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なぜ「路上駐車をしないでください」と言えなかったのか

遅ればせながら、事務所への来訪者に対して「路上駐車をやめましょう」と呼びかけることにしました。
何を今さら、当たり前のことでしょう? と言われるかもしれません。でも、それを決めるまでは、さまざまな葛藤がありました。

一つは、森ノオウチの立地の問題です。駅から遠い。歩けないこともないけれど、バスを使うか、クルマで移動する立地です。クルマを持っていれば、森ノオウチに来る選択肢は、迷わずクルマとなります。
そしてたまたま、駐車禁止のマークがないエリアで目の前は公園、という立地であることも、「路駐をやめてください」と言いにくい状況でした。しかし、駐禁エリアでなくても、車庫や(家や公園の)出入口から3メートル以内は駐車禁止であり、そのルールは意外と知られていません。

もう一つは、「来ていただく方にご不便を感じてほしくない」という、いい意味で「配慮」、悪く言えば「忖度」のマインドです。「わざわざ来てもらう」ことになるわけで、誰かに来てもらうことに対して申し訳ない気持ちになってしまう感覚がありました。

しかしながら、駐車場は3台分あるのです。2台はスタッフ通勤用、1台は来客用として確保していて、それを超える人数が集まるとスペースからあふれて、クルマが路上に追いやられます。駐車場をそれ以上確保するべきかどうか、という問題も常につきまとっていました。

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森ノオトの事務所「森ノオウチ」がある青葉区鴨志田町は、駅から徒歩だと30分、バス便立地の住宅街です。以前、私は駅から徒歩7分のワンルームマンションに事務所を構えていましたが、次女が生まれてからのカンガルーワークは閉塞感を募らせました。縁があって知っていた鴨志田町の戸建て借家が空いたことを知り、仲間でもあるコマデリの小池一美さんと半々ずつシェアオフィスすることで、家賃はそれまでとほぼ変わらず、3台分の駐車場も1台ずつコマデリとわけて1台は来客用にできる、という条件に引越しを決めました。2014年11月のことです。

当時わたしは生後3カ月の次女を抱えてカンガルーワークをしていたので、クルマで事務所に通えること、広い空間で次女を寝かしながら働ける環境は、とても恵まれていました。クルマで移動することの多い子育て中のママさんにとっては、駐車場のないワンルームマンションよりも集まりやすいようで、次第に活動も活性化してきました。ほぼ1人で働いていたのが、翌年には事務局ができて4人体制になり、みんなで働く職場に急成長を遂げました。
2015年春には次女は保育園に入園。保育園も駅からは遠いものの事務所からはクルマで5分なので、自宅→保育園→事務所の登園ルートは15分という、クルマあってこその長時間ワークができました。同じ頃、常勤スタッフを雇えるようになり、同じ2014年生まれの子の育児中の彼女も、電車とバスを乗り継ぐよりもクルマで通える方がラクだということで、駐車場をもう1台、外に借りました。来客用1台はやはり、来訪者のために残しておきたいと思っていました。

その後スタッフの数も増え、やはりそれぞれ子育て中の時間の合間を縫うようにして働いていたので、クルマでの通勤を許可しました。ヨガやマッサージなど、事務所1階を定期的に利用する方も出てきました。常に敷地内の駐車場は満車、活動やイベントで来る方も増え……どう考えても駐車場は足りません。駐車禁止の標識がなく、緑のおじさんたちが来ないエリアなので、敷地の目の前の公園にはうちに限らず、業者さんのクルマもちょこちょこ停まっています。そんなわけで、森ノオトへの来訪への路駐については「暗黙の了解」が定着してしまいました。私たちも「おすすめはしないけれども、駐禁標識もないし、まあ、致し方ないかな」というスタンスでいました。

2017年より森ノファクトリーの活動が本格化して、工房を定期的に開けるようになってからというものの、もはや「常にいろんな人がきて賑わっている」状態になってきました。NPOとしては望ましくありがたいことです。でもそれは、路駐が増えることとニアイコールでもありました。だんだん私も息苦しくなってきて、クルマのドアの開閉の音を聞くたびに神経を尖らせてしまい、仕事中の小さなストレスとして積み重なってきました。駐車場を拡大すれば済むのかもしれないけれど、すでに3台分使える状態で、しかも使う時間帯はいっとき(平日午前中の3時間とか)に集中しています。ただでさえ自転車操業であり、工房開設等で固定費は増えていて、さらに駐車場もとなると、経営は回りません。

