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【技術史】無菌外科手術

19世紀まで、手術の現場はひさんなものでした。暗く、汚く、空気も淀んだ病院で、前の患者が亡くなってもベッドのシーツはそのままです。小さな傷がもとで運悪く感染症になった患者は、腐ってきた手や脚を外科手術で切断する以外、なす術もありませんでした。
当時は、外科手術それ自体の細菌感染がもとで、40%近くの人が亡くなっていました。
こういった状況から近代の医療を生み出したのが、イギリスの外科医ジョセフ・リスターです。当時の医師たちは、下水や汚水から出る悪臭が病気の原因と考えていました。しかしリスターは、原因は悪臭ではなく、空気中に何か目に見えないもの、病気の原因になる物質が漂っているのではないかと考えます。
ある日、フランスのパスツールが書いた論文で、病気の原因は目に見えない細菌であるとする説を唱えているのを読んだ時、殺菌することを考えるようになります。パスツールは、細菌はどこにでもいて、加熱沸騰により死滅することを示していました。しかし、病棟や患者をゆでるわけにはいきません。
リスターは消毒に適した方法を研究し、当時ゴミ捨て場などの悪臭を消すのに用いられていたフェノールに目をつけます。悪臭を消せるなら、“悪い気”も殺せるのではないかと考えたのです。
1865年のある日、11歳の少年が脚の複雑骨折で運び込まれてきました。複雑骨折をすると骨の破片が皮膚を突き破り、必ず感染症になります。当時の常識では、脚の切断がもっとも効果的な手術の方法でした。しかし、リスターは脚の切断だけは避けたいと考え、消毒という新たな試みによる外科手術を選んだのです。手術で折れた骨と周囲をフェノールの水溶液で拭い、フェノールを染み込ませた布を傷口に貼り、金属シートで覆いました。
結果、少年は感染症によって発熱することもなく、良好に治癒したのです。
『参考資料』
https://gendai.media/articles/-/71577?page=1&imp=0

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