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【spin a yarn】
時々、妖精が耳元で囁く。
いつも私の知らない言葉を。
そして笑っている。
からかわれているのか、と思うけれど、そうでもなさそうだ。耳たぶに口づけをして飛んでゆく。
規則性を見出そうとして記録している。嘆きの日記の隣に、それはよく書き留められている。
【spin a yarn】
咲く花を惜しげもなく摘んでゆく妖精たち。
春の花々は繊細で私は摘むことを躊躇するのに。
それでも、と思う。妖精の庭は人の世界と違って、星も花もふんだんにあり、果てがないように見える。
「摘めば摘むほど増えるから」
人の理の外にこの庭は広がっている。
【spin a yarn】
降る星の幾つかは花を咲かす。
花畑の雲を通ったのよ、と妖精が言う。
種星からはよい薬が採れるの。眠りの間に抜け出す霊の衣よ。着せてあげれば棲家に帰れる。
私の中にもいる?
妖精はじっと睨んで、悪い霊には着せてあげない、と言う。私は礼拝堂に足を伸ばす。
【spin a yarn】
私は春に惑う。心がふらふらと抜け出し、ぼんやりと彷徨う。「あなたの霊を家の角で見たよ」と妖精に言われる。「悪い霊が入らないように見張っておくね」そう言われると少し怖くなり、頭をはっきりさせようとコーヒーを飲む。空の私はどんな顔をしているだろう。
【spin a yarn】
妖精の視点で見ると冬と春の間は、人の思うよりもずっとダイナミックだ。視点を下げるだけで景色はまるで違う。或いは、と思う。妖精のいる場所はすでに異界かもしれない。私の霊の目が開いていたら、もっと違う景色が見えて、混乱したり、諒解したりするのだろう。
【spin a yarn】
地上の妖精から受け取った春の光を、湖に棲む妖精はしばらく水の中に浮かべている。未だ氷で閉ざされた場所でそれは明るく、魚たちは引き寄せられ、春の光と気づき、去ってゆく。湖の春は静かに賑やかになる。たくさんのものが生まれる。それは春の光に照らされる。
【spin a yarn】
氷の割れ目から、湖に棲む妖精を呼ぶ。冬を越えた星のかけらをもらう。
こちらは春よ、と挨拶をする。
こちらも春よ、と湖の妖精も答える。
では、春を、と黄色く光るものを手渡す。
では、春を、と青く光るものを受け取る。
【spin a yarn】
妖精の庭には春がひしめいていて、妖精たちは、そこから薬になるものを採集している。せわしなく飛び交い、一心不乱になっている。呼び止めるとようやくこちらに気づく。何をそんなに懸命になっているのかを問う。「この花はたちまち枯れる。春の先遣の足は早いの」