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オンライン診療から薬の1時間配達まで。ユーザー3億人超えの中国医療サービス「平安好医生(Ping An Good Doctor)」徹底解説

日本国内で遠隔診療の話題が盛り上がってきているので、世界で最もユーザー数を抱える遠隔診療サービス(正確にはもっと広くカバーしてますが)「平安好医生(Ping An Good Doctor)」についてまとめてみます。

オンライン診療から薬の配達手配まで。医療のワンストップサービス

まずはわかりやすく「平安好医生」に出資しているソフトバンクの決算資料より引用。ちょっと古い資料ですが。

【書き起こし】2018年3月期 第3四半期 決算説明会(前編) より引用。ちなみにIPO申請中となってますが、2018年5月に香港市場に上場済みです。

上の資料は古いからなのか単純化のためなのか分かりませんが、他にも病院の検索や予約などもカバーしています。詳しいサービス内容はこちら。

快速問診:オンライン上問診サービス。病院に行くべきか、何科が良いかがわかる。
探医生:実際に掛かった人のクチコミや評価を見ながらドクター単位で予約受診
閃電購薬:処方薬のEC
健康商城:サプリや処方不要の漢方薬のEC。
健康頭條:健康に関する様々なヘッドラインをチェックできる。
等々。
引用:中国・平安保険のアプリ「好医生」とは- デジタルがリアルを包み込むってどういうこと?第3回

上記記事には、「平安好医生」を使うとどんな医療体験をたどるのかが詳しく書かれています。ちょっと長いけど生々しさが伝わると思うので、まるっと引用させていただきます。

体調が悪くなってきたな…、これ、病院に行ったほうがいいのかな…、というタイミングではまず「快速問診」を使います。ノロウィルスなどなら、よっぽど重症でない限り家で寝ていた方が良かったりするわけですが、この判断が素人には難しい。「快速問診」を使うことで、オンライン上で医師に相談でき、病院に行くべきか、行くなら何科が良いかアドバイスをもらえるわけです。(中略)
病院に行った方がいいとなったら次に使うのが「探医生」。この程度の症状なら大病院で7日待つ必要はなさそうだけど、じゃあ近所のクリニックの、どこに行くのが良いか…。「探名医」なら、近所のクリニックの、病院単位ではなく、医師単位で口コミを確認することができます。「クチコミを信じて行ってみたら変な先生に当たった!」が防げるわけですね。同時に、医師単位で診療の予約をすることもできます。(中略)
診察が終わったら、薬局に行って薬を購入することもできますが、「閃電購薬」で処方薬を購入し、家まで届けてもらうこともできます。しんどい時には薬局の待ち時間が辛いわけで、これを省略できることは、とてもうれしいですよね。
引用:中国・平安保険のアプリ「好医生」とは- デジタルがリアルを包み込むってどういうこと?第3回

こんな感じで、「平安好医生」以外のアプリを触らずに診療から薬の処方まで対応してもらえるわけです。

2015年と古い資料になりますが、各機能の画面が整理されてるもの見つけたので貼っておきます。

資料:Ping An Good Doctor(Oliver Wang) Dec.2015

オンライン診断

予約

受付

※ヘルスモールなど他機能は、記事の後半で紹介します。

登録者3億1500万人、月間利用者6,690万人、有料会員2,669万人

2020年2月上旬に、2019年末時点での数字が報告されています。それがこちら。中国の人口に支えられてるとはいえ、やばい数字が並んでますね。

登録者数:3億1500万人 前年比19%増(5000万人増の記載から概算)
月間アクティブユーザー数(MAU):6,690万人 前年比22.3%増
月間課金ユーザー数(MPU):2,669万人 前年比26.0%増
平均年間有料会員化率:4.0% 前年比0.4%増
1日の平均問い合わせ件数:72.9万件 前年同期比36.3%増
参考:平安好医生2019年营收50.65亿元,亏损持续收窄,在线医疗收入同比增长109%

