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ソフトウェア開発とは心の所作

本記事は あじゃてくあどかれ2021 Advent Calendar 2021 のDay.8です。アドベントカレンダーへの参加を@あやなるさんから誘い受けたのは12月初旬なのですが、ボヤッとしているうちに枠もそこそこ埋まってしまったので空いてるDay.8に飛び込みます。ソフトウェア開発への感想またはエッセイ(随想。かきたいことを書くコーナーのことでオチもヤマもない)です。

思い返すとアジャイルソフトウェア開発とはじめて出会ったのはデブサミで角谷さんの講演を聞いたときのような気がします。当時、私は超がつくほどわかりやすいウォーターフォール開発の中にいて、おぼろげながらアジャイルはソフトウェア開発の新しい流れだろうなと講演を聞き入っていました。

もっとも、自分なりの解釈が固まったのは後年に経験を積んでからで、しばらくの間は四苦八苦が続きます。大体のソフトウェア開発者にとってプロジェクトとは生き物で、ソフトウェアデプロイメントというのは正解がない中なんとかしてもがく世界なんだという感覚はありそうです(勘違いかもしれない)。

技術書典の運営をテーマに話したよ

Agile Tech EXPO - New Normal Agile Episode 2 -では技術書典について話したわけですが、自身が関わるDroidKaigiや技術書典という組織での運営は特にソフトウェア開発プロセスからすると異質な要素が多く、鴨の水掻きならぬ普通とは異なるデプロイメントがあります。また報酬形態、ありていにいうとお金ではない価値観と共にする部分が大きい。お金ではないと聞くとOSSプロジェクトなどが近いと感じるかもしれないですね。

コミュニティのよるカンファレンスでは、ソフトウェア以外にもサービス提供者としてエンジニアが関与し(かつエンジニアという役割を超えて)カバーする範囲が広がります。イベントに必要ならなんでも、オペレーション・CSまわりも全部やるわけなので専門性がない領域へ、一気にアクセルを踏み込むという特殊性が特徴です。

そのような専門外の環境は当然負荷が高く、ストレスの原因となり、金銭的なメリットが得られにくい報酬体系という制約が加わるとプロジェクト運営の難易度が高いエリアに属しています。安定的な運営となると、それはそれは難しい。特定のキーパーソンに責務が集中して長期にわたったサポートが困難というのはよく見聞きします。

そして規模が拡大すると内部統制、セキュリティ対策、対外交渉、コンプライアンス、プライバシー保護と、考える問題も多様となりソフトウェアエンジニアのもつ専門性が役に立たない世界に突入します。

このようなケースでは、ソフトウェアエンジニアの得意とする(はずの)論理的思考、学び続ける姿勢を活かした知らない土地を開拓する方法論が必要です。不慣れな土地で走り回る準備運動ですね。

ようやくソフトウェア開発手法の話に戻るわけですが、近年の開発手法は、不慣れな土地での振る舞いを意外としっかりサポートしてくれているなぁと感じています。つまるところ大ゴケして死なないようになっています(もちろん完璧ではないので、たまに炎上します。ヘタだとずっと炎上します)。

デプロイメントを小さくし、プロジェクトの繰り返しのなかに目標設定、進捗管理、振り返りなど(小さな)失敗ができる仕組みがはいってるんですよね。精度をあげていく取り組みができるのは、ストレス緩和にとても良い効果があります。そのためには相手に対する信頼、委譲という組織的なものや、方向性を定める意思決定・ブレないようにするKPIなどの目標管理ツールなどソフトウェア開発にまつわる分野の知識が生きています(もちろんソフトウェア開発だけのための知識ではないですが)。

繰り返しの間隔が短くなればなるほど有効に機能するので年次カンファレンスとかだと正直キツい側面があるんですが単一の役割に閉じず、多角的にチャレンジすることで、ある程度カバーできる。色んな方向から自分を鍛えられると伸びしろを感じられるんじゃないかなぁとの感覚とともに、総合格闘技じみた環境がちょっと楽しくなる瞬間が生まれます。もちろん金銭的な報酬は重要なフィードバックなんですが、あくまでフィードバックの1種であってコミュニティへの所属や共感、満足度という無形のフィードバックを軽視していい理由にはならないというのも学んだのも、このあたりからです。

2022年1月には技術書典12もあるよ(出展申込は終了)

さて、これまでの経験・感想というかたちを借りましたが、ソフトウェア開発の知識をつかってエンジニアが社会に飛び出して、各分野で貢献できると理想であるという、そのようなぼんやりとした気持ちを一般化し、わかりやすく表現し、高らかに謳い上げた筆頭が2001年のアジャイルソフトウェア開発宣言だったのでは、と宣言から20年越しに気づきました。

技術書典の統計情報をみるといろいろ気づかされます。「著者が好きなものを本の形で作ると、周辺に100人ぐらい集まってきて、一緒になって、その本を読むんでいる」。誰かが欲しい物を作ったら喜ぶ人がたくさんいるという不思議な空間になりました。1となる作者が100の読者を生むわけです。10Xでも難しいのに100Xですよ。このようなコミュニケーションを目の当たりにすると「いやマジで世の中って全然わかんねぇな。とにかくすごいぞ」と感じざるを得ません。

ソフトウェアの力や知識を使って開発、運営しているのは、ソフトウェアに限らない科学や趣味、そしてものづくりといったまだ見ぬ技能に出会える瞬間を期待しているからで、私自身も無形の報酬を楽しみにしている一人です。

(了)


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