2021年まとめの文章

 SNSとサブスクリプションサービスの普及によって、個人が限られた時間の中でリーチ出来る音楽作品の範囲というのは正に爆発的に広がった。かく言う私もTwitterによって、能動的に集めようとしなくとも、処理できない量の情報が流れ込んでくるようになった。その結果、一部のパワフルなリスナー以外にとって重要なのは情報を取捨選択する能力ということになり、もう少し端的に言ってしまえば「捨」の能力を強めていく結果を招いている印象を受ける。この時代に人に勧められた音楽を「聴く」という選択をするのはなかなか骨のある作業であるーー裏を返せばそのフィルターを突破した作品というのはそれだけで他には無い「何か」を纏った作品であり、更に何度も繰り返し聴くことになる(≒購入に至る)作品というのはもう個人の中で激戦を勝ち抜いた天下一武闘会優勝クラスの作品ということになる。以下は本年に私が主にTwitter経由で出会った作品で、印象に残ったものを備忘録的にまとめたものである。なおここに至った時点で皆チャンピオンなので順位は無い。We are the champions.

/black midi - Cavalcade/

 近年の音楽をシーンとしては追っていなかったので、サウスロンドンのポストパンクリバイバルについての予備知識は全く持ち合わせていなかった。そんな中で聴いたM1 "John L"を聴いて感じたのは、「リフこそがパワー」というロックの筋肉思考だった。そんな単純な原則でねじ伏せるだけの力がこの曲のリフにはある。更にボーカルGeordie Greepのバリトンボイスによるポエトリーリーディング的歌唱が怪しげな呪術性をトッピング。余談だが私は低音ボーカルがとっても好きで、blink-182よりBad Religionが好きだし、Guns N'RosesよりVelvet Revolverが好きなので正にドンピシャだったのだ。このGreep、どんなナイスミドルかと思えば、1999年生まれというから底が知れない。M2 "Marlene Dietrich"は更にその美声を引き立てたジャジーなチューンとその振れ幅にも驚かされる。こんなのどうやって演奏するんだ?どうせ音源だけで、ライブはボロボロなんでしょ?と思っていたらYoutubeで公開されていたKEXP-FMでのタイトすぎるライブパフォーマンスを観てもう脱帽。完敗。乾杯。MVやアルバムジャケットなど、視覚面での演出も群を抜いていてblack midi最高や。君も黒に染まれ。


/Porter Robinson - Nurture/

 クレーターの中のヤムチャみたいなカバーアートからは全く音楽性が想像できかねる、アメリカの若きDJ7年ぶりの2ndアルバム。Skrillexのレーベルと契約しているが、いわゆるDJのアルバムに比べてそこまでアッパーではなく、もう少し優しく、抒情的。というのもインスピレーション元がアニメ映画の「おおかみこどもの雨と雪」のサントラ(音楽:高木正勝)とのことであり、これとダンスミュージックを掛け合わせたような作風になっている。というか、全然関係ないサントリー天然水のCMに起用されたり、アメリカの売れっ子DJの新作に影響を与えたりと、「おおかみこども〜」のサントラ名盤過ぎないか。ベースになっているのは久石譲や坂本龍一などが得意とするような、日本人が好む大袈裟に感傷的なピアノ曲なのだが、御多分に洩れずこういう曲私も大好きなんですよね。このアルバム内だとM4 "Wind Tempo"の後半が顕著かな。泣メロ、クサメロが好きならダンスミュージックが苦手でも一聴の価値あり。

/Weezer - Van Weezer/

 このアルバムに先行しリリースされていた"OK Human"が新基軸を打ち出した名盤だったこともあり、正直舐めてた。まずアルバムタイトルがVan Halenを何の捻りもなくリスペクトした"Van Weezer"でしょ。舐めとんのかと。ヒゲダンが「長渕髭男dism」ってアルバム出したら舐めてるでしょ。しかも先行シングル"The End of the Game"のイントロを聴いた瞬間にバリバリのライトハンド奏法で「あ、これはだめだ」と……思っちゃったんですよね。不思議なんですけどアルバム通して聴くと全然違和感無い。それはあちらこちらに散らばったHR/HMのオマージュによって作り出されたアルバム全体の流れによるとも思うし、またその上に乗る屈強なグッドメロディセンスで全てを束ねあげてるおかげでもあると思う。名曲Crazy Trainのリフに改めてこんなメロディ乗せられるか(M6 "Blue Dream")?ハードに貫き通すかと見せかけて最後の最後でやっぱり従来のWeezerの優しさが顔を覗かせるエンディングM10 "Precious Metal Girl"も見事。何よりトータル10曲30分で駆け抜ける潔さよ。サブスク時代を実は一番よく分かっているベテランバンドかも。

/Dinosaur Jr. - Sweep It Into Space/

 ミルクボーイみたいな、絶対的にクオリティが約束された「法則」を見つけてしまっているバンドではあるが、意外とクオリティを保ったまま同じ法則を貫き続けるって辛いものがあるんですよね。その点Dinosaur Jr.は実家のような安心感がある。J、Lou、Murphが一緒に作品を作り続けているというその事実だけでもう全体重を任せられる。カバーアートはこれまでに比してなんか格好いい感じじゃん、と思ったがM5 "Garden"のMVの完全に笑わせにきているサムネイルを見て更に安心感が強まったのだった。

/Danny Elfman - Big Mess/

 元Oingo Boingo……というよりも、"Nightmare Before Christmas"の音楽の人……というのが世間一般の認識であろうDanny Elfman (68歳)が2021年にオリジナルフルアルバムを出したというのがまず驚きだし、その内容がToolみたいなアートワークから楽曲から軒並み素晴らしいというのが重ね重ね驚きであった。「お前は私を窒息させる」が「まだ生きている」と歌われるM1 Sorryに始まり、「私たちは終わりについて考える」「私には目的地が無い」と歌うM2 Trueとどこまでも閉塞感に満ちた歌詞が並ぶのは未曾有の大災害に見舞われたこの時代と無関係では無いだろう。M9 Happyの歌詞なんてもう完全にイっちゃってる。Danny、ちょっと外に出た方がいいよ。でも感染対策は怠るなよ。72分の大作の中で楽曲のボルテージは徐々に上がっていく構成になっており、先行リリースされた終曲M18 Insects (Oingo Boingoのセルフカバー)は最高に格好良くて70手前のお爺ちゃんとは思えない。尖りすぎ。

他に良かったやつ:
Quadeca - From Me To You
Temparay - ゴーストアルバム
家主 - Doom
Celtian - Sendas de Leyenda
Liquid Tention Experiment - Liquid Tention Experiment 3

番外:/Noel Gallagher's High Flying Birds - Flying On The Ground/

 こんな曲作れるんだったら早よやれ。


皆様よいお年を!


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