時にご近隣の出庫の迷惑になる駐車もあり(車庫から3メートル以内)、それが森ノオトの来訪者でない時にも注意を受けることがありました。うちが路駐を許容している限りは疑われても仕方がない、と思いました。来る人が増えて誰がどこに停めているのか特定しにくいことや、それこそ「近隣住宅の車庫から3メートル以内と公園入口から3メートル以内には停めないでください」と言うことが、それ以外の場所ならOKと同義にもなり、その注意をあえて言いにくい感じも、居心地の悪さを増長させていました。それこそ「路駐2台ならOKだけど3台目以降はご遠慮ください」とも言えないわけですし。

編集会議は毎回10〜20名が集まります。こちらは幸い、NPOの支援者でもあるマンションオーナーさんが集会所と空き駐車場を格安で提供してくださって、気楽に使うことができました。毎回編集部担当スタッフが駐車台数を事前に確認して、多い時だと8台!となってしまうので、さすがに4〜5台にとどめたいと、近所のライター同士で乗り合わせをお願いするなどの調整の努力を重ねてきました。

2017年後半になると、いよいよ工房も事務局もスペース的にパンク状態に。多い日だと15人が出入りして、まさに立錐の余地もない状況になりました。もはやこの規模で事業をおこなうのは限界だと、森ノオウチの同じ敷地の背面に立つ戸建てを借りることにしました。空き家になって1年以上経ち、外壁に穴が空いたり床が傾いていたので、大家さんに頼んで自由にリノベーションさせてもらうことにしました。事務所拡大という希望を胸に、事務局スタッフもファクトリーメンバーも肩を寄せ合いながらがんばって、でも路駐問題は見て見ぬふりをして、半年ほどの押し合いへし合いを乗り切りました。2018年5月には約1カ月かけてみんなでDIYをして、6月に新しい拠点が同じ敷地内に完成しました!

地元工務店4社とDIYサポーターの協力を得て、格段に広くなった拠点でこれから新しくいろいろなイベントができると期待に胸をふくらまし、さっそくお披露目で編集会議を新拠点でおこなうことにしました。普段お借りしているマンションの時のように、編集部メンバーの駐車調整をしているスタッフが、「駐車場、どうしましょう?」と……。そう、今後拠点の運営にあたり、これまで以上に人が来るようになる。このまま路駐問題に蓋をしていると、同じことがもっと大規模に進んでしまう。結構、極限状態まで思考は追い詰められました。
そこでで私が下した決断は、「森ノオウチへの来訪者の路駐を止めていただくよう、お願いする」というものでした。
編集会議の日を皮切りに、その週は3回、新事務所お披露目の小さなイベントを開催する予定でした。全ての来訪者に「クルマで来る人は路駐しないでください=近隣のコインパーキングを使ってください」と呼びかけることにしました。イベント担当者は参加者全員に連絡を取り、それぞれの駐車スペース確保に全力を尽くしました。その間、スタッフも「来客の場合は?赤ちゃんいる人優先?先着順?」と、混乱しながら調整を始めました。森ノオウチの近くに引っ越してきた理事が、イベントで満車時にスタッフのクルマを退避していいよと声をかけてくれました。調整に関する業務量は、勤務スタッフが近隣コインパーキングに最大料金で数日停められるくらいのものだったと思います。

もし、森ノオウチの近くにコインパーキングがあれば、1時間300〜400円くらいでそれぞれ利用することになります。一方、路駐をする人はその数百円を支払わない代わりに、駐禁の切符を切られるリスクを背負います。森ノオトの事務所付近には緑のおじさんは来ないのでそのリスクは少ないのですが、代わりに森ノオトがご近隣クレームの対象になります。ご近隣に迷惑をかけ続けることになると、貸借人である私たちの存在意義が問われます。社会貢献をするための法人なのに迷惑行為にも加担する。みんなでつくった「森ノオウチ」も手放すことになりかねない……。そこまで思考が飛躍するものか、と驚かれるかもしれませんが、私の心を追い詰めていたのは、住宅地の空き家活用で市民活動をがんばってきた友人たちが路駐問題に頭を悩ませてきて、活動拠点を退去せざるを得なくなったところもあった、という事実。私たちはその大きなリスクを背負いたくない、と思いました。リスクを手放す努力をこれまでしてこなかったことに、思い至りました。

