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spin a yarn

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私の世界はどこまでも平ら、レイヤーの目を入れたり消したりして、時々君の前に現れよう。 石川葉による小さなお話の連作。
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2018年10月の記事一覧

【spin a yarn】
またたくのをやめ、星の眠り。
影が起き出し、鳥を歌わせる。
夜の自由。
昼の自由。
いつでも空はおしゃべりと、
歌声で満ちていること。

【spin a yarn】
何か大事なことを忘れたまま眠り、起きてもそれを忘れたままでいる。
少し、夜の淵に触れた。
もう少し、そこにいたいと思うのに、瞬く間の朝に戸惑う。
まだ、わたしは夜に親しい。
夜のしっぽはすぐに逃げる。
(もっと早くおいで)
最近、物がよく消えてしまう。

【spin a yarn】
机の上で誰かが遊んだ気配だけ残っている。
いつか、一緒に戯れながら、ものを書こう。
おやすみ、の前でなく、
おはよう、の後に。
待ってる、という声が遠くでこだまし、
わたしは、今日をはじめる。
まずは、机の上を整える。

【spin a yarn】
眠りの膜が取り去られ、朝の世界のわたしに近い。
明るみの中でも、文字は勝手に動き出し、踊る。
夜中の目覚めはあるにせよ、ひとつ薬を手放せそう。
時間を着替えたわたしは、まだその着心地に慣れないでいるけれど、
よろしく、とつぶやき、マグのコーヒーを飲む。

【spin a yarn】
夜に浸かる。
夜に酔う。
星の光芒は長くなり、ゆらめきさえする。
夜で十分、酔えるわたしは、朝のことを忘れ(どうでもよくなり)、
もう少しだけと、正体をなくし、深く沈む。
ただ過ごすだけで嬉しい夜に、寝転がっても責められない。
早く、生きやすくなろう。

【spin a yarn】
睡眠8時間。ストレッチ30分。人と時間のズレはあっても、規則正しく生活している。
酒も煙草もない。それでも、今日も頓服薬に頼る。明日、青い顔で仕事場へ行く。
ここまで言い訳を書いた。
病気の方がいいものが書けるって。
この頃、よく歯を食いしばっている。

【spin a yarn】
頭の中に靄がかかる
物語と戯れている
もう少し、まとまった自由な時間があるといいのに
そうしたら、インクの子どもたちもかまってあげられる
(わたしたちの相手もしてよ)
オーケー、あの物語の続きを進めよう
現実をおろそかにしても、物語を漁りたい
靄よ靄よ

【spin a yarn】
夢を渡る蝶がいる。彼らが選んだ夢の主は、やがて言葉を失う。幼生が食べ尽くしてしまうのだ。枯れたわけではないから、焦らなくていい。夢に青い蝶の大群が離れてゆくのを見たら、翌年には幼い言葉が芽吹く。どの言葉を主食とするかは不明。偏食であることは確かだって。

【spin a yarn】
心の曇る
硝子か空か
空を湛えていたいと願う
鳥をひとつがい
星をひとつ流す
夜の帳のベルベット
昼はどこまでも白く、たやすく迷子になる
空を湛えていたいと願う
もし硝子ならば、全て砕いてしまおう
砕かれた心は神の好む
空の空にならず
切っ先を丸く磨く

【spin a yarn】
一日を通して淋しい気持ち。
不安に苛まれることは多いけれど、ただただ淋しいというのは珍しい。
淋しいなあ、と思う。
気温のせいかもしれなくて、温かいコーヒーを飲んでみるけれど。
淋しい気持ちは、少し心地よくて、少し戸惑う。
苦しくないの、ただ淋しい。

【spin a yarn】
花弁を寄せて、薄紅の頬。
色をもらう、美しさの熱をもらう。
曇りがちな顔だけれど、触れた花弁のやわらかさを思い出して、もう一度、頬を染める。
おかえり、と花弁が傾げる。
水を差し、頬を寄せて、ただいま。
疲れを忘れ、美しいことを思い、彩りを返す。

【spin a yarn】
月が零れる
夜は薄くなり
明日が透けて見える
泣く子ども
その涙を吸う蝶
その蝶のはばたきが夜を塗り
明日は、また未知になる
月は傾きを直し
素知らぬ顔で空を渡る

【spin a yarn】
雨とすれ違う。
人のように歩いて行った。
振り向いても、雨の姿は見えない。
ここは、もう晴れている。
小さな雲の戯れか。
ずいぶん、旅慣れているような雨だった。

【spin a yarn】
ここのところ、病気が強いので、今日は負けて眠る。
お風呂に入らず、お祈りも約束した人と友だちの分だけ。
聖書を読みはじめれば、たちまち眠りに就くだろう。
今日の続く朝だろうけれど、モツァレラチーズがあって、それが楽しみ。