴取したときに、隣にいた人です」
 と俺が補足する。
「ああ、あの人。でも、特に話はしてないですけど」
「いや、だって、あいつらを、すぐに捕まえるからって、先に、よく行く場所を教えて欲しいって、頼まれたって…」
 と、自分で話しながら、森井は何かに気付く。それから包帯で不自由な手で、俺の手にしがみついた。
「止めなきゃ」
(続く)

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