なので、今まで言えなかった「森ノオウチに来る際は、路駐はしないでください」という言葉を、新拠点オープンに伴い、ご来訪の皆さんにお願いすることにしました。森ノオウチから歩いて7分のところと10分のところにあるコインパーキングをご案内し、できるだけ公共交通機関のご利用をおすすめすることにします。活動が拡大するのだから、駐車場を増やしてもいいのだろうという判断もありますが、これまで「路駐をしないでもらうための努力」と「スタッフ間で3台の駐車場を調整する努力」をしてきませんでした。だから、まずはとことん工夫をしてみて、それでもどうしても無理となったら、その時に拡大を考えることにしました。今はただでさえ拠点拡大の費用と毎月の固定費が10万円ほど増えるのです。駐車場の賃料まで積み重なったら、どんぶり勘定で破産しかねません。

これまで「路駐しないでください」を言えなかったのには、「駅から遠い住宅地にわざわざ来てもらうのだから致し方ない」「遠いところまで足を運んでもらい申し訳ない」「子育てで忙しいなか来てくれているのにクルマを停められないのは悪い」という、どこか自分たちの拠点や活動に対するコンプレックスがあったのかもしれません。それから私自身もスタッフもクルマ通勤しているし、だから来場者にクルマで来ないでとは言えません。来てくださる方のご不便がないよう、負担が少ないよう、快適になるよう、スタッフがとことん心を配り続けてきました、結果的にそれはもしかしたら流行語の「忖度」に近い状態なのではないか、とも思いました。

私たちがなぜ「路上駐車をしないでください」と言えなかったのかを振り返ると、次の3点なのかな、と思います。
(1) 駐車禁止の標識がないエリアなので、ルールとしての「路駐の禁止」ではなく、モラルとしての「路駐の遠慮」を呼びかけねばならない。
(2) 子育て中に市民活動をするには、限られた時間を有効に使わねばならず、それにはクルマ移動が圧倒的に有利。主婦がメインの担い手である森ノオトの場合、クルマを持ちながら使えないのは、活動のモチベーションを左右する問題に直結する(遠方から自転車で通って来る人も中にはいるが)。ギリギリの状態で活動してくれているのがわかるだけに、言いづらい。そして彼女たちの活動への感謝と申し訳なさから、できるだけ負担をかけたくないというマインドにとらわれてしまった。
(3) 市民活動の交通含めた費用は誰が担うのか、という問題。スタッフなのかボランティアなのか受益者なのかという、ポジションごとの線引きの難しさ。受益者として来場する場合は受益者負担が原則だが、ボランティアの場合は交通費だけ出すこともあるし、スタッフの場合は法人負担だ。同じ人でも受益者として来る場合とボランティアや時にスタッフとして来るケースもあるのがNPO活動の難しさ。

「私が精神的にしんどいから路駐をしないでほしい」という、なんともエゴイスティックな結論になりそうなのですが、これは郊外住宅地で空き家活用をするような団体にはどこも当てはまる問題のような気がします。とことん突き詰めることも、この機会に必要だな、と思いました。

コマデリの小池さんに「ようやく路駐をしないでください、と言うことに決めたんだよ」と覚悟を打ち明けたら、「まあ、路駐しないのは、言ってみれば当たり前のことだから、そのことで申し訳ない気持ちになる必要はまったくないんじゃないの? 路駐出来ないことで森ノオトの価値が下がるわけじゃないし」と、あっけらかん。全くその通りなのだけど、結局「面倒くさくなるから来ない」って言われるのが怖かっただけなのか、という気がしないわけでもありません。

事務局長はクルマを運転しない人です。駅から遠い団地に住んでいて、電車とバスを乗り継いで通勤するか、45分以上かけて歩いたり、自転車を使って通勤しています。「私は、どこ行く場合も、電車やバスで行くのが当たり前なのに、なんで車だけ駐車無料にしないと悪いと思っていたのか、よくわからん」という感想も、言って見れば当たり前のことだな、と思いました。

