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【蝦夷幽世問わず語り】ラプシヌプルクル

洞爺湖の主とされる翼を持つ蛇龍。名前は【有翼の巫者】と言う意味がある。別名のホヤウカムイ(蛇のカムイ)の方が有名かも知れない。また、サクソモアイェプ(夏に語らざる者)と言う別名も持つ。

〈容姿〉
大きさについては定かでは無いが、俵のように胴が太く首と尾が細い(そんな体型の為か、一部伝承ではラプシヌプルクルを【翼が生えた亀】とする説もある)。背中には翼を生やし、鼻先はノミのように尖っていて(カジキの吻のような感じだろうか)立ち木を一突きで粉砕する程の破壊力を持つ。
体の色は薄墨色で、目と口の周辺に赤い模様がある。

〈性質〉
甚だしく荒々しい性格。加えて嗅いだ者が死んだり、全身が爛れ毛が抜け落ちる程の強烈な悪臭を放つと言われる。
その為、人々はラプシヌプルクルが住み着いた沼に【カムイトー】(精霊の沼)と名をつけ、近寄るのを避けた。この場合、【カムイ】の語は【魔神】の隠喩であると同時に、荒ぶる魔物であるラプシヌプルクルをカムイ(≒精霊)と呼ぶ事で怒りを宥め賺す意味も込められていたと思われる。
文化神オキクルミカムイに退治される伝承が残されている一方、疫病のカムイが襲撃した時はその悪臭を武器に疫病のカムイを攻め、遂には追い払ったと言う伝承もある。

〈備考〉
時にはトゥレンカムイ(憑神)となってシャーマンに憑依し、病魔の到来等を告げる事があるが、この際憑依されたシャーマンは頻りに寒さを訴え、「火を焚いてくれ」と繰り返し懇願すると言われる。これは蛇を始めとした爬虫類が寒さに弱い性質をラプシヌプルクルも例外なく有する事に拠る。【夏に語らざる者】の別名はこうした性質に因むもの。
逆に言えば暖かい時期はラプシヌプルクルが活発になると言う事になる。故に夏の盛りにラプシヌプルクルの名を口にしたり、火の傍でラプシヌプルクルの事を語る事は禁忌とされていた。

参考資料
幻獣事典(幻想世界を歩む会著、㈱笠倉出版社)
憑物百怪(水木しげる著、学研)

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