Blur"The Ballad of Darren"について

1274年 蒙古襲来
1549年 キリスト教伝来
1853年 ペリー来航

 そして2023年、はいBlur来日ですね。2023(仁王立ちのプーさん)と覚えてください。しかも8年ぶりのニューアルバム"The Ballad of Darren"を携えてですよ。再結成バンドの新作には今まで散々辛酸を舐めさせられてきたせいで、リリースニュースを見ても固く心を閉ざして人を信じられない保護犬のように威嚇することしか出来なかった私ですが、"The Ballad of Darren"を一聴した瞬間へそ天。一生Damonの犬になりますワン。
 再結成後最初のアルバムであった前作"The Magic Whip"は個人的には微妙な出来でした。というのも、再結成を発表してから初めてリリースしたのが2009年の"Fool's Day"という曲だったのですが、これがもう素晴らしすぎて泡吹いて倒れてシン・仮面ライダーの怪人のように土へ還りかけたんですよ。

 私が"Think Tank"を愛聴していることは過去記事に述べたとおりですが、この"Fool's Day"はポップでありつつ淡々としたダウナーな流れにGrahamのギターが寄り添いつつもはっきり主張するという"Think Tank"以降を感じさせる傑作だったんですよね。なのに現在Official動画が削除されサブスクでも聴けない幻の曲と化しているのは本当に勿体無い。近所のスーパーの「呼び込み君」の音楽をこれに差し替えたい。
 しかし、この後に発表されたアルバム"The Magic Whip"はこの"Fool's Day"の発展系になるかと思いきやそうはならなかったんですよね。一曲目"Lonsome Street"はBrit Pop期を思わせるアッパーなテンションで幕を開け正直違和感がありました。

 また、アルバム全体では統一感が薄く、香港をインスピレーション源としたというのも正直「?」でした。そういう無国籍なチグハグ感はGorillazでしょ。"Think Tank"でもアフリカ音楽がインスピレーション元だったけどあれはバンドが空中分解しかかってるズタボロさがあったからチグハグさと噛み合ってたの。仲直りだイェーイ俺たち最高のバンドだよなってなってるところで何故香港?というのが正直な感想。激安の殿堂ドン・キホーテのテーマソングはあのチープさが店のコンセプトに合ってるのに、急にJohn Williamsにフルオーケストラで新テーマソングの作曲を依頼したりしたら意味わかんないでしょ。

 まぁアルバムをがっつり作ろうとして作った曲というよりスタジオジャム音源をGrahamがなんとかまとめ上げてアルバムという形に持っていったという経緯も影響しているんだと思うんですが、正直ディスコグラフィーの中で一番聴かないアルバムになってしまいました。
 それから8年。"The Ballad of Darren"がリリースされたわけですがこれが前述の"Fool's Day"の流れを汲む快作だったわけですよ。完全なる正解。ブラックジャックも「これが聴きたかった」って言う出来。思わずTakk…(ありがとう…)と声が漏れました。
 先行でリリースされた"The Narcissist"のどこか寂寥感がありつつも静かに盛り上がっていくグッドメロディ、演奏とボーカルから滲み出る年相応のクールな佇まいにノックアウト。再結成後の今繰り返される"But I won’t fall this time"というフレーズの力強さよ。"The Magic Whip"でもうキラーチューンは作れない(作らない)のかな……と思ってたところにコレ。おい!全然できるやないか!同年にGorillazでも傑作をドロップしておいてこの出来?齢55にしてDamonの才能の泉吹き出しすぎだろ。メントスコーラか。

 続いて公開された"St. Charles Square"はGrahamのラウドなギターがアルバムで唯一炸裂しつつも、"Lonesome Street"みたいなアッパー感は無く、Damonは低音で淡々とボーカルをとるというDavid Bowieみたいなこれまであまり無かったスタイル。決めフレーズの"Tesco disco"もボソッと言うだけ。完全に押すだけではなく引くタイミングを心得ている大人のソングライティング。デロリアンで過去に戻り"Be Here Now"作ってた頃のNoel Gallagherに聴かせて歴史改変したい。また、恐らくDamonのソロワークの流れを汲む静謐な雰囲気の今回のアルバムの中で、一際異彩を放っているこの曲のノイジーさが全体を締める役割を担っているんですよね。餅巾着で言うところのかんぴょうのポジション。この曲が無かったら"The Ballad of Darren"はただの油揚げと餅。美味いけど。

 他にも"Barbaric"は"The Narcissist"に比肩するキラーチューンっぷりを発揮していて連続殺人犯と化してるし、"Avalon"のハリボテ感の無い説得力のある雄大さは、チーズを作ったり弁護士になったりキャリアを重ねた今だからこそなせる技だなとしみじみ聴き入ったり、色々と聴きどころの多いアルバムなのにも関わらず総再生時間が36分とコンパクトなのは脳がバグる。"Be Here Now"作ってた頃のNoel Gallagherに聴かせて歴史改変したい。とにかく単位時間あたりの濃さがカルピス原液くらいある。タイパ最高すぎるのでファスト映画観る前にこれ聴け。合法だから。
 本編終曲は"The Heights"な訳ですが、この曲、アウトロはフィードバックノイズがどんどん増強していって一面を覆い尽くした瞬間にブチッと終わるんですよね。

 空中分解前最後の曲は"Think Tank"の終曲"Battery in Your Leg"なわけですが、この曲は最後、綺麗に音が消えゆく感じで終わるんですよ。これ聴いた瞬間、「Blur、完!」と思った人結構いるんじゃ無いかと思うんですけど、それに対して"The Heights"のこのブチッと豪快に終わる感じは藤岡弘、の「、」的な"to be continued…"感が出ていて「俺たちはようやく登り始めたばかりだからな……このはてしなく遠いBlur坂をよ……」という4人のメッセージのように感じられました。まぁ日本盤だとこの後にボーナストラックが続いちゃって余韻もクソも無いんですけど、"The Rabbi"がスタメン落ちしたのが信じられないくらい良かったので許した。このタイミングで泉にメントス追加すんな。

 滅茶苦茶楽しみだった反面、不安もかなりあったBlurの新作でしたが、予想を遥かに越える出来で、一周聴いたら完全に大沢たかおの王騎フェイスになってました。大トリを務めたSummer SonicではDamonも登場からこの顔。というか観客も含めみんなこの顔。ZOZOマリンスタジアムに集結した35000人のたかお。凄まじいたかお感……多幸感に包まれていたのは、もちろんこれまでにリリースされた名曲群のおかげでもありますが直前にリリースされた"The Ballad of Darren"の力だと思わされましたよ。ココココ。


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