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エドワード・ゴーリーのこと

エドワード・ゴーリーと言う絵本作家を、皆様は御存知だろうか。

アメリカの絵本作家(シカゴ出身、1925〜2000年、享年75)で、緻密な描き込みによるモノクロの絵柄、韻を踏んだ独特な語り口、そして最大の特徴として徹底してシニカルかつネガティブなストーリー展開(最も例外はあるようだが)を得手とする事で知られる。こうした作風に加えて、【エドワード】と如何にもな名前だった事から、周囲からはしばしばイギリス出身と誤解されていたそうだ。
雑貨屋ヴィレッジ・ヴァンガードで一時期訳書が店頭に良く並んでいたので、見かけた事がある方もおありかも知れない。
その描き込みの緻密さは他の追随を許さず、ワタクシの友人はふとした戯れにゴーリーの絵の模写を試みた結果、完成までに都合10時間余りの制作時間と、新品のゲルインクタイプのボールペン2本を費やした。

日本でも訳書が発行された中から幾つかを簡単に解説しよう。
【ギャシュリークラムのちびっ子たち】では孤児院の子供達の不条理かつ淡々とした死を描き、【不幸な子供】では裕福な家庭に生まれた少女の転落と死を、これまた淡々と描いている。
【おぞましい二人】では実際に起きた殺人事件を下敷きにした猟奇殺人犯の夫婦の生涯を、これも淡々と描いている。あまりにも淡々と描かれている為、残酷な筈なのに少しも残酷に感じない。
残酷描写を抑えた作品としては、代表作のひとつ【うろんな客】では反抗期を迎えた子供をペンギンに似た不気味な生き物として描写し、【まったき動物園】ではこれまた不気味な生き物の群れをアルファベットの数だけ列挙している。
先にも述べた通り、大抵の作品はネガティブなストーリー展開に終始し、登場人物が幸福を得る事はゴーリーの作品群ではまず無いと言っても過言は無い。
こうした特徴から導き出される高い芸術性から、日本ではしばしば【オトナ向けの絵本作家】として評価されているが、ゴーリー自身はそう思っていなかったようで、出版社に自著を子供向けの作品として発行する事を懇願して断られたと言う逸話があるそうである。

さて、このエドワード・ゴーリー、生涯独身を貫き、家族らしき存在と言えば飼い猫だけ(ゴーリーは大の猫好きとして有名であり、ゴーリーの作品群でも猫だけは扱いが良い事を指摘する主張もある)だった事でも知られている。これについて、ゴーリーは生前のインタビューにて以下のような趣旨の発言をしているそうである。

「私は自分の性嗜好が、所謂マジョリティに属するのか、それともマイノリティに属するのか判らないでいる」。


この事から、近年ではゴーリーの性嗜好がアセクシュアル…無性愛だったのでは無いか、と言う説が出ているのだそうだ(因みにWikipediaの【無性愛】の項目には、アセクシュアルな著名人のひとりとしてゴーリーの名が列挙されている)。

若し、巷に言われるようにゴーリーがアセクシュアルだったとしたら、作品群でのあまりにもドライな死の描写、特に例え子供でも容赦がない不条理な末路は、全て【愛を知らぬが故】の帰結だったのだろうか。
ゴーリーは既に鬼籍に入って久しい。況して亡くなった時期は今ほど性的マイノリティについての知見は存在していなかった時期でもある。最早真実を確かめる術は無くなってしまった。
前述のインタビューにてゴーリーが述懐した内容は、ゴーリー本人にとっても悩みの種だったようだが、若しもゴーリーが生前アセクシュアルの概念を知る事が出来たなら、その悩みも少しは薄らいだのだろうか。

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