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米国の医療の質ガイドラインから考える、今後のデジタルヘルスケア

デジタルヘルスケア/ヘルステックの分野に興味を持つ中で、医療制度についても勉強を始めました。何かの分野でテクノロジーが導入されるきっかけの1つは間違いなくお金の節約であって、医療制度を通じてお金の配分や流れを把握したほうが良いと思ったからです。

今回は先日参加したH3勉強会(Healthcare Hackathon Hub)で出てきた話題の中から、米国の医療改革の1つとして導入されているACO(Accountable Care Organization)について、その内容やそれをヒントに考えたデジタルヘルスケアの今後について書いてみようと思います。

ACOは「医療の質を担保した上で医療費を節約したら医療提供者が報奨金を得られる」仕組み

まず、ACOの説明を転載します。

2012 年よりメディケアの報酬支払に試行的に導入されているモデルである。具体的には、地域の複数の医療機関や開業医・専門医が一つの医療組織を形成し、特定の住民集団の健康・疾病管理について責任をもつ「かかりつけ医」機能などを提供する。医療組織は対象の住民集団に対し、継続的ケアを提供し、医療の質を高めるために様々な指標を通じて質を管理し、その向上に努めるなどの必要要件を揃えるとACOに認定され、特別な保険支払プログラムが適用される。
ACOでは、担当する患者数等を基に一般的な支払方法で計算される「想定コスト」に対し、「実際のコスト」が下回った場合に差額の一部が当該組織にインセンティブとして払い戻される
引用:社会保障の観点からみた米国医療制度 -特にオバマケアについて-

要するに

・複数の機関や人材が医療組織を形成し、地域住民の健康管理を実施
・健康管理の品質を管理した上で医療費の節約を実現したら、その節約分の一部が医療組織に分配

される仕組みです。

医療の質を管理するガイドライン概要

コストダウンだけ考えると医療の質が下がる可能性があるため、ACOとして認定されるために医療の質を管理するガイドラインが提供されています。

2016年においては、次の 4 つの領域(domain)における34の指標に基づいて測定される。
①患者・医療従事者の経験(Patient/Caregiver Experience)の 8 指標、
②ケアのコーディネートと患者の安全(Care Coordination/Patient Safety)の10指標、
③予防(Preventive Health)の 9 指標
④リスク集団の診療(Clinical Care for At-Risk Population)の7 指標である
引用:現代米国における医療提供体制の改革 ―アカウンタブル・ケア組織とセーフティネット・プロバイダーを中心に―

・医療の質を保つことで医療機関が金銭的インセンティブが得られる
・医療の質は公開のガイドラインで管理される

この流れが米国以外にも展開されると予測すると、「医療の質を保つガイドラインを満たすために役立つテクノロジーは、医療の現場に導入される可能性が高い」と考えることができます。

ここからは、ガイドラインを詳しく見ながら導入が見込まれるテクノロジーについて考えていきます。

(1)患者・医療従事者の経験(Patient/Caregiver Experience)

・タイムリーな診療、予約、情報提供
・医療従事者との良好なコミュニケーション
・医療従事者に対する患者側の評価
・専門医へのアクセス
・健康増進・健康教育の提供
・共同意思決定
・健康状態・機能状態
・患者の財産に対する受託責任

たとえば、AIで問診業務を効率化するサービスを導入することで、

・医者が問診結果をカルテに入力する手間が省ける
・節約できた時間で、患者とより深くコミュニケーションできる

となれば、「医療従事者との良好なコミュニケーション」「医療従事者に対する患者側の評価」の項目を満たす可能性が高くなります。

個人的に面白いなと思ったのは、最後に挙がっている「患者の財産に対する受託責任」について。治療や予防に関するトピックだけではなく、例えば患者の財産を管理するリーガルサービスも対象になりうる。これは今後のデジタルヘルスケアを考える大きなヒントになるように思いました。

(2)ケアのコーディネートと患者の安全(Care Coordination/Patient Safety)

・リスク調整後再入院
・ナーシングホームへの30日以内再入所
・糖尿病患者の意図せざる再入院
・心不全患者の意図せざる再入院
・複数の慢性疾患を有する患者の意図せざる再入院
・COPDまたは喘息による高齢者の緊急入院
・心不全患者の緊急入院
・電磁的診療イニシアティブの対象となったプライマリケア医
・現在の服薬記録の文書化
・転倒リスクのスクリーニング

わかりやすいものだと「服薬記録の文書化」でしょうか。つまり「薬の処方の記録」ではなく「薬を実際に飲んだ記録」です。

医療の質を担保するために、適切な医療行為が行われているかを「薬の処方」に加えて「薬の服薬」情報まで解像度を上げて管理していく。医療の質を高めるために、どの分野のチェックの解像度が上がっていくか。これも今後のヘルステックを考える1つのヒントになると思います。

その一方で「転倒リスクのスクリーニング」という項目があるのも結構興味深いです。

(3)予防(Preventive Health)

・インフルエンザの予防接種
・高齢者の肺炎予防接種
・BMI (Body Mass Index)のスクリーニングとフォローアップ
・喫煙のスクリーニングと禁煙指導
・鬱病のスクリーニングとフローアップ計画
・直腸がんのスクリーニング
・乳がんのスクリーニング
・高血圧のスクリーニングと文書でのフォローアップ
・心疾患の予防・治療のためのスタチン治療

医療費削減に向けて「治療から予防へ」という話はよく聞きますが、予防についても医療の質としてガイドラインに加えられています。

この予防の項目に「運動」「食事」「睡眠」といった健康に繋がると言われる項目が入ってくるのか、は今後気になるポイントです。

(4)リスク集団の診療(Clinical Care for At-Risk Population)

・うつ病患者の12か月以内の再入院
・糖尿病(HA1c)のコントロール
・糖尿病(眼科検診)
・高血圧のコントロール
・虚血性心疾患(アスピリン・その他抗血栓剤の使用)
・心不全(左心室収縮機能障害に対するβブロッカー治療)
・冠状動脈疾患・糖尿病の左心室収縮機能障害に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体遮断薬療法

最後は「リスク集団の診療」。正直ここはいまいち理解が追い付いていないのでちょっとコメントは割愛します。

ガイドラインをメタ的に見る

ガイドラインの各項目の内容に加えて、ガイドラインの運用の観点からさらにヒントを得ることができます。

まずは「ガイドラインを元に医療行為を客観的に評価する方法が必要になる」こと(政府側。正確には政府から受託する事業者側)。そして「自分たちの客観的に評価してもらうために情報を提供する方法が必要になる」こと(医療機関側)です。

この2点についても制度運営の根幹となるため、有用なテクノロジーが出てきた場合に導入される可能性が高いかなと思っています。

まとめ

以上、米国の医療制度の一環となるACOから医療の質を担保するガイドラインを読み、それをヒントにデジタルヘルスケアの今後について考えてみました。(未来を考える方法を考えてみました)

今後も医療制度の勉強進めつつ、デジタルヘルスケア/ヘルステックの今後について考えていきたいと思います。

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