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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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#掌編小説

【spin a yarn】
頭の中に靄がかかる
物語と戯れている
もう少し、まとまった自由な時間があるといいのに
そうしたら、インクの子どもたちもかまってあげられる
(わたしたちの相手もしてよ)
オーケー、あの物語の続きを進めよう
現実をおろそかにしても、物語を漁りたい
靄よ靄よ

【spin a yarn】
夢を渡る蝶がいる。彼らが選んだ夢の主は、やがて言葉を失う。幼生が食べ尽くしてしまうのだ。枯れたわけではないから、焦らなくていい。夢に青い蝶の大群が離れてゆくのを見たら、翌年には幼い言葉が芽吹く。どの言葉を主食とするかは不明。偏食であることは確かだって。

【spin a yarn】
心の曇る
硝子か空か
空を湛えていたいと願う
鳥をひとつがい
星をひとつ流す
夜の帳のベルベット
昼はどこまでも白く、たやすく迷子になる
空を湛えていたいと願う
もし硝子ならば、全て砕いてしまおう
砕かれた心は神の好む
空の空にならず
切っ先を丸く磨く

【spin a yarn】
花弁を寄せて、薄紅の頬。
色をもらう、美しさの熱をもらう。
曇りがちな顔だけれど、触れた花弁のやわらかさを思い出して、もう一度、頬を染める。
おかえり、と花弁が傾げる。
水を差し、頬を寄せて、ただいま。
疲れを忘れ、美しいことを思い、彩りを返す。

【spin a yarn】
雨とすれ違う。
人のように歩いて行った。
振り向いても、雨の姿は見えない。
ここは、もう晴れている。
小さな雲の戯れか。
ずいぶん、旅慣れているような雨だった。

【spin a yarn】
闇雲、と呼ぶ。わたしは、少し涙しながら、笑う。闇雲は鹿爪らしい顔をして、前を向く。闇雲なのに前を向くの。そうね、そういうのが、いいね。とびきりのを用意しよう。本当に、物語はたくさんあるの。育てる時間と、おめかしの余裕を、早く持てるようにならなくちゃね。

【spin a yarn】
夜更けに木々の囀る。
根で歩き、ダンスする。
鳥の真似よ、と歌う。
人の真似よ、と踊る。
誰にも見つからないように。
森の奥へと向かいましょう。
たわわに実をつけ、増えましょう。
いつかの木々の惑星は、こんな風にはじまる。
赤い惑星の、もしかして。

【spin a yarn】
黒い馬、ただ駆けるのが楽しい
白い馬、それを追いかけるのが楽しい
見ているわたしの楽しい
無人のメリーゴーラウンド
朝には鹿爪らしい顔をして列を組む
夜の帳の向こうで、束の間、ふざけている
そういうのが君にも必要だよ
ただ楽しいとか、秘密に美しいとか

【spin a yarn】
星の流れる。
遠い国よりも近い星。
むしろここまでやってきた、君の願いを聞かせて欲しい。
それとも秘密をひとつ、ほどこうか。
新しいものは、みな星から生まれると、誰か気付いているかしら。
たとえば新種のコウモリを、その懐に抱いてやってきたのを。

【spin a yarn】
傘を差してやってくる鷺
いいニュースと悪いニュースを迫られそうだ
何をしにきたの?
飲み物を、できれば、咽にあついものを
スコッチを注ぐ
わたしはお酒を飲まないので、これが正解か分からない
確かに、スコットランドを思い出す
嘘、傘を差しているじゃない

【spin a yarn】
トビウオが、歩いてやって来る
頼めば何かくれると聞いた
うーん、頼みによる
飛ぶのに飽きた、靴をくれ
尾ビレで歩くの? じゃあこれ
ほほう
わたしはGペンのペン先を2つあげる
ピカピカで偉そうだ
ハイヒール履いた、ジギースターダストみたいでかっこいいよ

【spin a yarn】
わたしの背中で寝るといい。
フラミンゴが羽を広げる。
何かよい夢でも見られるかしら。
眠れば分かるよ。
夢を見た。
モモイロの点描のひとつになる。
染まるように飛ぶことの、屈託のない喜び。
醒めないで。
人は考えすぎる。
知恵の実を食べた、誰かさん。

【spin a yarn】
蜘蛛が、イヤリングになってもいいか、と耳元で囁く。
ピアスをしているしなあ。
煙たい音を糸で閉ざそう。
確かに、耳を塞ぎたくなること、あるねえ。
蚊やダニからもまもろう。
魅力的。
では。
でも、今回は見送るよ。内耳の蝸牛が外を見るの、好きなんだよね。

【spin a yarn】
その小指の冠をちょうだいと、小さな兎が訴える
これは指輪よ、でも、似合いそうだからあげるわ
ねえ、わたし、姫になった?
なったよ
お礼に秘密を教えるね、星はお喋りしているのよ
しってるよ
慌てた兎は、指輪をそろそろと押さえる
ふふ、またね
脱兎、可愛い