オールタイムベストMV(前編)
背景(建前):
「ビデオがラジオスターを殺っちまった」とThe Bugglesが歌ったのは1979年だったが、実はMusic Video(以下MV)の歴史は20世紀初頭にまで遡ることが出来る……とはいえ、この当時にMVなるものがあったはずも無い。この時何が行われていたのかというと、楽譜の販促のため、"illustrated song"といって幻灯機で映写された静止画に歌やピアノを乗っけるというパフォーマンスが行われていたのである。MV、とまでは呼べないにせよ、①「音楽」の販促のため ②音楽に再生可能な視覚的刺激を加えた、という点で、その萌芽と見ることは十分可能であろう。 The Beatlesは創作活動に割く時間をメディア出演で潰されたく無いという思いからMVを制作したと言われているが、一般的にはillustrated songから続く販促の一環を第一の目的として音楽作品に映像が付けられてきたのは疑うべくもない。1980年代に入りMTVの台頭から一気に音楽+映像というフォーマットがアメリカに定着すると、Michael Jacksonのように販促の一環ではなく、映像という表現方法それ自体に意味を見出すアーティストも増えてきた。ここにきて、(音楽それ自体に比較して、という意味で)いささか軽視されがちであったMVは、アーティストのCharacterを形作る重要な要素としてその存在感を増したのである。とはいえ、販促という当初の目的の優先度が下がったわけでは勿論無く(日本ではプロモーション・ビデオという呼び方が定着したこともそれを物語っている)、MVからヒットを飛ばすミュージシャンも続々現れたのであった。
2000年代に入り、人々が最も日常的に目にする頻度が高いメディアはTVからインターネットへと徐々にスライドしていき、それまで音楽番組をチェックしてお目当ての曲のビデオが流れるのを受動的に待つしかなかった状況は180度転回して能動的に(違法アップロードが大半であったものの)目当てのビデオを観たい時に観る、という形が定着した。音楽動画プロバイダVEVOがYoutubeによって動画ホスティングを開始したのは2009年のことである。販促という目的が辛うじて(というのも動画を観るだけで音楽鑑賞として完結してしまうユーザーが一定数居た)意味をなしていたのはこの頃までであり、2010年代に入りサブリクションサービスが世界中に勢力を伸ばし始めるとその意味合いは随分と小さいものになっていた。つまり2020年代の現在においてMVにおける販促は最優先事項ではなくなり、映像作品としての意味合いのみが残されたことになる。従って、ここまでを一つのピリオドとして、MVの歴史を振り返るとともに、その中で生まれた数々の名作を再発見するには良い時期なのではないかと考えるに至った。
これまで音楽メディアにおいて、「オールタイムベストアルバム」や、「オールタイムベストソング」といった企画は数多く行われてきた。しかしながら、映像作品であるMVに焦点を当てたランキング企画というのは、アルバムや曲におけるそれに比して少ない(当然ではある)。そして、投票によって順序を決める参加型のランキングや、邦楽も含めたオールタイムベスト、というリストは私の知りうる限りでは見たことがない。そこで、今回洋楽・邦楽全てを含めたオールタイムベストMVランキングをTwitterを利用した参加型企画として実施することにした結果報告が本稿となる。
背景(本音):
みんなー、とにかく面白いMVが観たいから教えて!!!
方法:
参加者はTwitter上で2021年6月12日から2021年6月26日までの14日間、Googleフォームを利用して募集された。なお、初めのうちはほとんど投票が無く完全に終わった……と思われたが、多くの有志のご協力により拡散され、最終的に100名もの方が参加者として登録された。この場を借りて厚くお礼申し上げる。
参加者は以下のレギュレーションの下、投票を行った。
① 1から10本のMVを選出する。
② それぞれのMVを10点満点で採点する。ただし、自分が選出したMVの合計点が40点を超えてはならない。また、40点を使い切らなくとも良い。
③ 洋楽・邦楽の区別なく投票して良い。
④ 選出できるアーティストは同名義、関連アーティスト(例:Blur, Gorillaz, Graham Coxon etc.)含めて3本までとする。監督による制限は設けない。
面倒臭いことこの上なく、よく100名も集まったなと思うばかりである。どうかしている。
ただこれには一応理由があって、第一には現在Twitter上ではオールタイムベスト企画が乱立しており差別化が図りたかったというのが大きい。これまでに行われたオールタイムベスト企画のルールを見てみると、大体が順位付けをして、1位から1点ずつ減点して得点とするという方式を採っていることが多い(1位:30点、2位:29点……30位:1点という具合)。これはこれでシンプルで公平性もあり非常に磨き抜かれたルールだとは思うが、今回はもう少し参加者の思いの大きさの差異がランキングに影響を及ぼすものにしたかった。例えば、他の作品への投票権を犠牲にしてでも、上位に食い込ませたいほどその人にとって重要な作品があるのではないか、そういった思いを投票に込められる形は無いのだろうかと考えたのである。また、これまでのルールでは順位が一つ上がるとその差異は1点であるが、果たして1位と2位の差異、29位と30位の差異は等間隔と見做して良いのだろうか。あるいは、同じくらいの思い入れがある作品を同順に付けられないということもあるのではないか。こういった疑問を解決する一つの手段として、今回のレギュレーションに結実させてみた。しかしながら当然限界点も見つかったことは後述しておく。
結果:
投票MV数 649本
投票アーティスト数 466組
集計中に折れた歯 1本
上位46位まではTwitter上で2021年6月27日から2021年7月2日までの5日間で分割し発表した。本稿ではそれに加え上位64位までを発表する。やや変則的な発表順位となっているのは、今回のレギュレーションの限界点として得点の幅が1〜10点までしかない点、そして1人の最大投票本数が10本であることに起因して、下位では同点同順があまりにも増えてしまったのが理由である(よって、64位までで上位109本ということになる)。もう少しサンプル数が増えればこの点は解消されてくるのかもしれないが、100名での集計ではこのような結果になった。これに関しては次回以降改善の余地があると思われるが、私はもうこの手の企画を主催したいとは思わないので(大変すぎて歯も折れたし)、これを見た誰かの参考になれば幸いである。
それでは、カウントダウン!
