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バッファロー文で頭の体操(1)

こんにちは、川津です。
この記事では、ちょっと遊び心を出して、「バッファロー文」を使って遊んでみたいと思います。翻訳関連のお役立ち情報を綴るnote連載ではありますが、たまには実務翻訳から離れて羽根を伸ばしてみませんか。

バッファロー文とは

Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.

言語学分野における超有名な例文です。一見すると意味不明ですが、文法的には正しく、buffaloという単語の3つの意味(動物名、動詞「怖がらせる」、地名)によって「バッファロー市のアメリカバイソンは、バッファロー市のほかのアメリカバイソンにおびやかされているが、同時に同じバッファロー市のほかのアメリカバイソンを怖がらせている」という関係性が成立しています。
(この文が発案された経緯などについてはこちらのWikipediaの記事に分かりやすくまとまっているので、興味のある方はご覧ください。)

地名、動物、動詞を言い換えると、多少わかりやすくなります。

[Those] (Tokyo cats) [whom] (Tokyo cats intimidate) intimidate (Tokyo cats).

解釈はいくつか可能です。「同じ地域の中で上位、中位、下位の3グループがあり、上が下をいじめている」という解釈もできれば、「2つの個体群が互いに怖がらせ合っている」という読み方も許容されます。

さて、この記事では、このバッファロー文を読んでいきたいと思います。品詞の見極めに頭を使いそうで楽しみですね。
とはいっても、上記のバッファロー×8はすでに解釈が済んでいますから、ここでは「バッファロー」の数を変えていって、意味がどのように変化するか見てみたいと思います。まずはバッファロー×1。次はバッファロー×2、というように。
なお、文の数があまりにも多くなるのを避けるため、「バッファロー市」、「バイソン」、「怖がらせる」以外の意味でのbuffaloは使用しないこととします。うっかり使ったら、一体何通りになるかわかったものじゃありませんから!

バッファローとは(補足)

動物の種名です。辞書的な意味ではスイギュウなのですが、アメリカ・カナダではバイソンも俗称としてバッファローと呼ばれることがあるそうで、ここではアメリカバイソンのこととして記載しております。

それでは早速、取りかかりましょう。まずは1頭から。なお、構造を把握しやすいように、Tokyo、cats、intimidateを使用した読み替えを併記しております。
数が増えるほど解釈の数は増えていきます。心のご準備はよろしいでしょうか。

バッファロー×1

Buffalo.
・バッファロー(Cats)。
・バッファロー(Tokyo)。

今回は集合名詞としてのバッファローか、地名としてのバッファロー(市)です。
動詞の命令形「怖がらせろ(Intimidate)」である可能性もゼロではありませんが、この動詞は他動詞ですので目的語が必要です。会話文ならともかく、書き言葉では1語のみで書かれることはないでしょう。主に書き言葉を解釈していく記事シリーズですので、ここでは記載を控えておきます。

バッファロー×2

Buffalo buffalo.
・バッファロー市のバッファロー(Tokyo cats)。
・バッファローという種を怖がらせろ(Intimidate cats)。

要素が足りないので、まだ命令形止まりです。しかしこの時点で、バッファロー文がこれから肯定文・命令文・名詞句の3パターンで展開するであろうことが薄っすらと予想されます。

バッファロー×3

【命令文】
Buffalo Buffalo buffalo.

・バッファロー市のバッファローを怖がらせろ。
(Intimidate Tokyo cats)
お気の毒。しかし、バッファロー市が野生のバッファローの流入で困っていた可能性もあります。現実的な対策としては、やはり棲み分けでしょうか。

【肯定文】
Buffalo buffalo buffalo.
・バッファローという種はバッファローという種を怖がらせる。
(Cats intimidate cats)
こちらも文としては無事成立しました。ただ、バッファローが、まるで単独行動する縄張り意識の過敏な動物みたいになっちゃいました。バッファローってそんな動物だったっけ。