2020年に入ってからも、新型コロナウイルス流行の影響も受けて、さらにユーザー数・利用者数を伸ばしています。

The platform – already China's largest by registered users – recorded an increase of 10 times in the number of new registered users every day on average between January 22 and February 6, compared with the first 21 days of January, the company said.
(このプラットフォームはすでに中国で最大の登録ユーザー数を誇り、1月22日から2月6日までの1日の平均新規登録ユーザー数は、これまでと平均して約10倍の増加オンライン診断も、同じ期間に平均9倍に増加しました。)
引用:Ping An Good Doctor, China’s largest health care platform, reports jump in users amid coronavirus, smaller than expected annual loss

下図からもわかるように、他サービスと比較しても圧倒的なアクセス量となっています。

データ分析企業Analysysが3月末に発表した報告によると、平安好医生の1日あたりのアクティブユーザー数(DAU)は542万7000人で、オンライン医療分野のトップ10企業の中で1位につけており、2位~10位の企業のDAUは10万~18万人にとどまっている。
引用:オンライン医療「平安好医生」、株価が再び新高値更新、時価総額約1兆4000億円に

オンライン診療は「AIチャットの簡易診断」+「専門医」の二段構え

「平安好医生」のオンライン診療の体験談も公開されていたので共有。AIチャットが問診票のヒアリングをして疾患領域の選別、その領域を専門とする医師のリストから利用者が口コミや相談費用を基に受診する医師を選択し、チャットでより詳細な診察を受ける形になります。

医師の選択画面
平安好医生(PingAn GoodDoctor)を活用して受診!20分で診察完了、診察結果は日本の有名医療機関と一致! より引用

平安好医生のオンライン診療システム(AI+専門医)は、スマホアプリだけでなく自動販売機型診療サービスも提供しています。

【ついに】オンライン診療 中国No.1の平安グッドドクターをウォッチ開始!【2019年8月版・後編】 より引用

サービス内容はこちら。診断だけでなく、場合によっては薬もその場で入手できるわけですね。すごい。

Each PAGD One-Minute Clinic includes an ‘AI Doctor,’ trained to collect data on patient symptoms and medical history through voice and text input, after which one of Ping An’s human doctors provides remote diagnoses, medical advising, and immediate online prescriptions.
各PAGD One-Minute Clinicには、音声とテキスト入力を通じて患者の症状と病歴に関するデータを収集するようにトレーニングされた「AI Doctor」が搭載されています。その後、Ping Anの人間の医師の1人が、遠隔診断、医学的アドバイス、および即時のオンライン処方を提供します。)
The 24/7 compact, 3-square meter booths also contain more than 100 categories of common drugs, purchasable through a vending machine. In case that the medication necessary for a patient is not there, it can be ordered online through the Ping An Good Doctor app.
(24時間年中無休のコンパクトな3平方メートルのブースには、自動販売機で購入できる100種類以上の一般的な医薬品も販売されています。患者に必要な薬がない場合は、Ping An Good Doctorアプリからオンラインで注文できます。)
引用:PING AN GOOD DOCTOR ONE-MINUTE-CLINICS

いっけんオンラインに見えない地域密着サービスをぶち込んでくるのが中国っぽくて面白い。でも、おそらく日本の方がスマホ使えない人多いので、加藤先生が言ってる「公民館での診療を」みたいな論点は重要になると思います。

ちなみに中国でAliPayと並んで普及している決済サービス・WeChatPayは2017年時点でお年寄りの半数弱が使ってます。TikTok(抖音)をおじいさん、おばあさんが楽しそうに使ってる状況とかを見てると、ネットリテラシーの差を感じます。

WeChat Impact Report 2018 shows impressive social impact より引用

AI診断は「WONCA(世界家庭医機構)」の最高水準の認証を取得

専属医師や提携病院をたくさん抱えていることが目立ちがちですが、「平安好医生」は自分たちのことを「移动医疗+AI」(モバイル+AI)と表現しており、AI診療の開発に注力してるように見えます。