第64位 10点
電気グルーヴ/Cafe de 鬼(顔と科学) (2004)
監督:天久聖一
山崎まさよし/One more time, One more chance (「秒速5センチメートル」Special Edition) (2007)
監督:新海誠
公式アップロード無し
ゆらゆら帝国/冷たいギフト (2002)
監督:山口保幸
公式アップロード無し
ゆくえしれずつれづれ/Loud Asymmetry (2017)
監督:wataru asai
ポルノグラフィティ/オー!リバル (2015)
監督:竹内鉄郎
サニーデイ・サービス/今日を生きよう (1998)
監督:山口保幸
くるり/ロックンロール (2004)
監督:池田剛
Vince Staples/Señorita (2015)
監督:Ian Pons Jewell
UA/ミルクティー (1998)
監督:HIROMIX
The xx/Islands (2009)
監督:Saam Farahmand
The White Stripes/Fell In Love With A Girl (2002)
監督:Michel Gondry
The Strokes/Hard To Explain (2001)
監督:Roman Coppola & Johannes Gamble
The School/Why Do You Have To Break My Heart Again? (2012)
監督:Lucy Dawkins & Tom Readdy
The Police/Wrapped Around Your Finger (1983)
監督:Godley & Creme
The Horrors/Sheena Is A Parasite (2006)
監督:Chris Cunningham
The Beatles/Don't Let Me Down (1969)
監督:Michael Lindsay-Hogg
The 1975/Sincerity Is Scary (2018)
監督:Warren Fu
Stars/Your ex-lover is dead (2005)
監督:不明
SOPHIE/It's Okay To Cry (2017)
監督:SOPHIE
Saint Etienne/Hovert Paving (1993)
監督:不明
R.E.M./We All Go Back To Where We Belong (2011)*
監督:Dominic J. DeJoseph & Michael Stipe
*2つで1つのMV。
Pavement/Carrot Rope (1999)
監督:Lance Bangs
P!nk/try (2012)
監督:Floria Sigismondi
Overhead, the Albatross/Big River Man (2015)
監督:Luke Daly
OK Go/White Knuckles (2010)
監督:Trish Sie
Nirvana/Heart-Shaped Box (1993)
監督:Anton Corbijn
MONO NO AWARE/井戸育ち (2017)
監督:玉置周啓
MONO NO AWARE/異邦人 (2021)
監督:奥田昌輝
MONO NO AWARE/A・I・A・O・U (2019)
監督:元 / 玉置周啓
Michael Jackson/Don't Stop 'Til You Get Enough (1979)
監督:Nick Saxton
Madmans Esprit/yon don't allow me (2018)
監督: 叫號
L'Arc~en~Ciel/DRINK IT DOWN (2008)
監督:ムラカミタツヤ
KinKi Kids/恋は匂へど散りぬるを (2013)
監督:不明
公式アップロード無し
Katy Perry/Dark Horse (2013)
監督:Mathew Cullen
Guns N' Roses/Welcome To The Jungle (1987)
監督:Nigel Dick
Grimes/Oblivion (2012)
監督: Grimes & Emily Kai Bock
Gnarls Barkley/Crazy (2006)
監督:Robert Hales
Frank Ocean/'Nikes' (2016)
監督:Tyrone Lebon
Eminem/Without Me (2002)
監督:Joseph Kahn
David Bowie/Strangers When We Meet (1995)
監督:Samuel Bayer
公式アップロード無し
Coldplay/Up & Up (2016)
監督:Vania Heymann & Gal Muggia
CHAI/Sayonara Complex (2017)
監督:古屋蔵人
Bruno Mars/Just Way You Are (2010)
監督:Ethan Lander
Blur/Good Song (2003)
監督:David Shrigley
Blur/Beetlebum (1997)
監督:Sophie Muller
Beastie Boys/Three MC's And One DJ (1998)
監督:Nathanial Hörnblowér(Adam Yauch)
Aphex Twin/On (1993)
監督:Jaevis Cocker
第57位 11点
フジファブリック/夜明けのBEAT (2010)
監督:大根仁+easeback
TOOL/Parabola (2002)
監督:Adam Jones
The White Stripes/Seven Nation Army (2003)
監督: Alex Courtes & Martin Fougerol
The Killers/Read My Mind (2007)
監督:Diane Martel
Peter Gabriel/Sledgehammer (1986)
監督:Stephen Johnson
OK Go/A Million Ways (2005)
監督:Trish Sie & OK Go
Fatboy Slim/Weapon Of Choice (2001)
監督:Spike Jonze
⇨長くなったので46位以降は次の記事に続きます。
参考:
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