ここで駐車場については当初の想定運用に戻し、スタッフの通勤用に2台、来客用に1台を原則とし、路駐はお断りする。イベントで来訪者が多い時にはスタッフが公共交通通勤をするなどして、駐車場を調整する、その分来訪者には駐車場代をいただく。仕事先の打ち合わせでの来訪などの場合は事前に交通手段を確認して駐車スペースを手配する、ということで当面運用することにしました。

わたしの住む集合住宅でも、敷地内は私有地で緑のおじさんはやってこないエリアなので、それこそ来訪者や業者、時に違法駐車まで、停めたい放題でした。数年前からそれじゃいかんとなって、空き駐車場を有料で貸し出して駐禁徹底したらスムーズに定着して、団地としては駐車場の貸し出しにより収益が生まれました。新ルールができた当初は慣れるまで多少のストレスはあったのかもしれませんが、数ヶ月経てばルールは浸透し、路駐が少なく過ごしやすい団地になりました。それと同じことなのだと思います。

それから私たちが前後の予定の都合で、関内方面にクルマで行く際は、それこそ高速料金+最大2000円近い駐車料金を支払います。時間をお金で買わねばならないほどスケジュールが詰まっているので、その選択は致し方ない。自分で選んでいることなのです。関内で路駐でもしようものなら、あっという間に罰金です。そして、そのリスクを「場」が背負うことはありません。路駐という行為の構造は変わらないはずなのに、背負うリスクは鴨志田町の場合、私たちにかかってしまうのです。

この路駐問題の詰まる所は、クレームや駐禁のリスクや悶々を誰が引き受けるのかという話で、森ノオト側はリスクと悶々をなるべく手放したい。遠距離の事務局スタッフの勤務時間を最大限確保できるよう駐車場はスタッフ優先にしたい。今、駐車場所の調整でそれぞれの時間がだいぶ取られているので本末転倒状態になっているかもしれないけど、今のうちにそこをがんばって新ルールを徹底すれば、森ノオトの来訪者自身が自分で考え調整してくれるようになるはずだと、信じています。早めにクルマの来訪を連絡してもらえれば駐車場の調整はできるし、同じ方面の人は乗り合わせてほしい。コインパーキングに停めてもらえるとありがたいし、バスで来てもらったらとってもうれしい。環境や健康の観点からしても、公共交通や自転車利用が増えればいいなと思います。

話は飛躍するかもしれないけれど、「拠点の立地が悪いから来場者のニーズに合わせて駐車場を可能な限り確保する」という考え方は、電力需給のピーク確保に似ているな、と思いました。真夏の最も冷房を使用する世帯が多い何日間のうちの日中数時間のために、電力容量を最大化する、というものです。原発が推進されてきた理由に「夏に電力が足りなくなったら困るでしょう?」というものがありました。それはもしかしたら「イベントの際に駐車場が足りなくなったら困るでしょう?」という理屈とそっくりです。おおぜいが来るイベントは月に数回、そのうち数時間。そのために月々の固定費が上回るよりも、来る時間をずらしたり、別の手段を利用することで、ピークカットできるはずなのです。電力も需給調整で全体の容量を減らすことができます。それと同じ理屈です。

省エネ、ローカルシフトを提唱する私たちが、「お客様の便利と快適のために」と容量を増やすマインドに染まっていたことに気付き愕然としました。事務局でひとしきり議論したあと、あるスタッフが、「本当に、なぜ来場者に対して駐車が無料でなくちゃいけないと、とらわれていたのか不思議なくらいですね」と言いました。

駐車場所問題に関するここ一週間の議論と思考のなかで、日本の都市計画と交通の問題や、駅前と郊外のライフスタイルの差、寛容と許容の違い、ルールとマナーとモラル、さまざまなことを考えました。道路交通法のことも調べました。そんな風に思考が広がるのもおもしろいものです。

運用と工夫と、理解を求める発信とで、まずは「拠点拡大と駐車場所問題」を乗り切ろうと思います! 

「(ご近隣への配慮から)路上駐車はやめてください」と伝え、私たちのできる限りの代替案を提案したうえで、その先の判断は来訪者に委ねたいと思います。公共交通を使うのか、近隣のコインパーキングを使うのか、路駐を選ぶのか。ともかく、森ノオトではとことん工夫と調整をやりきってみます。その先に下す選択は、やはり駐車場の拡大なのか、公共交通と自転車利用の文化の拡大なのか。その行く末も温かく見守ってください。

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