マガジンのカバー画像

spin a yarn

1,113
私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
運営しているクリエイター

2019年11月の記事一覧

【spin a yarn】
くるぶしがひんやりする。
夜中。冬の子どもの、床に降りてきて遊ぶ。
昼間、あたたまった空気に楽しそうに乗る。
音をつまんでいる、おいしそうに頬張る。
私も真似をする。
胸が熱くなり、指先は冷える。
歯の根が笑い始めてやめた。
こんこんと咳がこぼれる。

【spin a yarn】
星まがいと呼ばれる雪の、弧を描いて飛ぶ。北辰のように長く留まるものもいて、めあてとする者を惑わせる。地上に落ちた時、結晶は概ね壊れている。瞬くためと考えられるが、星まがいを捕食するものも認められている。偶然か、スターイーターに似ているが全くの別種。

【spin a yarn】
あのね、鼻をかじられた。
いつ、誰に。
分かんない。がじがじって。つめたくて、いたくて、あついの。
それは、かじかむね。
そう! かじかむが、がじがじって、あたしのお鼻をかんだの。
マフラーを巻いて。
い、や! ちくちくより、がじがじのほうがいいもん。

【spin a yarn】
煎りが浅いな、と感じる夜は「夜間飛行」や「南方郵便機」を思い出す。
透明な深夜だ。雲の上にいる。
花のことを考えてもいいだろう。本当に美しければ、景色にならず、言葉を話す。
知ってる? わたしの袖口の青いトリミングは星の雫よ。
夜より青く、深い香り。

【spin a yarn】
眠れぬ夜の友達。
難しくて美しい嘘つき。
レヴィヤタンは鯨偶蹄目。
いいえ、ウロコがあるから有鱗目。
それなら、人魚も。
レヴィヤタンの末裔(すえ)ならおそろしい。
なるほど、それはセイレーン。

【spin a yarn】
「蔦に巻かれる夢を見た」
ああ、それは多分、霧のせい。
「哀しくて嬉しかった」
草花の吐息を吸ったの。
「自由で寂しかった」
植物はいつも夢を見ている。
「わたしたちは草のため息で生きている」
むしろ歌よ。
喜ぶものを夢の世界に誘う。

【spin a yarn】
不機嫌に捕まっている。
雨が、少し長くて。
天気にうんざりすることが多くなったのは、気候の変動、それとも心の狭小。
心の幅なら広げられる。
大きな傘とレインブーツ。
からかう雨は遠くなり、やがて無垢な粒の連続に変わる。
まっすぐな背中だけ見える。