自社開発のAI支援診断・治療システムは最大3000件の疾患の診断・治療知識をカバーし、6億7000万件の相談が蓄積されていることが明らかになった。
参考:平安好医生发布2019年可持续发展报告 疫情期间平台访问人次达11.1亿

前述のように1日平均70万件以上の相談をAIで受け付け、専門医の診療で答え合わせをしているわけで、教師あり学習をゴリゴリ回してる状態です。

From Ping An to Platform:Technology Innovation for Growth
※2017年11月の資料。親会社の平安保険全体の戦略を知るにも有効

2020年4月には、WONCA(世界家庭医機構)から最高レベルの認定を受けたことを発表しています。

On 7 April 2020, Ping An Good Doctor announced that it received the highest level of certification by WONCA, the world's largest family physician organisation, for its AI healthcare system.
(2020年4月7日、Ping An Good Doctorは、AIヘルスケアシステムについて、世界最大のかかりつけの医師組織であるWONCAから最高レベルの認定を受けたと発表しました。)
The organisation's first-time awarding the certification to a Chinese medical system symbolises the alignment of China's intelligent AI health technology with international standards and that Ping An Good Doctor's AI system meets the world's highest standards for AI health technologies.
(WONCAが初めて中国の医療システムに認定を授与したことは、中国のインテリジェントAIヘルステクノロジーと国際基準との整合性、およびPing An Good DoctorのAIシステムがAIヘルステクノロジーの世界最高水準を満たしていることを象徴しています。)
引用:Ping An Good Doctor's AI System Receives WONCA Certification of Highest Standard

「デジタルヘルスケア倶楽部」で聞いてみたところ、かなりスゴイことみたいです。他にもいろいろ気になる話題が流れてるので、ヘルスケア業界に興味ある方はお勧めです
参考:[ご案内]デジタルヘルスケア倶楽部について

「平安健康医療科技」の事業領域

最後に、「平安好医生」を提供している「平安健康医療科技」の事業領域と売上・利益の内訳をまとめてみます。下記の数字は2019年の半期決算資料より引用、売上と利益は6か月の数字なのでご注意ください。ちなみに2019年の通期売上は50.65億元=750億円になります。

・Online medical services
オンライン診療、病院検索、予約、医薬品配送など。要するにここまで紹介してきた「平安好医生」の事業。有料会員サービスの収益が爆増中。
売上:336,064,000 RMB=50.4億円 前年比 80.5%増
利益:169,669,000 RMB=25.3億円 前年比 108.3%増
粗利率:50.5%

・Consumer healthcare
矯正歯科、美容、遺伝子検査、健康ドッグなどの紹介。ざっくり言うなら保険外医療をカバーしてると考えればよさそう。
売上:387,699,000 RMB=58.5億円 前年比 56.2%増
利益:135,217,000 RMB=20.3億円 前年比 18.8%増
粗利率:34.9%

資料:Ping An Good Doctor(Oliver Wang) Dec.2015

・Health mall – individual consumers
医薬品、栄養アプリ、健康食品、医療機器などのオンライン販売。個人向け。
売上:714,571,000 RMB=107億円 前年比 60.9%増
利益:72,136,000 RMB=10.8億円 前年比 31.8%増
粗利率:10.1%

資料:Ping An Good Doctor(Oliver Wang) Dec.2015

・Health mall – corporate clients
ヘルスモールの法人向け。粗利率は低いけど成長率がすごい。
売上:740,620,000 RMB=111億円 前年比 302.5%増
利益:35,164,000 RMB=5.3億円 前年比 282.2%増
粗利率:5.0%

・Health management and wellness interaction
ユーザーの健康データや行動データをもとに、健康的なライフスタイルを提案。粗利率がすごい。
売上:93,705,000 RMB=14.1億円 前年比 55.7%増
利益:79,508,000 RMB=11.9億円 前年比 60.0%増
粗利率:84.8%

