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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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2018年12月の記事一覧

【spin a yarn】
楽しい思い出をくるくる回して、綿菓子をこしらえる。
ちぎって、頬張る。
やわらかく、あまく広がり、うっとりと溶けてゆく。
やさしい言葉、ひとつひとつのお砂糖を、くるくる回す。
助けてくれてありがとう。
あなたの言葉はわたしの中で、甘くやさしい綿になる。

【spin a yarn】
頭の中にひとつ、またひとつと花が咲き、新しい季節のよう。
束の間続く、この温暖な心模様に何をしようか。
それぞれの花に新しい名前つけて遊ぼうか。
君はヘラジカジャム。君はローレンツカーテン。君はナーナー。
寝転ぶ自由。吸い込む甘い匂い。
君はホシアメ。

【spin a yarn】
夢で滲んだ指先で、自分の顔をなぞる。輪郭が曖昧になる。うつらうつらする、夢の中へ戻る。わたしは舞うものの姿になり、指は頭の先にあるよう。はばたけば翅は空に溶けるようで、繰り返すと甘い喜びがある。
眼が覚める。頭の先に感じる空は、すでに甘さを失っていて。

【spin a yarn】
仕事の間、声を出すことができなくて(詰まるというよりは、音を出すことさえ億劫な)しんどい一日を過ごしたけれど、家に帰ると嬉しいことが立て続けにやってきていて、心は上機嫌になる。歌うことさえできそうだ。じゃあ、何を歌う? ふふふ、秘密の歌をハミングする。

【spin a yarn】
朝を確かめる。ストーブに火を入れ、コーヒーを淹れる。聖書を読んだ後、タブレットを開く。コーヒーを飲む。夜は遠のき、頭の中のそれも吸い取られるようにして去る。鳥の鳴いて、朝を確かめる。部屋の明かりは必要なくなり、消せば、湿った光が湯のようにたまっている。

【spin a yarn】
空っぽになり、心の灰色。
色を差しても、ぼわんとして灰を濃くする。
ああ、ブルーノ・ムナーリ展を観にゆかなくちゃ。
灰を湛えて、今しばらくは繁忙のただ中へ。
努めて輝度を明るく保つ。
何かの燃えて、心に降る。
早く、露を降らせ。心に、色を、星を降らせ。

【spin a yarn】
クリスマスの朝にはミンスパイをいただきましょう。オーナメントのチョコレートやシュトーレンまでいただいて、世界のクリスマスの食卓が小さなテーブルの上にいっぱいに。イエス様を覚えていただきましょう。クリスマスおめでとう。あなたの上にも祝福がありますように。

【spin a yarn】
なみなみとする夜。たっぷりと揺れながら、朝にこぼれようとする。
深い夜に泳ぐ魚は、朝もその縄張りにしようとして、体を大きく膨らませる。
夜よ、こぼれよ。
いつか、まったく夜ばかりになった日は、夜の魚を釣るといい。
夜の嵩が減り、朝が顔を覗かせるだろう。

【spin a yarn】
体の動かない状況が続く。楽しみにしていたライブに足を運べず、今日のクリスマス礼拝を欠席する。今しばらく様子を見て、回復したら仕事へ行く。その足にキャロリングを乗せる、つたない賛美をマフラーの陰で歌う。ああ、今、寝床でも歌う。ノエル 主はあもりませり。

【spin a yarn】
できることの幅が狭くなっている。料理ができなくなってから長い。今日は洗濯物が干せなくて、今、横になっている。衣類に、皺になるよとなじられる。夜に出かける予定がある。回復したい。別の薬も飲もう。抵抗の少ないルートを探る。食事は摂れた。頓服薬に手を伸ばす。

【spin a yarn】
うたを探しに心の周辺をストロールする。今日は、なかなか心の扉が開かず、難儀した。心の騒ぐ。心の周辺は風が強い。そんな時は温かいものを飲む。風は騒がせておけばいい。できることからひとつずつ。手足を暖める。空模様を変えようとせず、コートを羽織ることにする。

【spin a yarn】
星の数ほど未知があり、それは心を幼くさせる。
見える景色が新たになる。恐れる心、跳ねる心。
失ったものを慈しむ。それらを再び聴くために、
瞳を明るくする、暗がりに透き通る匂いを嗅ぐ。
世界の豊かに比べれば、わたしは何も知らない。
恐れる心、跳ねる心。

【spin a yarn】
昨日が積もり、沈んでゆく。
雪のよう。
今日の降る。
遠く眺めれば、しんしんと過ぎてゆく。
近くを覗けば、結晶し、音を奏でる。
すべて瞬いて、沈んでゆく。
目を閉じて、今日のささやくのを聞く。
秘密のひとつ語られる。
星の尾は、夜飛ぶ鳥のごちそう。

【spin a yarn】
眠りをゆるす。目覚めた時には、朝はふやけていて、むにゃむにゃと噛むように起きる。のろのろと動くことをゆるす。今日は奥まって過ごしていいと自分に語りかける。窺うように歩こう。身を潜める、いつもより影に寄添う。影は喜々として饒舌、影のタワーに登った話など。