見出し画像

片手で卵を割る

ワタクシは両手を使って卵を割る事が出来ない。

自律神経失調症が出始めて四肢弛緩を発症するようになってから、左手のコントロールが上手く行かなくなった為だ。
両手で卵を割ろうとすると左手の力が強過ぎて卵を潰してしまい、崩れた黄身が白身に混ざってどろりと零れ落ちる結果になる。
オムレツやスクランブルエッグを作るなら未だしも、目玉焼きを作る時にこうなると興醒めも甚だしいものがある。黄身が半熟の目玉焼きを作って、温かい米飯の上で黄身を割ってやろうと思ったのに、白身と黄身がモザイクになって凝固した目玉焼きが完成してしまうのだ。いや…こうなってしまっては最早目玉焼きとは呼べまい。何と呼べば良いのか。

そんな訳で、ワタクシはいつの間にか利き手の右手だけで卵を割るようになった。
勿論右手も完全な状態では無いので、たまに力の入れ加減を間違えて黄身が潰れたり、割れた殻が混じって慌てて菜箸で取り除いたりする事はあるのだが、然し両手で卵を割る時よりもかなり成功率は高い。
近頃では身体表現性障害を発症し、料理をしている間でさえ片手で壁に触れて支えとしないと下肢の弛緩によってよろけてしまうので、尚の事片手で卵を割る行為はワタクシにとって必須となっている。

元々、家禽のニワトリの卵の中でも卵用種のそれは鳥類の卵の中でも極めて殻が薄いのだそうである。これは品種改良の過程で大きな卵を生むニワトリを選択した結果、元々の卵のサイズから大きくなった一方で殻を構築するカルシウム等の含有量が然程変化していない事によると聞いた。因みに同じニワトリでも、愛玩用に改良され野生種と然程体のサイズが違わないチャボは、卵用種のニワトリより小さな(そして野生種のニワトリと然程大きさが違わない)卵を生むが、その殻は卵用種のニワトリ…例えばレグホーンのそれに比べると遥かに固い。
つまり、市場に出回っている(レグホーン始め卵用種の)ニワトリの卵の殻を割る時は、力任せではダメなのだ。繊細と言うか、絶妙なパワーバランスが必要になると言う事である。ワタクシにとって片手割りは、それを解決する良い方法な訳である。
(ウズラの卵を手で割った経験がおありの方なら或いはピンと来るかも知れない。小さい割に卵用種のニワトリの卵よりも殻が固い事に気がつかれたのでは無かろうか)

ところで、某料理系YouTuber氏によると、卵を片手で割る行為は【友達が居なくなる】のだそうだ。
料理が得意な事を鼻に掛ける、そのジェスチュアとして片手で卵を割ると言う行為が定着しているのだと言う。
言われてみれば確かに、昔のアニメでは金持ちの坊っちゃんキャラが料理をする際、片手で卵を割るシーンが多かった気がする。余程古くから定着しているイメージなのだろうか。

アニメでのイメージは兎も角、片手で卵を割る行為について少しばかり面白いなと感じた傾向がある。YouTubeで動画を公開している料理家の皆様の内、片手で卵を割る方は圧倒的に男性が多いのだ。女性の料理家で片手で卵を割る方は、皆無とは言わないが(ワタクシの観測範囲では)極めて稀である。矢張り元々の力量の差なのだろうか。それとも片手で卵を割る行為は男性が持つ粗野なエネルギーのひとつの顕れなのだろうか。ワタクシには判らない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?