資料:Ping An Good Doctor(Oliver Wang) Dec.2015

・事業別の内訳

左が売上比率、右が粗利比率

売上としては物販(Health mallのindividual、corporate)が2/3を占める一方で、粗利はサービス(Online medical services、Consumer healthcare、Health management and wellness interaction)が4/5を占めています。

同社の他事業との連携に加えて、親会社の「中国平安保険」が展開する事業とのシナジーがどう生まれていくか、非常に興味深いです。

親会社の保険最大手「平安集団(Ping An Group)」は1500万人以上の重病保険契約者を抱えており、平安好医生の製品やサービスのさらなるクロス販売や追加販売を行える可能性がある。
引用:連日、株価の新高値更新中のオンライン医療「平安好医生」、絶賛される3つの理由

中国平安保険グループについて より引用

日本企業との提携事例(平安保険グループ含む)

・オンライン診療、ヘルスモール
オンライン診療の日本展開についてはソフトバンクと平安健康医療科技の合弁会社「ヘルスケアテクノロジーズ」を2018年10月に設立しています。2020年中のオンライン診療サービス開始を予定しており、ヘルスモール事業の展開も考えているようです(求人情報より。2020年4月20日時点)

・フィンテック
金融分野では、SBIホールディングスと平安保険グループのOneConnect・An ke Technologyとの合弁会社「SBI OneConnect Japan」を2019年12月に設立しています。事業内容は下記。

OneConnect社のフィンテックサービスプラットフォームはサービスリリースからわずか3年あまりで618の銀行と84の保険会社を含む3,700を超える金融機関等にソリューションを展開しており、中国国内の商業銀行をはじめとした銀行の99%、保険会社の46%をカバーしています(2019年9月30日時点)。
SBI OneConnect Japanは、OneConnect社が有する世界最大級かつ中国国内で実証済の最先端フィンテックサービスプラットフォームのアーキテクチャを踏襲し、かつ日本における各種法令や規制への準拠、およびお客様の情報保護を重視した、フィンテックサービスプラットフォームを日本国内に構築し、銀行・保険・証券等の幅広い金融領域において、フロントからバックエンドまで一気通貫したフィンテックサービスを日本の金融機関向けに展開していきます。
引用:中国の平安グループとの合弁会社設立および日本における事業展開についてのお知らせ

・創薬
塩野義製薬と中国平安保険(またはその子会社)との間で合弁会社を2020年7月末までに設立予定と発表がありました。前述の2つは平安グループが中国で展開している事業を日本に展開する会社ですが、こちらは塩野義が中国・アジアに展開することを目指した企業となります。

塩野義が、その中国平安保険グループとの合弁で行おうとしているのは次の3つの領域だ。①リアルワールドデータ(現実の診療情報)などのデータに基づく後発薬、一般用医薬品を含めた医薬品の開発、②AIを利用した医薬品の製造・品質管理体制の構築、③オンラインやリアルの店舗を活用した医薬品の販売・流通プラットフォームの構築──である。開発した医薬品は中国とアジアで販売していく。
引用:中国平安保険と提携した塩野義・手代木社長の深謀遠慮

まとめ

「平安好医生」のサービス内容と「平安健康医療科技」が展開する事業領域についてまとめてみました。

新型コロナウイルスの流行を受けて、中国のオンライン診療市場はさらに加速するとみられています。

辛氏は、新型コロナの感染拡大がなければ消費者行動の変化にはあと5年ほどかかっただろうとみている。北京のコンサルティング会社、易観集団(Analysys)のチェン・チャオシャン氏の推定では、中国の遠隔医療市場の規模は今年、2000億元(約3兆円)近くと、ウイルス流行前の予想の1580億元から急拡大する。
引用:オンライン医療 急拡大する中国(The Economist)

オンライン診療の動向については、引き続き追っていきたいと思います。

執筆:@tech_nomad_

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