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「あいつ」が舌打ちをした理由

「昨日、あいつに舌打ちされた」

息子が口を尖らせて言った。

「何? どういう状況?」

聞くと、息子が一週間休んでいた間に、全校児童の前で発表する時間があり、本来は息子と一緒に前に出て話すはずだった彼、Aくんが、ひとりで発表して大変だった、と言ったそうだ。

それを聞い息子が

「へー。あ、そう。お疲れさん」

と言ったら、Aくんは舌打ちしたらしい。

「君の言い方が嫌だったんだじゃない?」

「でも、だからって舌打ちされて、こっちだって嫌だったよ」

「そうかもしれないけど、まあ、わざと、Aくんひとりに発表させようとして休んだわけじゃないし、君も好きで体調を崩したわけじゃないけどさ、なんというか、結果的に、学校を休んだことでこうなったのだから、謝るというか、悪かったなって気持ちを表した方がよかったのでは?」

「俺の方が、ずっと胃が気持ち悪くてつらかったんだ」

「そうだけどさ」

もうすぐ家を出て登校する時間にその話をされたので、うやむやなまま、送り出すことになった。

今朝のことだ。


仕事を休んで同僚やお客さまにご迷惑をかけた時は、例え、自分が体調を崩して苦しかったとしても

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

と言うのが一般的だろう。

自分も言うし、相手にも、そういう言葉を無意識のうちに期待していると思う。

もしも、そういった言葉がないと、なんとなくモヤモヤしてしまう気がする。

「あ、おはよう。大変だったね」

そう言って

「はい。おかげさまで。お休みいただいて大変申し訳ありませんでした」

そう言われたら

「大丈夫だよ。お互いさまだよ。元気になってよかったね」

なんて言って笑えるけれど、

「あ、はい」

だけだったらどうだろう? え? それだけ? って思うよ、多分。

学校は仕事ではない。通常は、本人の勉強が遅れるだけであって、さほど人に迷惑はかけない。

でも、「一緒に発表する」ってことが決まっていたら、それは仕事に準ずるのではないだろうか?

そんな風に考えて、旦那に話をすると

「それは、謝るべきだと思うよ、俺も」

そう言った。

「そうだよね」


夕方、学校から帰ってきた息子に、

「さっきの話だけど」

と切り出して、悪気はなくても、やはり、それは「悪かったね」って気持ちは伝えた方がよかったと思うよ、と伝えた。

しかし、息子は、自分は悪くないって顔をしていた。

「じゃあさ、逆の立場だったら、逆の立場でさ『お疲れさん』って言われたらどう?」

「ムカつくよ」

「きっと、Aくんもそういう気持ちだったんだよ」

「わかったよ。でももう、その話にあいつとはならないよ」

「わざわざ蒸し返さなくてもいいけど、今度そういう時は、今回のことを思い出してみてよ。悪いことしたわけじゃないのはわかる。具合が悪くてつらかったのも。だから『ごめんね』じゃなくてもいいんだ。『タイミングが悪くて、悪かったね』みたいな感じでも。それだけ言いたかった」

「うん」

これ以上言うとクドくなりそうでやめたけれど、こんな感じの助言でよかったのだろうか?


子どもがだんだんと大きくなると、人間関係も複雑になる。

自分も相手も大事にする人間関係の作り方って、大人でも難しい。

自分の意見ばかり言っても、人の言いなりにばかりなっても違う。

どっちも大事する。

それを実行することも、それを伝えるのは、簡単じゃない。

人ばかり大切にしてないか? 自分勝手なことをしていないか? 私自身もあまり自信がない。

完璧ではない、その前提で、バランスよく……実はそれが一番難しいけれど、息子に考えを押し付けることなく、だけど「こう思うよ、私は」という形で、人生の先輩として、話す機会を増やしていければと思う。

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