【名詞句】
(該当なし)
buffaloは形容詞として使うこともできるそうなんですが、冒頭の断り書きどおり、ここではその意味では使用しません。ですので、該当なしといたします。
とはいえ、このように文ではなく名詞句の可能性を疑う方法は実際の翻訳業務でも有用です。

バッファロー×4

【命令文】
Buffalo
buffalo buffalo buffalo.
・バッファローという種が怖がらせるバッファローを怖がらせろ。
(Intimidate cats cats intimidate)
バッファローの中でも特異的にいじめられやすい個体群が、泣きっ面に蜂な目に遭いそうな展開に。

【肯定文】
Buffalo buffalo buffalo buffalo.

・バッファロー市のバッファローはバッファローという種を怖がらせる。
(Tokyo cats intimidate cats)
何か特に凶暴な個体群なのかもしれません。バッファロー市の奴らには近づくな、恐ろしい目に遭うぞ!

【名詞句】
Buffalo Buffalo buffalo buffalo.

・バッファロー市のバッファローが怖がらせるバッファロー。
(Cats Tokyo cats intimidate)
そういうバッファローが居るんでしょうね。近接する市にでも。

バッファロー×5

【命令文】
Buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo.

・バッファローという種が怖がらせるバッファロー市のバッファローを怖がらせろ。
(Intimidate Tokyo cats cats intimidate)
全世界のバッファローにとどまらずその他生物からもおびやかされる、バッファロー市のバッファロー。こちらも気の毒。

Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo.
・バッファロー市のバッファローが怖がらせるバッファローを怖がらせろ。
(Intimidate cats Tokyo cats intimidate)
地名位置変われば意味変わる。こちらでいじめられているのは、バッファロー市のバッファローとは限りません。

【肯定文】
Buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.
・バッファロー市のバッファローは、バッファロー市のバッファローを怖がらせる。
(Tokyo cats intimidate Tokyo cats)
同じ地域に棲んでいる者同士、警戒しあっている図になりました。餌場が競合しやすそうですし、仕方がないですね。

Buffalo buffalo buffalo buffalo buffalo.
・バッファローという種は、バッファローが怖がらせるバッファローを怖がらせる。
(Cats intimidate cats cats intimidate)
文法的には問題ないが意味不明な文、というのが初めて出現しました。聞きかじりですが、「無色の緑色の考えが猛烈に眠る」みたいなタイプです。「バッファローが怖がらせるバッファロー」はいいとして、冒頭のbuffaloも、修飾句がつかないので「バッファローという種」という意味になります。その結果、「自分がいじめる群れを自分はいじめる」のような冗長な内容になってしまいました。

【名詞句】
Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo.

・バッファロー市のバッファローが怖がらせる、バッファロー市のバッファロー。
(Tokyo cats Tokyo cats intimidate)
語順が変わっただけで、先程の肯定文の被害者側がクローズアップされました。文としては問題ないですね。

Buffalo buffalo buffalo buffalo buffalo.
・バッファローが怖がらせるバッファローを怖がらせるバッファロー。
(Cats [whom] cats [whom] cats intimidate intimidate)
相当読みづらくなりますが、関係代名詞節を入れ子にするなんてことも可能です……一応……文法的には。ただし普通の人なら読むことを放棄するでしょう。
なお、面白いのは、さきほどの肯定文の2つ目のような意味不明な文章ではないということです。ここでは、3つ目のbuffalo以外がすべて修飾句に紐付いているので、その意味範囲が限定されています。
無理やり解釈すると、「バッファローという種全体から特異的にいじめられやすいバッファローの個体群がいるが、その個体群は別の特定の個体群に対してのみ反撃することがある」というシチュエーションになります。
いい加減ややこしくなってきました。

後編に続く

集合名詞の範囲が修飾次第で変わっていくのが実感できる試みとなりました。 そろそろ記事も長くなったので、続きは後半の記事に持ち越しといたします。
バッファロー×6のファンタジックな世界が見たい方は、続編をぜひ。



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