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昨夜の客人ティエリーとスーについて、或いはカップルのあり方は色々だよ


知り合ったばかりでお互いのことをほとんど知らない人たちを食事に招く事は我が家ではよくあること。
「とりあえず俺が料理の腕を奮うから我が家に飯を食いに来い」といった感じで夫は挨拶がわりに招待の言葉を投げかける。

ティエリーとスーはカナダのケベック州から冬の寒い時期数ヶ月間をこのプエルト・ヴァジャルタで過ごすために南下してくるスノー・バード(北米特にカナダの極寒地域から毎年冬の間だけ渡鳥のように暖かい地域に移動して長期滞在する人々の通称)で、今年は2回目の冬らしい。

不動産屋での最初の出会いも彼らが購入したばかりの建築中マンションの営業担当が我々の現在住んでいるマンションの営業担当でもあったという偶然からだ。

2回目に道でばったり再会した際に、夫はよせばいいのに先輩風を吹かせて、
「マンションの完成は必ず予定より遅れるから心しておいた方がいい。少なくとも3ヶ月、下手したら6ヶ月の遅れも大袈裟じゃない。」と彼らに忠告した。
ティエリーは「薄々は想定している事だけど、経験者にそうはっきり言われると身も蓋もない。あぁ、君とは知り合わなければよかった!」と冗談めかした。
そんなこんなで、連絡先を交換し、昨夜我が家でのディナーが実現した。

ティエリーは70歳という年齢を聞いて感心するほど精悍な印象の男性で今でも週3日は必ずテニスを楽しんでいると聞いて納得。スーも恐らく60歳代と思われるが同じく若々しく溌剌とした女性だ。一見都会派シティーボーイ(なんと古臭い言葉!)のティエリーは実はカナダでは人里離れた牧場で暮らし、住居も自分で設計して自分の手で建てたと言うではないか。我々が意表を突かれた顔を見せると、
「昔の人は普通に皆そうしていたじゃないか?今はお金を出して人に頼むのが普通になってしまったけど。思っているほど難しいことじゃないよ。」と我々の驚きを飄々と交わした。

我々夫婦が引っ越しを考えており、その理由の一つとして極力人付き合いを避けるためもっと人が少なく静かな場所が好ましいからと夫が言うと、ティエリーは
「僕もあまり人と交わるのを好まない。長年好んで一人暮らしを続けてきたしね」と言うではないか。え?ではスーとは一緒に暮らしていないの?という疑問が私の顔に書いてあったのであろう。スーがすかさず「私たちは数年前にネットの出会い系サイトで知り合ったの。私は未亡人、ティエリーはバツイチでお互い独身だったから。今もカナダにいる間は二人別々に暮らしているの。」と説明した。

ティエリーとスーがカナダでは別々に暮らしているという点についてもう少し突っ込んで話を聞きたかったと彼らが帰ってから夫が言った。とりあえず、今回は夫があまり突っ込んで意見しなくてよかったと私は胸を撫で下ろした。

夫は別居婚という形に理解を示さない。同居している夫婦が大半の時間を別行動で過ごすことも良しとしない。夫婦は極力行動を共にすべしというのが彼の持論だ。

以前ある知り合いカップルが過去に同居していたが現在は別々に暮らしていると我々に説明した時私が彼らに理解を示し、冗談で夫に「私たちも別々に暮らしてみようか?」と言ったことにより派手な夫婦喧嘩が勃発したことがある。それ以外にも私が別居とまでは行かなくとも夫婦別行動を主張した事により夫婦喧嘩となったことが何度もある。

ティエリーとスーが別居している事について昨夜私は一切コメントを控えた。以前の私だったらティエリーが一人で時間を過ごすのが好きだと発言したのを受けて「私も!」と激しく同調したであろうが、昨夜は静かに聞き流した。私も少し学習できているようだ。

ティエリーとスーとは今週末ビリヤードをする約束をしている。その場で夫が二人の別居についてあまり追求しないことを願う。そして私が地雷を踏んでしまわないことも。






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