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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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2019年3月の記事一覧

【spin a yarn】
釣りをして
長靴が釣れるのは何なのかしら
ブラックジョークの類いかしら
大きな魚が満足気に長靴だけを吐き出す
例えればエビの尻尾
食べてしまう人もいるというけれど

マーガレットはエーグルの素敵な長靴を持っているわ
もちろん楽しいお話にするよ
(約束)

【spin a yarn】
瞳の端に涙のゆれる
瞼の幕を降ろさぬように
睫毛がまごつき触れぬように
笑ってもこぼれる
肯いてもこぼれる
上を向いて流れる
星よ 星よ
影の子どもの走り去る

【spin a yarn】
醒めない夢を歩いている
美しいことも多いけれど
一日置きに、体は動くことを拒否する
文字は跳ねまわり、絵画は勝手に続きを演じる
明日には滅ぶと、日に十度は思う
それなのに、金銭のことで思い煩う
不思議よ
そして、いつか皆、それを分からずにわたしを知る

【spin a yarn】
いつか、言葉とワルツを踊る
(大事なのは親密さ)
(教養とか、投擲でもよいけれど)
(君と踊れたら嬉しく思うよ)
僕も嬉しいだろう
できれば、視線を集めるほどに
(見惚れてもらえるように)
(クスクス)

【spin a yarn】
わたしの国はいいところよ
鳥が季節を運ぶの
蝶が出会いを演出するの
影が自由に輪回しするの
一角獣の蹄にネイルする
仔鹿はやがて、眠りに就いてリリィの顔をフレークルする
わたしの国はいいところよ
それは夢よ
ブローニーの6×6
でコマ撮りされているのよ

【spin a yarn】
影は眠っている
わたしはベッドを抜け出し、誰もいないキッチンに佇む
そこに闇は腰掛けている
少し後ろめたい気持ちで、闇の背中に触れる
闇は立ち上がり、ダンスへと誘う
(眠れぬ夜なら、月も影を落とすまい
ワルツを踊り、離れる
(光る瞳を持ったなら、いつか

【spin a yarn】
祈りと眠り。休みの日は殆どそれに費やされる(正直に言えば、ほぼ眠り)。教会に行くことがままならず、仕事に行くことも、少しずつ難しくなっている。
ふふふ、また家で仕事をすればいいじゃない。
それと、祈りの前に賛美が必要よ。賛美し、讃美歌を歌い、待つのよ。

【spin a yarn】
いつか長い眠りもゆるされますように。
それでも、寝入った乙女のように、油を器に入れて燈火とともに携えていられるように。
燈火を絶やさぬこと。
油を絶やさぬこと。
そのことを歌うのをゆるされますように。

【spin a yarn】
小アルカナほどの枚数で、対になっているカード群のひと束をなくす夢を見た。光がふんだんにある方だった。そばにいた老婆に、それは絶望だ、と聞かされる。探すいとまもなく目が覚める。夢は夢よ、と内側の夢に住む、羽あるものは鼻歌する。暗がりの絵札で夢を見るのよ。

【spin a yarn】
塞ぐ心。
雨の降る。
熾火が白い煙を上げる。
消えても焚き付けられる。
青い炎を懐に隠す。

【spin a yarn】
星の産声をいつか聞く
それならば、星の泣き声を聞いているはず
降りてきなよ
君ひとり抜けたって、夜など暗いもの
明るくなるまで飲み明かそう
正体をなくして、しばらく海にいてもいいんだよ

【spin a yarn】
青のこぼれる
いつか空の底まで届いて
青い花になる

それは少し焼けた匂いのするという
星に焼かれた名残という

【spin a yarn】
心の模様が曇るなら壁紙変えるも一興よ。心に壁を巡らしてウィリアム・モリスもいいでしょう。リバティだって、エルメスだって! ツイン・ピークスの赤いカーテンで覆ったならば、物語の始まる。それならいつでもそうだって? 蝋燭灯せば曇り模様もたちまちフィルムよ。

【spin a yarn】
わたしたちなど、幼子のかざす硝子玉よ
美しいという言葉を知らずに
宝箱にしまわれる
さっぱりとしたがらくたよ
あれがどれほど甘かったか
わたしの元にしかないと疑わない心の
そのやわな宝箱に忍び込む
わたしたちなど、ラムネのセロファンの色どりよ