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【詩】天使調理法

ようこそ 迷える同胞よ
今宵は何の相談か
何と、貴方を謗る奴がいる
何と、貴女を嘲る奴がいる


宜しい ならば私が
とっておきの特効薬を
処方して進ぜよう
但し諸君にも少々手を
汚して貰う事になるがね
…構わぬか?


今すぐ家を出て電車に乗り
繁華街の空を凝視して見なさい
必ず"天使"が飛んでいる
掌に余る程度の大きさで重さは皆無


清楚さとは無縁の毒々しい身なりをして
血のような真っ赤な口紅をひいて

…それは言霊
貴君を憎む者が紡いだ
呪いの詞(ことば)が生み出した言霊
言の葉の霊力で貴君を傷つけようと
虎視眈々と機会を狙っている

どの個体でもいい
そいつを一匹捕まえろ やり方は簡単 
向こうが貴君を見て何か言う前に
『地獄に堕ちろ』と一声叫べばいい

捕まえたら直ぐにお帰り
鍋に湯を沸かして待っているから
貴君は捕まえた天使を
生きたままバラバラにして仕舞いなさい
味を落とさぬ為には
為るべく直ぐに死なさない事だ
先ずは埃にまみれた汚れた翼を
根元から毟り取り
次は両目を抉り取り
両手両足の爪も引き剥がして
最後に心臓を抉り取って仕舞いだ


血は骸に残してはいけないよ
それは毒だから
口に入れたら最後
貴君も同じ"天使"になる


血抜きが済んだら後は簡単
煮え立つ鍋にそいつを放り込んで
ぐずぐずに煮え爛れるまで
ひたすらとろ火で煮込むだけ


調味料は塩と胡椒とナツメグ
ヤモリの目玉にネズミの尻尾
黒ヤギの脳味噌に貴君が流した涙
最後に銀の十字架も忘れずに


この特製スープを一口飲めば
罵詈雑言など気にならなくなる
言霊を殺して食べたのだから
罵詈雑言の威力を貴君が凌駕した事になるのだ

また眠れぬ夜が来たなら来るといい
いつでも相談に与ろう
それじゃ…おやすみ

(初出は2007年。再公開に辺り若干改変)

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