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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁

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2023年8月の記事一覧

駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第17話

【前回の話】
第16話 https://note.com/teepei/n/n7988f16512d8

 自ら作り上げた椅子に座り、魔王は畑を眺めている。男は家の中から顔を出し、しばらく見守る。思案深げなその様子は、畑に植えた植物達に思いを馳せたものなのだろうか。牧歌的な空気が流れる中、均衡を打ち破ったのは予想外の方向から現れた侵入者だった。
「よう」
 と、その侵入者は男に手を挙げた。
 おう

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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第16話

【前回の話】
第15話 https://note.com/teepei/n/n11c65a1fe2d0

***

「さあ、朝ごはんにしましょう」

 魔王の居候が始まり、七日目の朝である。

 巨体の割には思いのほか器用で、炊事や洗濯をこなす。家の前に作られた畑には、どこからか探してきた種やら苗やらを畝に植え込んだ。
 魔法でどうにかなりそうでは、というところも、魔法を使うとそれなりに消耗するも

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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第15話

【前回の話】
第14話 https://note.com/teepei/n/nd280d23251bc

 このままお話ししても大丈夫ですか、と魔王が細やかな気配りを見せる。めまいを覚え、ひと息つきましょう、と男が席を立つ。村でも数少ない懇意の知り合いからもらったかわらけの器に、汲み置いた水を柄杓で注ぐ。ひとつは魔王、もうひとつは男の位置で食卓に置き、再び椅子に座る。ああ、どうも、と魔王が口をつけ

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駆け抜ける狂騒と一条の郷愁 第14話

 第二部 ある物語

 目を覚まし、さて、何をしたものかと男は思う。

 昨日、村の若者がひとり旅立った。
 彼は選ばれし者だった。何によって選ばれたのかは考えるまでもなく、思考はそこで停止している。選ばれたのが自分でないことを悔しがる若者もいて、彼はなかなか優秀で村でも一目置かれる存在ではあったが、選ばれたのは彼ではなかった。その選ばれる、選ばれないについてのひと騒動が最近起こった村の大きな出来

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